クリスマスに会えない彼は私に素敵な嘘をつく
青空一夏
第1話
私達は同じ大学で知り合った恋人同士。大学一年の夏休み前から付き合って、今は11月の初旬。もうすぐじき、あれよ!あのイベントがやってくるわ!ク・リ・ス・マ・ス!!恋人同士が必ず会うイベントでしょ?
私と聡は、今向かい合って座っているわ。場所は某ハンバーガー屋さん。もちろん、これはデート。私達、大学生同士がそんなに高級レストランで頻繁にデートできるわけがないもの。
「ねぇ、クリスマスは一緒にいるって言ったよね?」
「ごめん。バイト入った。悪いな。でもさ、27日の紬(つむぎ)の誕生日は一日空けといたから」
聡はそう言って謝ってきたの。信じられない。クリスマスに会えないなんて、あり得ない‥‥
こんなかんじの、ちょっと雲行き怪しい会話だったのよ?
私は家に帰って、考えた。考え出すとね、いろんな嫌な妄想が浮かんでくるの。聡は、本当はもっと好きな子ができて、その子と過ごすのかな、とか‥‥私、気がつかないうちになにか嫌われることをしたのかな‥‥とか‥‥
かっこいい聡はきっとモテるもの。私は、それほど美人じゃないんだ‥‥普通の子。ちょっと、かわいいっていわれたことが少しだけあるような‥‥雰囲気かわいい風なのよ。だから、とても不安なんだ‥‥
☆
私は友人に電話をした。友人は人ごとだから軽く笑いながら言った。
「それって、嘘なんじゃん?怪しいよ?」
そうなのかな?でも、つきあったばかりで私達はラブラブなはずだけれど‥‥
人の言葉って怖いよね。どんどん私の心を蝕んでいくのよ。
じわじわと広がる不安は、すっかり私の心のティーカップをいっぱいにして、なみなみと溜まってカップから溢れだしていた。
☆
クリスマス当日、いけないことだと思っていたけれど、私は彼のバイト先にこっそり行ってみた。
場所は確か、ここらへんなのだけれど‥‥
前にちょっとだけ聞いた店はなんの店かよく知らなかった。
おしゃれな店ってだけ。
聡はバイトの話はあまりしたがらなかったから、詳しくはわからないんだ。
☆
私はクリスマスの当日、聡から聞いた『中野駅から降りて改札口北口で降りて、まっすぐ行って右に曲がって、しばらくしたら左だよ』といういい加減な説明を信じて、彼のバイト先に偵察に行ったの。
教えられた通りに行くと聞き慣れた声がしてきた。
「いらっっしゃいませぇーーーーー。ケーキいかがですかぁー?クリスマスケーキーが特売でぇーーーす」
そのお店は、なんてことない個人経営のこじんまりしたケーキ屋さんだった。
硬派なイケメンの彼はケーキ屋さんでバイトしていると言えなかっただけなんだ。
その気持ちは、私にも実はすごくわかるんだ。だって、私も家庭教師のバイトしてるって聡に言ってるけど、本当は違うんだ。家の近くのコンビニでバイトしてるのが、ちょっと恥ずかしくて言えなかった。
かっこつけたい年頃だよね?ってお姉ちゃんは私をからかうけど。
好きな人には、よく見られたくてつい本当のとこを言えない時ってあると思う。
私は、そっと後ずさりして踵を返して、もと来た道を鼻歌を歌いながら引き返した。
浮気とかじゃなくて良かった。ここに向かうときはドキドキで、足取りも重かったけれど、今はとても軽くて明るい気持ちだった。
☆
27日の私の誕生日。聡はちょっと高級なレストランを予約してくれていた。
フランス料理のコースで、奮発したなぁ、と私は思う。
料理が来る前に、綺麗に包装されてリボンが巻かれたプレゼントを私に差し出す。
「開けてもいい?」
「もちろんだよ」
聡は、ちょっとはにかんだような表情をしていた。
私も、少し緊張気味で包装紙を丁寧に開いていく。
ビロード張りの細長い箱が姿を現す。それを、私はそっと開く。
私が前から欲しがっていたネックレスだ!これは、大学生の私達にとっては、かなり値が張るものだった。
「誕生日、おめでとう!これ、前からほしがっていたよな?ごめんな。こんな安物で」
「ううん、ありがとう!すごく嬉しいよ。それに、これ、すごく高いよね?」
「いや、俺は輸入雑貨のバイトでチーフなんだぞ!時給はいいから気にすんな!!」
少し、怒ったふりをして言う聡がかわいかった。
「うん、知ってる。ありがとう!大事にするね!」
聡が輸入雑貨のおしゃれな店のチーフなんかじゃないことを、私はもちろん知っている。でも、あえてそのことは言わない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます