お墓を少しばかり削り……


「今夜はどこに泊まるのですか?」

「悪いけど、両親、貴女の祖父母のお墓の前で野宿になるわ、でも心配しないでね、私、こう見えてもサムラート様にお仕えするジャーリアなの、それなりの野宿の用意はしているのよ」


「サムラート様のジャーリア……」

「そうよ、だから安心してね」


 二人はお墓の前で、メイド用軍事トーチカポップアップテントを張り、野宿を始めたのです。


「この辺りは野犬が出ますが……」

「このテントは軍事用なの、大砲の砲撃でも大丈夫なのよ」


「それよりなにか食べない、こんな野宿ですから、大したものも作れないけど、カレーでも作りましょう」


 缶カレーを取り出し、お鍋で温めているカーンティさん。

「そういえば、貴女の名前を聞いていないわね?」

「カンガナです」

「カンガナさん、お年は?」

「十一歳です」


「えっ、大人びているのね……女の印はあったの?」

「三月前に……だから父さんと兄さんが私を売ろうと……」


「お料理はできるの?」

「一応は……」


「そう……あっカレーができたわ」

「チャパティも焼くから待っていてね」

 フライパンを出し、冷凍のチャパティを焼き始めたカーンティさん。


「さあ、できたわ♪」


 テントの中でのんびり遅い夕食です。

 いろいろな話をしましたが、カンガナの話を聞くに、甥は兄とそっくりのくずっぷり……

 しかも、借金などがべらぼうにあるようです。


「貴女も私も奴隷ですからね、家族とは縁がきれています、そんなわけであの人たちの借金はやってこないけど、もう売る物もないし、甥はどうするつもりなのかしらね……」


「多分……私の売買代金をもって、夜逃げかと……」

「そうね……どのみち、まっとうには生きられない……いま、この国は食べるのもままならないのよ……」


「でも、この村は食べ物はあるようですが……」

「多分だけど、ここは僻地の山間部、爆撃なんてなかったでしょう?」 

「一度もなかったですが……え、村の外はひどいのですか?」


「……叔母様……私はどうなるのでしょう?」

「とにかくフント租界に行きましょう、何とか部屋ぐらい借りてあげるわ、貴女、ガンダーラの住民になる?それなら仕事もあると思うのだけど?」


「叔母様のお考え通りにいたします」


「悪いけど、そうしてくれる……でも、そうなると、このお墓にはめったに来れなくなるけど……しかたないか……」


 翌朝、二人はお墓に向かって手を合わせました。


「お母さん、これでお別れになるわ、お父さんとは話もしたくないけど、たぶん生活が苦しかったのね……」

「カンガナは責任もって私が面倒をみますが、甥はもうどうしようもありませんよ」


 カンガナも、


「おじい様、おばあ様、お母様、私は叔母様とご一緒にガンダーラへまいります、これが最後です、どうか安らかに天国でお過ごしください……」


 カンガナさんのお母さんもお墓に入っていたようです。


 ここで何を思ったのか、カーンティさんはハンマーなど取り出して、お墓の隅を削ったのです。

 

「お墓の一部を持っていくわ、だから……私たちと一緒に来てね……」


 そして、お酒など振りかけて二人はお墓を背にしたのです。

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