懐かしい両親の家


「兄が一人いますが……私を売り飛ばして……」

「ごめんなさいね……いやなことを聞いたわ……」

「いえ……でもラージマータ様を見ていると……両親のお墓に一度も行っていないので、今度行ってみようかと……奴隷では墓参りもできませんので……でもいまなら、私はサムラート様にお仕えする身、両親は祝福してくれるかと……」

「きっと、お喜びになるわ、行ってきなさいな……」


 その夜、ララさんが話したようで、

「ララさん、カーンティさん、先ほどパールヴァティさん様にお願いして、二人に休暇をもらったわ、三日だけだけど、叔母様へのご挨拶とか墓参りとかにいってきなさいな」


「ララさんのお給料はまだだけど、これを受け取ってね」

 二人に金貨2枚をくれたのです。


 いくら側女待遇格子といえど、金貨4枚は大金です。


「いいのよ、私、あまり使わないから、たまっていたの、私からの感謝なのよ、受け取ってくれないと困るわ」


 で二人は押し頂いて……

 翌朝、

「では行ってまいります」

「ゆっくりしていってね、私も母と二人、水入らずで過ごすから♪」  


 王都フントから、カーンティの故郷まで、列車で半日、それからバスで四時間、最後に歩いて一時間……

 宿屋もないので、兄の家にご厄介になるしかないのですが、カーンティは両親の墓の前で野宿するつもりです。


 こんな時に、頼りになるのがメイド用軍事トーチカポップアップテントなるもの、高いのですが、こんな時に申請すればリースができるのです。


 故郷についたのは夕刻、一応、いやいやですが兄に挨拶をしに行きます。


 兄は家にいました。

 懐かしい両親の家です。


「兄さん、カーンティです、ご主人さまのお許しをいただき、両親の墓参りにきました」

「ご主人さまのお許し?いまどきそんな主人がいるのか?お前、逃げ出したのではないのか?なら早く帰ってくれ、俺には逃亡奴隷の賠償など払えん!帰れ帰れ!」


「私のご主人様とはサムラート様です、こう見えても私ジャーリアです、兄さんといえど、サムラート様の物を侮辱するなんて、許されませんよ!」


「……そうか……なら早く済ませて帰ってくれ……人がやってくるのだ……」

「そうですね、どのみち、このうちには泊まりませんから、失礼します」


 で、家を出ようとすると、誰かが玄関から入ってきて、ぶつかったのです。

「失礼しました」


「お前、この家の者か?」

「そうですが、なにか?」


「綺麗な女だな、極上の女だ、おい、うっぱらうのはこいつに決めた」

「どういうこと?うっばらう?兄さん、まさか……」

「そいつは娘を買いに来たんだ、手付はもらっている……」

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