第2話

「はい、私もプレゼントがあるよ。聡が欲しがっていたキーホルダー。お揃いにしちゃった。これはクリスマスプレゼントだよ」


「おっ、お前、コーチ?そのへんのお土産やさんで売っているような500円のキーホルダーで良かったんだぞ?高かっただろ?」


「ううん、大丈夫だよ。私だって、家庭教師で稼いでるんだぞぉ~」

私は、まっ赤な嘘をついて聡を安心させる。

聡は、困ったように微笑んだ。


「ごめん。俺さ、誕生日のプレゼントばかりに意識がいってて、クリスマスプレゼントを用意していなかった」

申し訳なさそうにくちごもる聡。


ーーいいのに、そんなの気にすることないよ、と言ってあげたい。


「ううん、慣れてるから大丈夫だよ。昔からね、クリスマスとお誕生日が近いから家族も、別々な日にはお祝いしてくれなかったから。大抵、クリスマスと一緒にされちゃうの」

私は、聡に気にしないでって、伝える気持ちで言ったのだけれど、余計落ち込んじゃったみたい。


「どうしたの?全然、気にしないでいいんだよ?だって、このネックレスすごく高いでしょ?だから、お誕生日プレゼントとクリスマスプレゼントと両方兼ねるかんじでいいと思う」


「‥‥いや、良くない‥‥お前、小さい頃から、ちょっとは悲しかっただろう?

他の子は誕生日とクリスマスは別にプレゼントを貰えるのにって?」


「う、うん。まぁ、子どもの頃はね。でも、今は大学生だし、そんなに悲しくはないよ。というか、全然悲しくないよ」


「なんでだよ?」

聡は真顔で聞いてきた。


ーーもう、そんなこともわからないの?大好きな人とお誕生日に過ごせるだけでも嬉しいのに、おまけにすごく欲しかったネックレスもプレゼントしてもらえた。クリスマスも誕生日も一緒だってかまわない。私は、今とても悲しい気分とはかけ離れた気持ちなのよ。


「なんでかって言えば、うーーん、なんでかな?考えてみてよ。さぁ、クイズでぇす」


「なんだよ、それ?あのネックレスをもらったからか?」


「うん、それもあるよ。でも、もっと大事なことがあります」


「うーーん、わからない」


「ほんとに?ほんとうにわからないの?」


「うん」


「ばか!聡の今の気持ちは悲しい?」

聡は首を横に振りながら、へにょりと笑う。


「俺の今の気持ちは、すごく幸せだよ」

私は、それを聞いて顔がニマニマしてきてしまう。

 

「俺さぁ、お前のこと前からずっと好きだったから、こうしてつきあえてすごく嬉しいんだよ」


ーーえ?知らなかった。私達は、お互い告白はしていない。大学で同じ講義をとっていた聡と、いつの間にか仲よく話すようになって、映画に誘われた。そして、その一週間後に私が食事に誘った。気がついたら、付き合っていて、今に至るのだった。


「あ、あのね、私も」

言いかけたところで、聡が「あっ」とつぶやいた。


「駅の横に花屋さんがあったろ?あそこで花束を買ってやるよ。これで、プレゼントがふたつ。クリスマスプレゼントと誕生日プレゼント。どうだ?名案だろ?」


ーーもぉ、プレゼントなんていらないのに‥‥私は聡さえいれば幸せなんだもの。

でも、私が言った言葉は違う言葉だ。


「うむ。それで許してやろう」


「へへぇーーお代官様、ありがとうごぜぇますだ」

聡は私に頭を下げた。私は悪代官かい!




私は、彼の顔をまっすぐ見て照れないように自分を励ましながら本当の気持ちを言った。

「あのね、今日は一番嬉しい日なんだ。プレゼントも嬉しいけど、それよりなによりこうして会ってくれたこと。一緒にいれること。これだけで、私は満足なんだよ」


「そうか。俺もすごく満足だよ。幸せをありがとう」


「ふふふ、私は聡に初めから一目惚れだったんだぁー。大好きよ」


「うん、俺も、初めから紬に一目ぼれだったんだ。大好きだよ」


私と聡が、初めから大好きだったことを確かめ合った瞬間だった。






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クリスマスに会えない彼は私に素敵な嘘をつく 青空一夏 @sachimaru

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