うらやましい母娘の絆


 カマラと話をしたラージマータは、元気を取り戻したようで、

「さあ、短い間でしたが、お世話になった屋敷の掃除でも致しましょう!綺麗にしてお返ししなくてはね♪」

「小さい家ですから、三人で行えば昼前までには終わるでしょう」


 事実、一時間ぐらいで掃き掃除、拭き掃除は終わりました。


「手荷物はないのですか?」

「王家としての物は全て置いてきました、ここにあるのは私物ばかり、家具や食器はほとんどこの家の物なのよ」


 ラージマータは私物だけ持って、ここに移ったようです。


「ララ様は?」

「私も私物ばかり、あっ、メイド服は餞別代りにいただきましたけど」


 二人ともボストンバック一つぐらいのようです。


「なにかご飯でも食べましょうか?」

 ララさんが提案しましたが、

「女官は非常食料がいつでも取り出せるのです、お二人も使えるようになるでしょうが、とにかくそれを取り出しますので、昼ご飯はそれにしましょう」


「位で出せるものが変わってきますが、私が出せるものはこのぐらいです」

 チケットを使い、カタログシステムから購入、ロングライフのパンや缶牛乳などを『小さいカバン』から取り出しました。


「どうぞ」

「どうぞといわれても……」

「この袋から取り出して、そのまま食べてください、こちらの缶は牛乳の缶詰で、缶切り不要です、こうして開けてください」


 カーンティがいろいろなパンを取り出して、三人で食べていると、お迎えがやってきました。


「さあ、引っ越しです!」


 三人は手荷物一つで迎えの車に乗り込み、フント租界のあてがわれた一軒家へ……

 こちらもいままでと変わらぬ小さいお家……


 そして三日間の間、カーンティは昔のようにララさんのもとで、メイドとしてラージマータに仕えたのです。

 いろいろな調度品を購入し、衣服や日用品を整え、あっという間に三日が過ぎました。


「そろそろカマラがやってくる頃ね♪」

 ラージマータはそわそわしながら、時計とにらめっこ。


 正直、両親を亡くしているカーンティは、母親とはこのような物のかと思ったのです。


 ……母とは有り難いものなのですね……


「お母様!」

 ドアがバタンと開き、カマラさんが飛び込んできました。


「あぁぁぁ、カマラ!」

 二人は抱き合い、ポロポロと涙を流しています。

 ララさんもカーンティも、もらい涙が止まりません。   


 ララさんが、そっと目配せをしました。

 カーンティもうなずき、二人はそっと部屋を出て行ったのです。


「よかったわ……」

 ララさんが嬉しそうに言います。


「そうですね……少しばかり羨ましいですね……」

「そういえばカーンティはご両親を亡くしているのね……」

「はい……ララ様は?」

「私の家は没落貴族でね、働きすぎたのか、両親は早くに亡くなってね、叔母に育ててもらったの……」

「でも叔母は私を娘のように育ててくれてね、いまでも時々、お菓子なんて持って会いにいくのよ、カーンティは親しい肉親はいないの?」

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