被雷


 でも杞憂のようでした。

 カーシー王国はワーラーナシ―港への入港を条件付きで認めたのです。

 条件とは執政官府の人員の退去とその収容です。

 女性の亡命は受け入れられませんてした。


 上陸は禁止ですが、接岸し、物資の補給も認めてくれたのです。

 カーシー王国海軍は主力艦としては海防戦艦デ・ゼーヴェン・プロヴィンシェンを旗艦として、軽巡ジャワ級二隻ときわめて規模が小さく、国力も弱いため、そんなに執政官府に敵対しないようです。

 しかし、積極的に協力もしない、サボタージュをするのです。

 パイロットも理由をつけてはやってこない。

 

「このままではらちが明かない、なにか企んでいるぞ!」

「オートパイロットを起動、出航する!港湾当局にその旨つたえろ!」


 出航ししばらくすると……進路前方にスルクフが浮上してきたのです。


「船長!スルクフが発砲準備をしています!」

「スルクフは発砲準備に時間がかかるはずだ!サブのバイオ燃料タービンを起動、最大戦力をだせ!」


 “ほうこくまる”は大胆にも主砲の有効射程10,000メートルまで近づこうとしているのです。

 ネマ船長は砲撃戦を選択したようです。

 四本しかない63センチ魚雷は、今後の事もあり、温存したいようです。


「短20センチ砲、対艦成形炸薬弾用意!」

「敵、魚雷接近!」

「回避行動をとれ、面舵!」 

 “ほうこくまる”は右に回頭、この後取り舵、面舵を繰り返しながら魚雷を回避したのですが……

 物凄い轟音とともに、船体が右に傾いたのです。 


「右舷に被雷!」

「左舷の水防区画に注水!船体を戻せ!」

 水防区画の増設に伴い、応急注排水装置が搭載されており、真価を発揮しています。


「スルクフまで10,000メートル!」

「前部主砲、水平射撃3連射!」


 有効射程10,000メートルなら、初弾から命中すると謳われている通りでした。

 この主砲、カノン砲ではなく榴弾砲なのですが、この新型弾はロケット推進ですので、カノン砲のような射撃ができるのです。


「スルクフ沈没していきます!」

「すぐにこの海域から離脱する!まだ敵潜水艦がいるかもしれんぞ!」


 最大船速28ノットで、海域からの離脱を図る“ほうこくまる”ですが……

「左舷に雷跡!」

「しまった!ルドゥタブル級がいたのか!」

 スルクフとの交戦中に、なんとか一隻のルドゥタブル級が戦闘海面に間に合ったようなのです。


「左舷に被雷!」

「左舷のどこか!」

「注水した区画です!」

 間のいいことに左舷の注水区画に被雷したようで、浸水はなかったのです。

 それでも隔壁が緩み、隣の区画に浸水しているようです。

「排水に勤めろ!浸水箇所を何とか補強しろ!」

「対潜誘導魚雷用意!」

「ソナー室、敵潜水艦の位置はわかるか!」

 どうやらわかるようです。


「対潜誘導魚雷発射!」

 ルドゥタブル級も血祭りにあげ、“ほうこくまる”は次の目的地、マツヤ王国のヴィラ―タナガラに向かいます。

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