第29話 新スキル検証とパーティ会話




 祥果さんを含めた子供達は、しばらく輪になって話し合っていた。央佳と護衛役のギルメンは、大きな岩の上に腰掛けて周囲に睨みを利かせている。

 幸い、この荒野に人影はそれ程多くは無い。


 やがて子供達は、2つのグループに分かれて狩りを始めた。ルカとアンリのペアは、少し先の道端で一緒に狩りを始めている。ルカは主に、盾の使い方を練習している様子。

 逆にアンリは、新スキルを使って縦横無尽に駆け回っている。


 アンリの成長は目覚ましく、ほとんど別キャラと言っても過言では無い変わり様。新しく得た両手槍のスキルと、異端と盗賊ジョブをふんだんに使用して。

 遠くからチャージ技で距離を詰めたと思ったら、《影渡り》を使って戦線離脱。攻撃で敵対心を取り過ぎると、《敵対心贈与》でルカのお尻をペタッと触ってヘイトを擦り付ける。

 その行動に、姉のルカは少々不満そうで。


「ねぇ、アンリ……そのスキルは、触るのお尻じゃないとダメなの……?」

「……だって、触り易そうなお尻だから。それよりルカ姉のペット、ちゃんと育ってるの……?」

『育っているよ、小さなお嬢さん。ここの敵はレベルが高いから、成長も早いね。ただし、召喚ペットの本当の成長は、ハンターポイントの注ぎ込みの方が重要なのさ』


 本当に博識な盾である、少し感心した様子のルカとアンリ。その後も戦闘を続けながら、姉妹は熟練度上げに専念する。マリモは先程から攻撃らしき行動を取っているが、ダメージは物凄くしょぼい感じ。

 その主人のルカの両手剣には、たったの20Pしかスキルを注ぎ込んでいない。盾と竜スキルを優先した結果だが、今後の課題は両手剣スキルを伸ばす事だろう。

 その頃には、ペットのマリモも多少は強くなっている筈。


 一方のアンリは、両手槍スキルに結構大量のスキルPを振り込んでいた。結果、数多くの両手槍スキルを得たが、同時にたくさん新しい後付けジョブスキルも取得したので。

 スロットオーバーで、ほとんどの両手槍スキルは封印と言う残念な事に。致し方ないと割り切って、アンリは新しいスキルを中心にセットして試している所。

 この後使い勝手を検証して、セットの微調整をする予定。


 それにしても、神様は加減してくれたとは言え、ステータスの減少は本当に痛かった。それに伴ってSPやMPも低くなってしまい、戦闘能力は大幅ダウンと言う有り様だ。

 祥果さんのガード役を自負していた三女だが、これでは任務を遂行出来ない。例えばカンスト済みの冒険者の強さは、闇ギルドの連中に限らず侮れないのだ。

 “加護”返し前ならともかく、今のアンリでは2人との対峙が精一杯。


 それでも、為すべき事は分かっている。取得したスキルを完璧に使いこなして、更には両手槍のダメージももっと増やして。

 ――早く強くならなくちゃと、新たに誓うアンリであった。




 一方の祥果さんとメイのチームは、一風変わった狩りをしていた。これは祥果さんの持っている幻魔法スキルの《震振打針》に、鈍足付与効果がある事が分かったためで。

 それなら魔法だけで、ソロで倒す方法を覚えようよとメイの言葉に。戦闘においては色々と学ぶ立場の祥果さん、素直に子供に師事する事にした様子。

 これもひとえに、戦闘中に子供達の足手纏いにならない様にとの思いから。


 やり方は至って簡単、まずは遠くにいる敵に《震振打針》を撃ち込んで鈍足状態に。怒った敵は接敵しようと、こちらに向かって来るのだが。

 動きがスロー状態なため、幾分時間が掛かるので。その間に、他の攻撃魔法をズンズン撃ち込むのだ。それで時間内に倒せれば良し、駄目なら眠らせるなり何なりして仕切り直し。

 割とありふれた戦法なので、後衛職は良く取る方法だ。


 祥果さんも覚えておいて損は無いのだが、いかんせん彼女の持つ魔法には少々偏りがあって。幻魔法自体は優秀な揃いが多いのだが、攻撃魔法は《幻突》くらいだ。後は風魔法の《ウィンドカッター》で、リキャスト到来時間より敵の到着の方が早い結果に。

