第26話 騒ぎの後、行動の時
さてさて、賑やかな上に様々な情報の行き交った、親睦会と言う名の宴会を終え。家族はそのまま、ギルド館の一室に一泊して爽やかな朝を迎えて。
驚いたのは、央佳に二日酔いの類いが全く窺えなかった事だろうか。央佳はお酒に関しては全く強く無くて、そのせいなのか次の日の体調も良かった試しがない。
それなのにこの結果だ、こちらの酒は余程良質?
それともこちらの世界の身体のせいだろうか、考えても埒はないけれど。領主の館の小奇麗な中庭を、子供達と朝の散策をするのには程良いコンディション。
それを幸せに思いつつ、さて今日からやる事は目白押しだ。
「ルカ、そこの花壇に沢山咲いてる花を、少し頂戴しようか? 朝食のテーブルに飾ろう、祥ちゃんが喜びそうだから」
「はーい……あっ、このハサミで切ればいいんですね?」
中庭には専属の庭師がいて、何とそいつはコボルトだった。人間の子供サイズの犬型獣人で、フィールドでは滅多に見られない。その代わり、人間とは仲が良いと言う設定らしく。
こうして使用人として見掛ける事も珍しくない、何とも愛嬌のある連中である。その1匹が近付いて来て、ルカにハサミを渡してくれたのだった。
長女はお礼を言ってハサミを返し、手には花束を持って幸せそう。
それを見ていたアンリが、母親の為にもう少し花束を豪勢にしたいと思ったのだろう。央佳にねだりながら、これもこれもとどんどん花の種類を増やして行く。
実際、中庭の花は収穫しても後からどんどん増えて行く。店売りも可能な、一種の素材アイテム扱いなのだ。こうやって愛でての使用ももちろん可、央佳は程々に頷きを返す。
それであっという間に、ルカの持つ花束は豪奢になって行き。
「アンリ、もうそれ位で良い事にしてよ。きりが無いじゃないの、本当に……」
「……わかった」
ルカの苦言に、三女は渋々承諾の構え。半分こにしながら、二人でそれぞれ収穫した花束を愛でている。ネネはずっと父親の腕の中、メイは遠くまで駆けて行って戻っての繰り返し。
全く、本当に個性豊かな姉妹である。
朝食は、有り合わせにしては本当に品数も多くて美味しかった。祥果さんの説明では、館の領地で収穫した物を使わせて貰ったらしいのだが。
麦飯のとろろご飯なんて初めて食べた央佳だが、何とも美味しくてびっくり。そのレシピだが、祥果さんはどうやら住み込みの使用人に教わったらしい。
いつの間にか仲良くなっていたみたい、侮れないスキルだ。
「……ご馳走様、祥ちゃん。このお茶も、何か変わってて美味しいねぇ?」
「柿の葉っぱのお茶なんだって、ここら辺じゃ普通らしいよ? 子供達には渋いかしら?」
「私は美味しいと思うけど……メイもアンリも駄目みたいですね。この子達は、まだ子供舌だから」
お姉さんっぽい口調のルカに、メイは渋い顔で抗議を始めるけれど。舌に合わないのは本当のようで、その顔には苦味のせいで変な皺が寄っている。
アンリも同じく、一口で潔く止めてしまった。その代わりコップに水を注いで、口中の苦味を洗い流しいてる様子。その顔は変わらず無表情、見ていて面白い。
ネネに限っては、口すらつけていないけど。
他の食事は皆が気に入ったようで、テーブルの料理は綺麗に片付いてしまっていた。これには祥果さんも大喜び、ここで獲れる収穫物に興味津々の様子。
買い取りは可能なのかと、央佳に尋ねて来るけれど。既に祥果さんは、ギルドの一員である。館の管理役の
実際、そんな感じで合成やら金策やらで、庭や土地を使用している者もいる。
朝の家族会議では、この後何をするかの案が幾つか浮上していた。館内をもっと見て回りたいとの意見はルカから、王都で買い物をしたいとの意見はメイから。
央佳としては、もう少し建設的に時間を使いたいところ。何しろ本当に、やる事が片手の指からはみ出る程度には存在するのだ。例えばアンリの装備を揃えるとか、皆の後付けジョブの選定をするとか。
しかもフィールドに出る際には、今日からギルメンの護衛が付いてくれる訳で。
だから予定は、なるべくきっちり立てておきたい。でないとギルメンに、無駄足を踏ませてしまう可能性も。幾ら親しい間柄と言っても、礼節はきっちりとしておきたい央佳。
そんな思惑も含めて、午前中は央佳チームと祥果さんチームで別れて行動する事に。祥果さんチームは、買い物と散策に時間を使うそうで。
央佳はアンリを伴って、装備を買いに街へと出掛ける事に。
ところが予定は、のっけから
央佳の家族パーティ的には、どちらかと言えば前衛が不足気味だろうか。ネネを前衛に引っ張り出す時は、これはもう本当に切羽詰まったピンチ時に限られるので。
それ以外だと、央佳とルカの2トップしかいない勘定に。
「アンリ、お前はどっちが好きなんだ……前で戦うのと、後ろで戦うの」
「……同じ位?」
小首を傾げながら、アンリの呑気な返事。この子はあまり積極的に動く事は無いが、戦闘自体は嫌いではない様子。普段は後衛での魔法支援なので、今後もそんな感じで育てて行けば良いとも思うのだが。
