第四章 チャンドラの物語 魔女っ娘広場の奇跡
迎賓館の管理人
チャンドラは病に冒され、美しかった容姿も崩れ落ちていた。
妹のタラの懇願で、ウルヴァシー王女に救われた。
以来、ウルヴァシーに妹とともに侍女として付きしたがっている。
そのため、フロッグのカウラパパにある執政官の迎賓館の管理人として、館のお守りをする毎日……
ある時、妹のタラから突然の来客を聞くことになる……
* * * * *
チャンドラさんは今日も忙しい。
執政官府の迎賓館のお守を一人で行っているからだ。
「そうだ、今日はお風呂の掃除をしなくては……」
迎賓館はそんなに大きな建物ではなく、こじんまりとしています。
それでもチャンドラさん一人ですからね、お掃除も計画的なのです。
そもそも迎賓館ですから、お客さんは最低でも二日前に執政官府からお知らせがあります。
「そういえば洗剤の在庫が残り少なかったわ、買いに行かなくっちゃ」
そこでチャンドラさんは車庫から自転車などを取り出し、フロッグの町へお買い物です。
クルト山に見守られながら草原を抜け、町への一本道を颯爽と走るチャンドラさんです。
「今日はいい天気ね、タラもいい日に来るわね」
タラとはチャンドラさんの妹、今日はタラがやってくるのです。
この二人、ヴィーナスさんとの『夜伽の順』を確保している寵妃、側女なのです。
フロッグの町は高原都市で、カウラパパ観光の拠点でもあります。
チャンドラさんとタラさん姉妹はフロッグの出身、でも姉妹の昔を知っている人はほとんどいません。
二人の娘時代なんて数十年も前の話、二人は魔女なんですね。
事実フロッグの町では、『姉魔女』、『妹魔女』なんていわれています。
たしかに寵妃ですからね、掛け値なしのウイッチさんです。
当初、恐怖の対象であった二人ですが、今ではフロッグの人々から慕われている存在。
なぜかというと、十年ほど前にフロッグの町で疫病がはやったのです。
不治の病といわれる結核です。
この時、チャンドラさんとタラさん姉妹は、『湯船の謁見』でヴィーナスさんに直訴。
その結果、執政官府の迎賓館を通じて、フロッグの町の病院にペニシリンなどの特効薬が提供されたのです。
それ以来、なぜか町の住民が野菜などを持ってきてくれるようになり、近頃は迎賓館の前の広場で市が立つのです。
今ではフロッグの町の一大イベント、毎月、最後の日曜日に早朝から開かれる、この市は誰とはなしに『魔女っ娘広場』なんて呼ばれていますね。
タラさんは今日から三日、執政官府迎賓館管理人室に寝泊まりするわけです、そして今日は今月最後の土曜日なのです。
洗剤なんか抱えながら戻ってくると、タラさんが転移してきたのです。
執政官府の迎賓館は、異空間倉庫と呼ばれるジャンプポイントが、執政官府庁舎とつながっているのです。
管理人室というのは、迎賓館と廊下でつながっているだけで、ほとんど独立した小住宅のようなもの。
十平方メートルと八平方メートル程度の洋室、一八平方メートル程度のリビングダイニングキッチン、お風呂やトイレのユティリティ・ルーム、五平方メートル程度の納戸の2LDKS。
でもここはチャンドラさんとタラさん姉妹が仲良く暮らした思い出の場所。
転勤話があってもチャンドラさんは固辞し、迎賓館の管理人を続けているわけです。
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