 こうなると、もう《虚仮嚇し》で追い返すくらいしか手が無い訳で。他にもたくさん獲物のいるフィールド、追い返すにも忍びないと言う事で。

 祥果さんの護衛役のネネが、ワンパンでやっつける流れに。


 実は竜形態でなくても強い四女、武器を持っていないと言うのに、でたらめなパワーを秘めている。そのステータスは、ルカの下位互換と言った感じでモロに前衛タイプ。

 普段は怖がりなネネだが、ゆったりとした動きの敵には威圧感を感じないのだろう。大威張りな態度で、自分の手柄を褒めて欲しくて仕方が無い様子。

 それを胡乱気に眺めるメイと、手放しで賞賛する祥果さん。


 とにかくこんな手順で、祥果さんメインでの狩りは続く。自分の持つ魔法スキルの特性やリキャスト時間を、一つずつ吟味するように。

 まったりとした雰囲気のまま、狩りは続く――




 今日の護衛は、ギルドからは夜多架だけだったのだが。何故かこの間フレ登録したアルカとエストが、暇だからと言って駆け付けてくれて。

 央佳のミッション参加の受諾を受けて、少し話を詰めようとの事らしい。例えばいつから取り掛かるかとか、他のメンバーはどうするかとか。

 相変わらず威勢の良いアルカだが、仕切りは苦手みたい。


「確かにそうだな、桜花の言う事も一理あるよな……順番は大事だよなぁ、確かに人数を集めてから取り掛かる時期を考えるのが普通だよね」

「そっちのギルドからは、応援出せないんだっけ? こっちから出そうか、暇なのたくさんいるよ……例えば、ここにいる夜多架とか?」

「いや、それはパワーバランス的に宜しくない! ってか、ウチのヘタレ軍団を誘いたくないし、だからそっちも2人にしてくれ。

 後の2人は、別のギルドから誘おう!」


 良く分からない理論だが、何となく根底の心理は分かる気もする。隣のエストも概ねその意見には賛成らしいのだが、残念ながら助っ人の当ては無い様子。

 夜多架も暇人と称された事には文句を述べたが、こちらのやり方にケチをつけるつもりは無いみたい。ギルマスが先日述べた契約条件、つまりは桜花を貸し出す代わりに、このパーティが得た情報をクリア後に貰うと言うモノだが。

 その約束さえきっちり守ってくれれば、問題は無いらしい。


「後の問題としては……祥果さんがまだ新大陸に行けないから、そこをクリアするまで待って欲しいって事くらいかな?