本人の資質と好き嫌い、どちらに重きを置くのかと言う遣り取りはこの際脇に置いといて。本人の意思はどちらもニュートラル、つまりは実質央佳の采配に委ねられている訳か。
困った央佳は、禁断の質問をアンリに向ける。
「それじゃあ、アンリ……父ちゃんと祥果さん、どっちが好きだ?」
「…………!!!」
その質問を聞いた瞬間、アンリはダラダラと額に変な汗を掻き始めた。いつもの無表情は影を潜め、隠そうとして隠し切れない焦燥がありありと窺える。
ここに来て央佳は、ようやく己の失言に思い至った。これではまるで、離婚した両親のどちらについて行くかを、子供自身に選ばせる親みたいではないか。
祥果さんが見ていたら、確実に叱責モノである。
もちろん、アンリはどちらも選べなかった。それについてはひたすら謝る央佳、父親の威厳など完全に放棄して。一緒に考えようかの言葉に、ようやく素直に頷きを貰い。
ホッと胸を撫で下ろし、仲直りの印に三女を腕に抱き上げて競売をうろつき始める央佳。ネネよりは幾分育っているものの、そんなに重くは感じない。
アンリはあちこち指差して、ご機嫌に高い眺めを堪能している様子。
「なんだ、凄く仲良しなんだな……まるで本当の親子みたいだ、NPCとそんなに仲良く出来るモノなのか?」
「うん……? あっ、アンタは確か……」
不意に話し掛けられた央佳、驚き振り返ってその人物を窺うと。同じく少女NPCを従えた、光種族の戦士が立っていた。有名人だ、央佳と同じく限定イベントの覇者として名高い。
名前は確か“
従えるNPCも同じく有名、“閃光の
つまりはこの有名人も、両手槍の使い手な訳なのだが。それを思い出して、央佳の脳裏に閃くモノが。そう言えば、倉庫に仕舞ってあった、特殊な能力の武器があったっけ。
自分の使わない余った武器は、大抵はギルド所有の倉庫に寄付する央佳なのだが。この武器だけは余りに性能が良かったので、手元に置いて寝かしておいたのだった。
……今は倉庫差し押さえで、取り出せないけどネ。
「あれっ、そう言えば話すのは初めてだったかな? これは失礼した、私は『イマジンBK』ってギルド所属の李沙華と言う者だけれど……せっかく限定イベントで貰ったこの子なんだが、イマイチ勝手にしか動いてくれなくてさ。
何か方策があれば、教えてくれないかな?」
「ああ……俺は『発気揚々』所属の桜花、この子はアンリって言うんだけど。信頼度を上げて行けば、自然とカスタムとか指示とか出来るようになるんじゃないかな?
具体的には300くらいかな、俺の時はそうだったけど」
「へえぇっ、なるほどぉ……そうやってコミュニケーションするのが、やっぱ一番なのか! さすが先輩、先駆者の意見はやっぱり違うな……!」
いやいやそんなと、謙遜する央佳。長話になるのかなと、アンリを地面に降ろして改めて会釈する。アンリは李沙華の奥に立つ少女に、どうやら興味を示している様子。
近付いて行って、何やら興味深気に話し掛けている。
李沙華の連れているNPCは、初めから槍装備のアマゾネスタイプだったらしい。なかなか勇ましい格好だが、やはり可愛らしさも浮きだっている。
こう言う装備って、アンリに似合うかなと心中で央佳の葛藤。光種族の李沙華は、こちらの悩みに関係なく苦労話をぶちまけている。央佳と同じく、子供NPCに苦労しているらしい。
さもありなんと、先輩保護者の央佳の内心。
その後も何だかんだと話は弾み、その後ろでアンリも少女と小声で話し込んでいた様子。その内李沙華は気が済んだのか、フレ登録を催促してそれじゃまたねと去って行った。
しばらくして我に返った央佳だが、何一つ事態は進展していない事に気付いて軽くショック状態。やる事リストの次は、街の冒険者ギルドで後付けジョブの選定だ。
買い物の終わった祥果さん達と、そこで合流する予定なので。
時間が無いと、急いで娘の防具合わせを始める央佳。取り敢えず革製のベストと編み上げブーツを装着させると、途端に勇ましい印象が加わって来た。
基本は白いワンピースに合わせているので、防御は全然高そうには見えないけれど。術者ベースなので、多少の犠牲は仕方が無い。どっちみちアンリの戦法は、影騎士の召喚がメインなのだし。
最後に購入した両手槍を持たせて、簡易アマゾネスの出来上がり。
この両手槍も少し変わってて、知力とMPにボーナスが付いている。大柄で無い分攻撃力も高くは無いが、連続で振り回すには便利である。
元々アンリは、腕力はそんなに高くないのだ。
それでも新しく与えられた玩具を、アンリは気に入った様子。ブンブン振り回しては、石突で地面をノックしている。それから父親に、早速使ってみたいと催促の言葉。
それじゃあ家族に合流しようと、央佳は三女をエスコート。
――小さなレディは、粛々とそれに従うのだった。
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