帰る家はもはやない


 ぶつかった相手は女衒(ぜげん)でした。


「しのごの言わずについてこい!」

「貴女、許可は得ているの?正式の女衒(ぜげん)なら、簡単に売る女を変えられないけど?」

「うるさい!痛い目にあいたくなければついてこい!」


「そう、違法な人さらいね、兎に角叩きのめしても問題ないようね」

「なに!」


 カーンティの周囲が渦巻き始めました。

 そして大地が凍り始め、女衒(ぜげん)の足が凍結を始めます。


「このままじっとしていないと足がちぎれるわよ、さて村長さんにどうするか相談にいてくるわ」


 カーンティはそのまま村長の家に、ことの顛末を伝え、善処をお願いすると……

 自警団が女衒(ぜげん)を引き取るとのことでした。


「カーンティ、いや、いまではカーンティ様か、貴女の兄も違法取引に関与したことになり、処罰の対象となる、含みおきいただきたい」


「兄の身内はどうなるのですか?」

「あの者の嫁は去年死亡している、息子はろくでなしで、親父と共謀して娘を売ったのであろう、違法と知らなかったので黙認していたのだが……しかし、親父は処罰できるが、息子は……どうなるかはわかるであろう?」


「娘、私の姪が売られるというわけね……」

「どうする?」

「村長はたしか女衒(ぜげん)の資格を持っていましたね……」

「村長だからな……褒められないが、頼まれることもある、できるだけいい相手を探すが……」


「責めているわけではありません、村長は私を『いい相手』に売ってくれたことを感謝しています」

「で、姪を私に売ってください、勿論仲介料は支払います」


「なるほど……それが一番いいかもしれん……」


 村長はすぐに手続きしてくれました。

 姪の値段は『並み』として、廉価に査定してくれたのです。


「貴女も私も兄に売られる定めなのね……でも安心なさい、私は貴女の叔母なのですから……」

 ララさんを思い浮かべたカーンティさんです。


「じゃあね、もう二度と会いに来ないわ、甥といえど愛想が尽きたわ、村長にいって籍を抜いたわ、私もこの子も身内ではなくなったわ」


「じゃあ、墓参も遠慮しろ!」

「わかったわ、でも今夜一晩、これで我慢しなさい!」

 なにがしかの金銭を投げて、姪を連れて両親の家をでたカーンティさん


「二度とくるな!」

 罵声が背中に飛んできました。


「兄さん……」

 姪はしくしく泣きだしましたが、しばらくすると、

「叔母様、もうあの家は私の家ではなくなりました、私の身内は叔母様だけと思ってよいですか?それとも私は奴隷なのですか?」

「勿論、私の可愛い姪よ」

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