『苦難の日』


 婦人陸上戦闘団は、クルの王都であり港湾都市であるハスティナープラを抵抗もなく占領、敵の地上兵力と決戦すべく、全軍集結しパータリプトラへの進撃準備を始めたのです。


 ハスティナープラ沖合に停泊していた『たちばなまる』で、来たるパータリプトラでの決戦についての打ち合わがありました。


 スジャータ執政官が、

「敵兵力は膨大でこちらは寡兵、大丈夫なのですか?」

「機動力で優位に立つしかありません、敵砲兵兵力は簡単には移動できないはず、敵砲兵の射程外から全速力で敵の歩兵集団に機械化師団と機甲旅団で突撃粉砕します」

「それは少し心もとない、執政官府のUS―3不死鳥を動員しましょう」


 打ち合わせの結果、


 敵砲兵戦力は会敵する前に空爆で壊滅させる。


 兵団はパータリプトラで敵を撃破、そのままアッサカ王国の王都ポタナを目指す。

 海上戦闘団はそれまでに、ポタナを艦載機による空爆と艦砲射撃で沈黙させる。


 ポタナを陥落させ婦人陸上戦闘団は、マッラ王国へ上陸、王都クシーナガラを攻略。

 その後アヴァンティ王国の王都ウッジャインを占領する。


 と決まったのです。


 この打ち合わせに参加していた、イシス様が、

「アナーヒター、アニラさんが足を開けるそうよ、戦場に出るのですからいただきなさいな♪さて会議はここまで!」

 『たちばなまる』では、かなり淫蕩な夜が繰り広げられたのは、当然なのかもしれません。

 アナーヒターって、ヴィーナスさんのことですよ。

 

「アニラさん、初めてだったの?」

「はい……下手で申し訳ありません」

「初めてで上手かったらおかしいわよ」


「それに傷だらけで……」

 アニラの体は傷だらけだったのです。

 とくに背中の傷は大きく、無残なものです。


「戦いで負ったのですか?」

「戦いといえば戦いなのですが、『苦難の日』を逃げ回るときに、『虫』につけられたものがほとんどです」


 アニラは十六歳まで、十回の『苦難の日』を逃げおおせたのです、それは口にはだせないほどの厳しいものでした。

 

 三度目の『苦難の日』、九歳になっていたアニラは『虫』に見つかり、つかまりかかったのです。

 そのとき背中に虫の何かがあたり負った傷のようですが、必死に逃げていたアニラは分からなかったのです。

 アニラは必死に湿原に向かって走ったのです、危険な底なし沼がある場所です。

 

「あの時は一か八かでしたね……」

 幸いにアニラは、飲み込まれませんでしたが、『虫』は足をとられたようです。

 小さな底なし沼ぐらいでは、『虫』を飲み込むことは出来ませんが、アニラは逃げおおせることが出来たのです。


「でも、これは使えると思い、底なし沼の位置を徹底的に調べ、四度目からの『苦難の日』は、この手で逃げ切りました」


「そうですか……苦労しましたね……」

「いえ、この地の女たちは、誰もが経験したことですから……」


「これからパータリプトラでの決戦に出陣してもらうわけですが、出陣の祝いを差し上げましょう」

 ヴィーナスさんは一つの指輪を指につけてくれました。

 女孺(にょじゅ)がつけるものです。

「そうそう、これもあげるわ♪私からの贈り物よ♪」

 オルゴールをいただいたアニラです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る