 こっちは戦力になる子供達がいるから、早期のレベル上げは問題ない筈」

「了解した、何なら私達もレベル上げ手伝うよ! ってか、何か元気に狩りしてるけど……アレはレベル上げとは違うのか?」

「ああ、アレは子供達が後付けジョブを取得したから、その性能チェックだよ。俺も実はペット持ちになっちゃったんだけど、ずっと出しておくとMPの消費が激しいしなぁ。

 ……誰か、何か良い方法知らない?」

「ん~~、そう言えば……ミッションPで交換する召喚ペット用のアイテムで、凄く性能の良いのがあるって聞いた覚えがありますよ、桜花さん。

 高額ポイントかも知れないけど、覗いてみたらどうです?」


 央佳の質問に答えたのは、アルカの相方のエストだった。落ち着いた口調でそう示唆する彼女は、高価そうな完全後衛装備でビシッと身を固めている。

 祥果さんとは大違いだなと、央佳は一瞬思ってしまう。もはや所帯染みた香りの漂う央佳の奥さんは、自分の身なりより子供達に関心が偏り過ぎてしまっている気が。

 今度綺麗な服でも、プレゼントした方が良いかも。


 そんな内心の思いはともかく、央佳はエストに礼を言って今度覗いてみると口にする。央佳の感想では、猪突猛進のアルカよりエストの方が、聡明で信頼が置けそうだ。

 何気なく聞いてみた所、新種族のミッションの手掛かりを得たのは、意に反してアルカだったらしい。てっきり逆だと思っていたが、人は見掛けに寄らないモノだ。

 素直にそう口にすると、自分もそう思うと意外と辛口のエスト。


「んんっ、何か遠回しにけなされている様な気がするぞ?」

「いえいえ、逆ですよ? こんなに考え無しに動き回っている癖に良縁に恵まれるのは、貴方の素晴らしい長所です。だから私も、無条件でこの桜花さんを信頼します♪」

「なるほど、物は言いようだな……」


 エストの素晴らしい話術で、あっさりと煙に巻かれてしまうアルカ。何だかんだで良いコンビだ、まぁ自分と祥果さん、加えて子供達もそれに負けないパーティだけど。

 今後も仲良くやって行けそうだと、何となくな直感でそう感じる央佳。ギルドの面々も相当に期待をしているみたいだし、自分も援助を惜しむつもりは無い。

 まだ誰も到達していない境地へ、力を合わせて突き進むのみ。



 MPが尽きてヒーリング中の祥果さんに、ルカとアンリのコンビが合流して来た。ポタポタと飛んでついて来るメタボ蝙蝠は、ネネに熱烈に歓迎される。

 アンリのスキルチェック作業は、だいたい一区切りついた様子だ。飽きっぽい性格も手伝って、祥果さんの方が気になったようで。そっちはどんなと、甘えながらの合流作業。

 もう1つくらい攻撃魔法が欲しいよねと、メイ教官の言葉は甘くは無かったけど。


「昨日からレベル上がってる筈だから、スキルPも増えてるでしょ、祥ちゃん? 攻撃魔法の取得を願って、幻スキルにポイント振り込んでみたら?」

「そうねぇ、じゃあ央ちゃんに相談して来るね? あっ、ルカちゃん……さっきの央ちゃんは、本当に怒ろうとして大声を上げたんじゃないからね?」

「はい、それは分かってますけど……私もちゃんと、前もってお父さんに相談すれば良かったですね」

「そうだねぇ……私の友達が子供の時に、子犬を飼う事になった時の事なんだけどね? 子犬には幾らでも餌を上げて良いって誰かの言葉を信じて、どんどん食べさせてたらしいんだけど。そうしたら子犬は、食べ過ぎた分を苦しそうに吐き出しちゃったんだって。

 後悔したって言ってたよ、ちゃんと誰かに相談すれば良かったって」


 実際は、餌の上げ過ぎに央佳は大声を上げた訳では無かったのだけど。それを聞いて大いに納得した表情の姉妹達、なるほど確かに相談は大事だとお互いに顔を見つめ合う。

 ネネが事件を起こした時も、私達は酷かったよねとメイとアンリは神妙に告白する。あの時は末の妹を、部屋に完全に独りにしてしまったのだ。つまり今の金銭的な苦境と自由の制限は、そこに起因しているとも言える。

 改めて姉妹は、ここに決意表明する。これから先、ペットとネネのお世話はちゃんと責任を持ってすると。ついでに祥果さんの戦闘指南も、完璧に一人前になるまで見捨てないと。

 珍しく一致団結した子供達と祥果さん、頑張るぞーと気勢を上げるのだった――



 これからお世話になる奥さんにも挨拶して来ると、アルカとエストは何やら盛り上がっている祥果さん達の元へと歩いて行った。面白そうと思ったのか、それに夜多架も続き。

 束の間荒野に一人残された、央佳の胸に去来するのは。やっぱり昨日新たに知った事実、リアル世界で自分は勝手に動き回っているらしい。

 だとしたら、ここにいる自分は一体何なのだ??


 職場の先輩にもそれとなく聞いてみた所、やはり向こうの世界の央佳は、普通に出勤して日常生活を送っているらしい。にわかには信じられない事実、祥果さんにはとても話せない。

 向こうの世界で何日経ったかは定かでは無いが、果たして無事に戻れる日は来るのだろうか? 不安になる事だらけだ、自分と言う人間の基盤が崩れて行く感覚。

 まるで大掛かりな詐欺に遭遇して、自分の肉体から追い出された気分。


 それでも仮のこちらの肉体は、悪くないどころか随分とスペックが良い気もする。しかも可愛い子供付き、まぁ4人の世話は正直大変だけれども。

 以前に水と氷の神様に尋ねた、その発言の内容も央佳はしっかり覚えていた。自分達の境遇を知っていると言うニュアンス、多少不憫に思われていたが、決して絶望する程の境遇では無いと言う感触の遣り取りを。





 ――今はその感触と手掛かりを、信じて前へと進むだけだ。






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