出航


 『ほうこくまる』の他の乗組員も、五級戦功章で年金が支給されます。

 まあ、一番下の五級なので、年に金貨一枚なのですけどね……


 この後、義勇艦隊司令部でいろいろと打ち合わせをしたネマ船長、渋い顔で『ほうこくまる』に戻ってきたのです。


 乗組員を集めて、

「良い話と悪い話がある、まず良い話をしよう」

「諸君には五級戦功章が叙勲される、知っての通り年金はささやかだが、戦功章叙勲者には、すべての公共料金が半額になる、略綬をつけ忘れると半額にならないから注意しろ」


「次に悪い話だ」

「我々は再亡命希望の二十四名の女性を、希望地まで送り届けることになっているが、諸君も承知のとおり現地の状況は非常に悪い、寄港地では前回のようなことが起こるかもしれない」


「その上、義勇艦隊司令部の見解では、予定航路には十四王国海軍の潜水艦がうようよしているらしい」

「すべて敵意の塊、いつ雷撃を食らうかわからない状況だ、なんせ海中に隠れている潜水艦、どこの物か判別できないので抗議もできない」


「船長、それでは敵の潜水艦を攻撃しないのですか?」

「そこよ、義勇艦隊司令部は潜水艦を発見すれば、即座に対潜水艦攻撃演習をせよとのことだ」

「味方の潜水艦は我々には絶対によってこない、万一やむ負えない場合でも浮上することになっている」


「マーヒシマティー王国海軍のT級(トライトン級)とX1、ヴァッサ王国海軍のルドゥタブル級とスルクフ、それにパンチャーラ王国海軍のサーモン級は脅威である、これらは千五百トンクラスのディーゼル潜水艦である」


「今回の修理中、水密区画を細かくする改修を合わせて行っているが、雷撃を食らうと沈没する可能性がある」

「連中の潜水艦はエンジン音が大きく、我々のソナーなら探知は確実である、できるだけ魚雷の範囲外から攻撃する」

 

「本船には最新兵器として、執政官府より提供された対潜誘導魚雷が搭載されている、MK44と呼ばれるもので、三連装の魚雷発射管が左右に一基、計二基搭載されている、射程距離は五千五百メートル、水中速度十七ノットまでの潜水艦なら探知できる」


「また主砲である短二十センチ砲用の対艦用成形炸薬弾も新型の試作品を受領している」

「こいつは威力は落ちるがロケット補助がついており、有効射程距離は一万メートルと聞き及んでいる」


 試作品の新型対艦用成形炸薬弾は十発しかなく、前後の主砲に五発用意されているのです。

 この新型弾、初弾から命中する優れもの、ただ単価が高くて……それに海軍工廠では製造できないのですね。


「さらに、できるだけ現地の執政官府の人員も収容する」


「明日、一〇〇〇(ひとまるまるまる)に出航する」


翌朝、『ほうこくまる』は危険な航海に乗り出したのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る