第2話 初登板は闇のブルペンから
「どうします、他の『級友』が戻ってくるのを待ちますか」
「そうね。焼死体の検分にも行かなければならないし。伊庭と七尾が戻るのを待って」
「承知。……と、こっちのあんちゃんはどなたで?」
坊主頭の男は、俺を見るともの珍し気に片方の眉を上げた。
「今日からうちに配属になったそうよ。せいぜい、可愛がってやって」
咲に言われ、男は俺の前に進み出ると、腰を落としていきなり仁義を切り始めた。
「捜査壱係の鉄砲玉こと
「よろしくお願いします。寒風寺零です。二年です」
俺が殊勝に頭を下げると、片目の男は「あんちゃん二枚目だな。うちの部署にぴったりだぜ」と言った。
俺が『ヤサ』の冗談に面喰っていると突然、咲の端末が「ジリリリリ」と大昔の映画のようなベルの音を立てた。
「私よ。どうしたの?……そう、わかった。こちらからはレッドとヤサ、それから新人を向かわせるわ。現場で合流して」
咲は通話を終えると俺たちに向かって「伊庭と七尾は出先から直接、現場に向かうそうよ。途中のバリケードが厄介だけど、あなたたちも向かって」
咲の命令に、芯と肇は「了解」と声をそろえて叫んだ。俺が自分を指で示しながら「あの……俺もですか?」と尋ねると、咲は「当然よ。……レッド、武器を用意して」と言った。
「わかりました。ええと、AIニューナンブでいいか?……ほらよ」
俺はレッドが寄越した黒光りする金属を手にすると、撫でさすった。
「撃ち方はわかるか?もしわからないのなら、今ここで教えてやってもいいぞ」
レッドが口にした撃ち方指南の申し出を、俺は「いいです」と断った。
「なぜだ?壱係の人間になった以上、一歩この部屋の外に出たら、誰に命を狙われれてもおかしくないんだぞ」
「それは承知してます。でも俺には銃より使い勝手のいい武器があるんです」
「使い勝手のいい武器だと?」
怪訝そうに眉を寄せているレッドの前で、俺は左の袖を肘まで捲ってみせた。
「……これは?」
「俺の『黄金の左腕』です」
レッドの前に晒した俺の左腕は、肘から先が金色に輝く金属で覆われていた。三年前、不慮の事故で肘から先を切断して以来、俺の左腕は高性能の義手に変わっていたのだ。
「確かに立派な腕だが……それでどうやって敵と戦うんだ?」
俺はポケットから野球の硬球大のボールを取りだし、レッドの前で握ってみせた。
「これは目標に当たると小さな爆発を起こして消えます。こいつでこの『魔球』を、敵に向かって投げつけるんです」
俺はボールを握ったまま、懐かしい投球モーションの真似事を披露してみせた。
「――百発百中ですよ。調子さえ戻れば……の話ですが」
俺はボールをポケットに戻すと「これでも刑事になる前は一応、野球少年だったんでね」と言った。
〈第三話に続く〉
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