山岳戦部隊がない!


 情報を分析しますと、敵の残存部隊は山岳歩兵旅団が健在、アッサカ王国の王都ポタナに通じる唯一の街道がとおる峠を占拠しているようなのです。


 その上、峠を見下ろす場所に幾つかの山砲陣地を構築、旅団司令部もここにあるようです。


 「まずいな、これでは峠を抜こうとしても、上から狙い撃ちになるぞ」

 「見晴らしの良い場所に司令部があるのも問題です」

 参謀たちも渋い顔です。


 「山砲陣地を占領しなければならないが山岳戦闘となるのか……こちらは機甲兵団、山岳戦の部隊はいないぞ」

 「司令官、臨時に編入された軍司令部直轄部隊の独立歩兵第一大隊はガンダーラの山岳地帯の出身のもので編成されています、山岳戦闘の訓練はしていないでしょうが、山には慣れているはずです」


 「独立歩兵第一大隊?あの部隊は占領地警備などのために動員したときいている、装備も軽装ではないのか?」

 この部隊の兵士は、虫の侵攻以前は山で狩猟をしていた民の女たち、生き残りのため、男たちの伝統をそれなりに受け継ぎ、自活していたようなのです。


 「しかし、いま山岳戦闘ができそうなのは、この部隊だけとおもわれます」

 「敵は山岳歩兵旅団と聞く、多分精鋭だろう、我らは女の身、体力などでは男に太刀打ちは出来ぬ、そのためにこのような装備を与えられているのだ、白兵戦の可能性がある戦場に投入など出来ない相談だ」


 「司令官、まずは指揮官を呼んで話を聞いてみては?」


  独立歩兵第一大隊長シュルティさんが、見事な敬礼をしています。

 「貴女の隊は男からなる敵の山岳戦部隊と戦えるか?」


 「ご懸念には及びません、我らはガンダーラの山の民、長年、山で鍛えております、それに先ごろ垂直離着陸する航空機による強襲も訓練しております」

 「垂直離着陸する航空機?」

 「ヘリコプターと呼ぶものだそうで、執政官府のUS―3のようなのもだそうです」


 ナチスドイツのフォッケ・アハゲリスFa223の改良型が極秘に配備されているようなのです。

 配下の各中隊のうち、第一中隊が訓練を受けているようです。

 といっても、このフォッケ・アハゲリスFa223は一個小隊分しか配備されていません。

 勿論、それなりに大改装されてはいます。

 

 「そのヘリコプターと呼ぶもの、ここにあるのか?」

 「独立輸送特殊飛行隊として、ハスティナープラ近郊に待機しているはずです」

 「参謀、すぐ呼んでくれ!」


 アニラは一抹の不安はあったのですが、敵の山岳歩兵旅団司令部がある陣地に、明日早朝、独立歩兵第一大隊所属の第一中隊による空挺強襲作戦を命じたのです。


 ……ちょっと無謀なのでは……スジャータさんにUS―3で空爆してもらえばいいのに……

 仕方ないわね……ちょっと知恵を貸しましょうかね……


 アニラのオルゴールがなったのです。

 「アニラさん、空挺強襲作戦なんてするの?だったら気象情報なんて教えてあげるわ、明日ね、夜明け前から、そのあたり一帯濃霧がかかるわよ、でもね、貴女は女孺(にょじゅ)ですからね、なんてことはないでしょうね」

 

 「フォッケ・アハゲリスFa223にはオートパイロットがついている、目的地上空に間違いなく運んでくれる」

 「敵の山岳歩兵旅団司令部って一番高い場所にあるのよね、広場があるわよ、その上、道は一つ、広場をとおるのよね、ヘリには重機が搭載されていますよね、わかる?」

 「濃霧は日差しとともに晴れる、あとは作戦通りにね」


 「ありがとうございます!」


 アニラさん、みずからも半個分隊をひきいて、乗り込むことにしたのです。

 「准将!おやめください!」

 「大丈夫さ、私は先ごろヴィーナス様の夜に侍った、私には主の加護がある!」

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