第三章 ネマの物語 『栄光のほうこくまる』

はなむけ


 マガダ王国後宮からの亡命女官をのせ、なんとかチャルーサダ軍港にたどりついた『ほうこくまる』。

 やっと一息ついた船長のネマに次の命令が……再亡命を希望した二十四名を送り届けよ……しかし情勢は、再亡命先も執政官府といまにも戦争になりそうな……


     * * * * *


 義勇艦隊所属の『ほうこくまる』は、ラージャグリハ港からの決死の脱出を試み、追尾してきたマガダ王国海軍の、中型高速戦艦一隻、艦隊駆逐艦が三隻の艦隊と交戦。

 敵潜水艦からの雷撃を受けながらも敵を何とか撃破、やっとのことでチャルーサダ軍港にたどりつきました。


 中型高速戦艦一隻中破、駆逐艦一隻轟沈、一隻大破、一隻中破、潜水艦一隻撃沈という赫々たる戦果です。


 チャルーサダの海軍工廠で応急修理を受け、マハラバード軍港へ回航、さらに本格的な修理と新兵器を搭載し、再び海に浮かんだ『ほうこくまる』。

 船長のネマに、義勇艦隊司令部から次の命令がありました。


 ラージャグリハ港脱出のおり、緊急に保護したマガダ王国の元女官たち六十三名中、再亡命を希望した二十四名を送り届けよというのです。


「まったく無茶をいう……マガダ王国やマーヒシマティー王国での扱いを聞いているはずだ……ますます情勢が悪くなっているというのに……」


 事実、マーヒシマティー王国のフント港では入港拒否、マガダ王国のラージャグリハ港では上陸禁止、執政官府に対してアールヴヘイムンの十四王国の国民感情は悪化の一途なのです。

 特に東の八王国で顕著なのです。


 二十四名の再亡命はまだ受け入れが可能な西の六王国が対象です。

 ヴァッサ王国に四名、アンガ王国に八名、コーサラ王国三名、マツヤ王国六名、カーシー王国二名、シューラセーナ王国一名となっています。

 クル王国へも再亡命希望者がいましたが、執政官府の情報分析で、上記以外の王国への再亡命は、寄港が不可能ということで却下されたのです。

 

 西の六王国への再亡命も危険が伴うとの警告があり、各自の責任で再亡命するならとの条件付きです。

 その上に急な情勢変更があれば、『ほうこくまる』艦長の判断で再亡命不可とする、それを了承するようにとあります。


「とりあえず出航準備を迅速に行え」

 こう命令して、『ほうこくまる』は物資の補給など、積み込みを始めたのです。


 義勇艦隊とは、執政官府の外洋海運局に所属する船の中で、非常時には婦人戦闘団の指揮下に入ることを前提に、武装している戦闘船舶を指し、平時は外洋海運局の下にある義勇艦隊司令部に所属します。


 一応、商船に分類されており、婦人海上戦闘団が設立されるまでは、執政官府の海上兵力として整備されていたのです。

 戦時には、大規模な改装を計画されている船もあります。


 準備が完了したので義勇艦隊司令部に報告に出向くと、執政官室に通されたのです。

 執政官のスジャータさんと、寵妃のパールヴァティさんが待っていました。


 スジャータさんが、

「出航前の忙しい時に申し訳ないが、『ほうこくまる』の食堂に三名配属される、例の亡命者の女性たちだ」

「それと、ヴィーナス様にお仕えする気はないか?」

「論功行賞というわけですか?」

「そうなる、貴官が承諾すれば采女とするが、どうか?」


「私はご寵愛を受けられるのなら喜んでと思いますが、本当に私でよいのですか?容姿もそれほどとは思いませんが?」


 パールヴァティさんが、

「心配は無用です、女官になって綺麗にならなかったものはいません」

「それなら、喜んでヴィーナス様にお仕えします」

 えらくあっさりと了承したネマ船長です。


 ネマさんって、黒髪で笑顔が可愛いですが妖艶です。

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