第五章 カーンティの物語 いらない娘の帰省

ラージマータへの手紙


 マーヒシマティー王国ラージマータの女奴隷カーンティは、手紙を預かり決死の覚悟でフント港を泳いでいた。

 目指すは執政官府の船、『ほうこくまる』。

 運よくテンダーボートに助けられ、『ほうこくまる』に乗っているカマラ王女様に手渡し、いろいろありましたが、目出度くヴィーナスさんの女婢に……

 そして執政官府との戦争が終結、カーンティは今度はカマラ王女の手紙を持ち、ラージマータのもとへ……


     * * * * *


 ヴィーナスさんの女婢、いまではサムラート様のジャーリアと呼ばれるカーンティは、マーヒシマティー王国の王都、フントに戻ってきた。


 ……あれから、二年ほどしかたってないけど……変わったわね……


 王都フントは執政官府の爆撃でがれきの山、なんせ『全ての爆弾の父』と呼ばれる、TNT換算四十四トンの爆弾が落とされたのです。


 マーヒシマティー王は公開処刑となり、残酷にも虫の餌となったのです。

 

 ……自業自得とはいえ、虫に食べられるなんて……でもラクシュミーの皆さんは、そんな生活を十年も続けて……

 執政官府が虫を追い出してくれたのに、ヴィーナス様に逆らって……仕方ないことではあるけど……


 ラージマータ様はご健在かしら……私がいまあるのはラージマータ様のおかげ、いまのマーヒシマティー王は傍系の血筋……ラージマータ様とは何の関係もない方……日々の糧にお困りでは……


 ……とにかく、このカマラ様からのお手紙をお渡ししなくては……


 そう、カーンティがフントに戻ってきたのは、カマラからの手紙を預かってきたからです。

 ヴィーナスさんが許可してくれたのです。


 出迎えたのはマーヒシマティー王国の警備兵、敵意むき出しでカーンティさんをにらんでいます。


 ……仕方ないわね……故国は敗戦、王は処刑、王都はがれきの山ですから……

 でも……戦に負ければ、すべては勝者の物……敗者になんの権利もないのよ……


「ご苦労様です、ラージマータ様のお住まいまで、ご案内いただけますか?」

「お乗りください」


 無愛想な運転手ですが、なんとかラージマータの住まうところへ案内してくれます。

「こんな場所に……」

「宮殿は焼け落ちていますので……」


 市街地に貴族の離れみたいな建物がポツンと立っており、そこにお住いのようです。

 カーンティが車から降りると、物も言わずに運転手と車は帰っていきます。


 ドアをノックすると、中年のメイドが出てきました。

「私、カーンティと申します、ラージマータ様へカマラ王女様のお手紙をお持ちしました」


「えっカーンティなの?見違えたわ?」

 中年のメイドさんは、カーンティがラージマータの奴隷の時のメイド長、目にかけてくれた方です。


「メイド長様!どうされたのですか……お窶れに……」

「お国が敗戦ですからね、生きるためには苦労が多いのよ……」

「そうですか……ご苦労されたのですね……」

「それより、ラージマータ様へカマラ王女様のお手紙へお渡しして、きっとお喜びになるわ」


 メイド長はララといい、没落貴族の娘で、長年ラージマータに仕えてきた方です。


 ララに案内されて……

 かなり憔悴気味のラージマータでした。


「ラージマータ様、あのカーンティが、カマラ王女様のお手紙をもって訪ねてきましたよ」


「カマラからの?カマラは生きているの?」


「お元気です、いつもラージマータ様のことを心配しておられます」


「そう……元気なのね……安心したわ……会いたいわ……」


 そして手紙を嬉しそうに読み始めるラージマータ。


「ねえ、カーンティ、カマラが再建されるフント租界に、住所を用意するといってきているけど……詳しくは貴方に聞けって手紙にあるわ?」

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