クリスマスに会えない彼は私に素敵な嘘をつく

青空一夏

第1話

私達は同じ大学で知り合った恋人同士。大学一年の夏休み前から付き合って、今は11月の初旬。もうすぐじき、あれよ!あのイベントがやってくるわ!ク・リ・ス・マ・ス!!恋人同士が必ず会うイベントでしょ?


私と聡は、今向かい合って座っているわ。場所は某ハンバーガー屋さん。もちろん、これはデート。私達、大学生同士がそんなに高級レストランで頻繁にデートできるわけがないもの。


「ねぇ、クリスマスは一緒にいるって言ったよね?」


「ごめん。バイト入った。悪いな。でもさ、27日の紬(つむぎ)の誕生日は一日空けといたから」


聡はそう言って謝ってきたの。信じられない。クリスマスに会えないなんて、あり得ない‥‥


こんなかんじの、ちょっと雲行き怪しい会話だったのよ?


私は家に帰って、考えた。考え出すとね、いろんな嫌な妄想が浮かんでくるの。聡は、本当はもっと好きな子ができて、その子と過ごすのかな、とか‥‥私、気がつかないうちになにか嫌われることをしたのかな‥‥とか‥‥


かっこいい聡はきっとモテるもの。私は、それほど美人じゃないんだ‥‥普通の子。ちょっと、かわいいっていわれたことが少しだけあるような‥‥雰囲気かわいい風なのよ。だから、とても不安なんだ‥‥








私は友人に電話をした。友人は人ごとだから軽く笑いながら言った。


「それって、嘘なんじゃん?怪しいよ?」


そうなのかな?でも、つきあったばかりで私達はラブラブなはずだけれど‥‥


人の言葉って怖いよね。どんどん私の心を蝕んでいくのよ。


じわじわと広がる不安は、すっかり私の心のティーカップをいっぱいにして、なみなみと溜まってカップから溢れだしていた。





クリスマス当日、いけないことだと思っていたけれど、私は彼のバイト先にこっそり行ってみた。


場所は確か、ここらへんなのだけれど‥‥


前にちょっとだけ聞いた店はなんの店かよく知らなかった。


おしゃれな店ってだけ。


聡はバイトの話はあまりしたがらなかったから、詳しくはわからないんだ。







私はクリスマスの当日、聡から聞いた『中野駅から降りて改札口北口で降りて、まっすぐ行って右に曲がって、しばらくしたら左だよ』といういい加減な説明を信じて、彼のバイト先に偵察に行ったの。


教えられた通りに行くと聞き慣れた声がしてきた。


「いらっっしゃいませぇーーーーー。ケーキいかがですかぁー?クリスマスケーキーが特売でぇーーーす」


そのお店は、なんてことない個人経営のこじんまりしたケーキ屋さんだった。


硬派なイケメンの彼はケーキ屋さんでバイトしていると言えなかっただけなんだ。


その気持ちは、私にも実はすごくわかるんだ。だって、私も家庭教師のバイトしてるって聡に言ってるけど、本当は違うんだ。家の近くのコンビニでバイトしてるのが、ちょっと恥ずかしくて言えなかった。


かっこつけたい年頃だよね?ってお姉ちゃんは私をからかうけど。


好きな人には、よく見られたくてつい本当のとこを言えない時ってあると思う。


私は、そっと後ずさりして踵を返して、もと来た道を鼻歌を歌いながら引き返した。


浮気とかじゃなくて良かった。ここに向かうときはドキドキで、足取りも重かったけれど、今はとても軽くて明るい気持ちだった。





27日の私の誕生日。聡はちょっと高級なレストランを予約してくれていた。


フランス料理のコースで、奮発したなぁ、と私は思う。


料理が来る前に、綺麗に包装されてリボンが巻かれたプレゼントを私に差し出す。


「開けてもいい?」


「もちろんだよ」

聡は、ちょっとはにかんだような表情をしていた。


私も、少し緊張気味で包装紙を丁寧に開いていく。


ビロード張りの細長い箱が姿を現す。それを、私はそっと開く。


私が前から欲しがっていたネックレスだ!これは、大学生の私達にとっては、かなり値が張るものだった。


「誕生日、おめでとう!これ、前からほしがっていたよな?ごめんな。こんな安物で」



「ううん、ありがとう!すごく嬉しいよ。それに、これ、すごく高いよね?」



「いや、俺は輸入雑貨のバイトでチーフなんだぞ!時給はいいから気にすんな!!」


少し、怒ったふりをして言う聡がかわいかった。



「うん、知ってる。ありがとう!大事にするね!」


聡が輸入雑貨のおしゃれな店のチーフなんかじゃないことを、私はもちろん知っている。でも、あえてそのことは言わない。






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