転籍の条件


 マハラバードへ凱旋、兵舎でのんびりと休養していた独立歩兵第一大隊は、戦闘に参加した全兵士に五級戦功章が贈られることになりました。


 五級戦功章は終身年金として金貨一枚、小隊長以上は四級戦功章、終身年金として金貨二枚……


「おめでとう、シュルティ中佐、貴官をジャーリアにという話があるが、どうするか?」

 

「……ラレ家の後継者としては……」

「たしかにな……ジャーリアになるということは、『子孫の日』に受胎はできないからな……」


「……申し訳ありません……」


「気にすることはない、ところでだが、ラレ家にはシュルティ以外の一族は存在するのか?」

「四五人ほどおりますが……病弱で……」


「よく『苦難の日』を乗り越えられたな?」


「ラレ家の領地は僻地の山岳地帯、地形を利用して……」

 最初の虫の大規模侵攻に男は全滅したのですが、その後の『苦難の日』を女たちは、一致団結して山中でゲリラ戦のようなことをして、凌いでいたようです。


「もし、その者たちをラレ家の後継者として、旧領である山岳地を、執政官府内の内政自治を認めるとしたら、シュルティ中佐はどうするか?」


「そんな話があるのですか?」

「執政官府に、兵力を提供するというのが条件だがな」


 ?


「執政官府の直轄として、独立歩兵第一大隊は執政官の指揮下にはいる、ということだ」

「よく意味が分かりませんが?」


「執政官府の上部組織は女ばかりで構成されている、『ハレム』と呼ばれているが、ジャーリアとはその構成メンバーということだ」

「その『ハレム』の上部組織は『ホーム』と呼ばれる、その『ホーム』の責任者は、平時の軍事指揮権をもつことになる」


「その手駒として、独立歩兵第一大隊が指名された」

「いやなら、別の事を考えるそうだ」


「なにかあれば、この星以外でも戦うことになる」

「アールヴヘイムン以外でですか……」

「そうなる」


「先ほど『ハレム』と呼ばれる組織の構成メンバーになるといわれましたが、独立歩兵第一大隊の隊員は全員ですか?」

「強制はしないが、いやな者は除隊するか、婦人戦闘団の他の部隊に転属となる」


「承諾した隊員の処遇は?」

「上部組織、ネットワークというのだが、その一員となる、一応、一般女官の一番下、『末女』というものに任官することになる、金貨三枚、年収450万だ」


「三級戦功章と同じですか?」

「そういうことになる、『末女』になり、執政官府に転籍すれば三級戦功章、それ以外は五級戦功章ということだな」


「わかりやすいですね……」

「さらに言わせてもらえば、独立歩兵第一大隊というのは、ラレ家の私兵集団であろう?これから先、婦人戦闘団に居場所はないかもしれない」


「なるほど……」

 シュルティは言外の意味がよくわかりました。

 ラレ家としての共同体を維持する限り、このままではラレ家はラクシュミー内で孤立する……

 いまなら、戦功を認めて、それなりに対処する、ということだ……


「できるならば転籍をお願いします……お願いついでに……」


「これ以上は、私は聞くわけにはいかない……執政官と話をしてくれ」

 アニラ司令官はこのようにいったのです。

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