第25話 忙しくなる前に、宴会




 喫茶店を出た途端、騒がしいテルが央佳の脳を揺らした。どうやらさっきから、ずっと呼び続けていたらしい。喫茶店の個室は防音だから、それが届かなかったようで。

 相手はギルマスのマオウで、既に祥果さんと遭遇して回収したとの話。そこまで事態が進んでいたとは、さすがの央佳も驚きだ。急いでネネを抱えて、街外れにある飛空艇乗り場へと向かう。

 祥果さんからもテルが入って、今どこにいるのと詰問口調。


 いや、そう聞こえたのは自分の心にやましさがあったせいなのかも知れない。ナニもしてませんよと言い訳じみた返事に、祥果さんは不審さを感じ取った模様。

 すぐに来なさいと、いつものほんわかした雰囲気はどこへやら。本気で怒っている訳では無いのだろうが、放っておかれた状況も加味されているのかも。

 央佳はいつしか、家族と合流しようと小走りモードへ。


 こんな焦った感情は、PK軍団に包囲された時にも起きなかったと言うのに。ネネは即席のお馬さんダッシュに、心底楽しそう。人形を掲げて、空を飛んでるぞのポーズ。

 王都からギルド領の館に出向くには、街外れの広場から飛空艇で飛ばないといけない。それによって約5分、空の旅を堪能して辿り着く訳だ。

 そこに領地を含む、ギルド所有の館は存在する。


 領主の館は、全てのギルドが所有している訳では無い。これを取得するには、結構な条件クリアが必須である。つまりはミッションPの大量交換で、ようやく所有が許される。

 もちろんここまでの大物は、個人の力ではまず無理なので。央佳ももちろん、所有に至るまでに幾らかの貢献はさせて貰った。それだけに愛着もあるし、使用頻度も高い。

 今も軽い昂揚感、館の中を飾るのにも結構苦労したなと思い出しつつ。


 ネネと一緒に高い場所からの景色を楽しみながら、親子で空の旅を満喫する。あっという間に飛空艇は、館の裏手のエアポートに華麗に着陸を決めて。

 迎えに出て来てくれたのは、同じギルメンの闇種族のアタッカーだった。名前を鳳鳴ほうめいと言って、主にこの館の管理人みたいな仕事を請け負っている。

 央佳はその姿を確認して、軽く挨拶を飛ばす。


「ようっ、桜花……久し振りだね。ギルマスもお前さんの嫁さんも、もう大広間にいて何か準備的な事してるよ?」

「マジかよっ、何で俺だけ出遅れた……!? 他のみんなは、もう集まってるのか?」

「大体の連中は、もう集合済みかな……こう言う集まりって久し振りなんで、みんな凄いテンション高いから。

 そう言う意味では、覚悟しておいた方がいいよ、桜花?」


 マジかと再び央佳の独り言、彼の所属するギルドはお調子者率が結構高い。その癖、難しいクエやミッションになると、一丸となって取り組む職人気質な面もあるのだが。

 今回はどうやら、お調子者の面が溢れ出そうな雰囲気がプンプン。先に単独で放り込む形になってしまった、祥果さんがちょっと心配だ。

 ネネを抱きかかえ、急ぎ足で鳳鳴に言われた大広間に向かう。


 央佳の館の使用頻度は割と高いし、迷う事は無い。だけど、大広間は滅多に使わない事も事実で。確かコッチだったかなと、勘を頼りに足を踏み入れたその部屋は。

 何と言うか、もう既に人で溢れて大変な惨状だった。


 ようやく準主役のお出ましかと、皆の手荒い出迎えの言葉を受け。彼らの言う主役は祥果さんらしいが、肝心のその姿が見当たらない。人が多過ぎだ、こんなにいたっけと央佳は自分の所属するギルドの大きさに改めて戸惑いを覚える。

 ようやく見付けたのは、メイとアンリの娘二人の姿だった。見た事の無い揃いの衣装を着て、変な振り付けで踊っている。何をしてるんだと、央佳は思わず問い詰める。

 それほどその舞いは、央佳の意表を突いていた。


「メイにアンリ……二人とも、何してるんだ? それより祥果さんとギルマス、どこにいるか知ってるかい?」

「あっ、パパ! お披露目パーティだから、私達はお披露目ってるの! ネネも混じりなさい、ここに衣装あるから……祥ちゃんなら、向こうで料理の準備してるよ?」


 メイの指差す方向を見ると、なるほどテーブルの準備をしている妻の姿が。それを律儀に、ギルマスと数人のメンバーが手伝っている。ルカも同じく、出来た料理をテーブルに並べている。

 話し掛けたい央佳だが、知り合いが次々に寄って来てそれも儘ならず。近況やらリアルの事情やらを尋ねられ、適当に返事をしながら家族の様子を窺い見る。

 ネネも参加しての踊りは、もう既にカオス状態。


 このギルド『発気揚々はっけようよう』の男女比率は、7対3位で♂の方が多いのだが。少ない比率の女性たちが、踊る子供の周りに集まってワーキャーと物凄い騒ぎよう。

 一緒に踊り始めているのは、完全後衛仕様の牡丹ぼたんと言う雷種族キャラ。その娘と仲の良い炎種族の斧持ちアタッカー、翡翠ひすいもその輪に加わり始めて、場はさらにパニックに。

 同じ衣装で可愛く踊る、我が娘達は確かに目立つ存在だけど。


「おーーーい、そろそろ歓迎パーティ始めるぞーー!! テーブルの準備も何とか出来たし、桜花もいつの間にか到着したみたいだしw

 ええっと、まずは自己紹介から始めるから、役職持ってる人はテーブルのこっちに来てくれるかな……?

 あっ、桜花夫婦は上座にどうぞw」


 ギルマスのマオウのその一言で、騒がしかったその場は幾分冷静さを取り戻し。ぞろぞろとメンバーは移動を始め、央佳も言われた通りに上座らしき方向へ。

 祥果さんの、どこ行ってたのとの小言を反省顔で受け流しつつ。お手伝いを補佐していた、ルカのひっつき攻撃にも笑顔で対応。どうやら褒めて貰いたいらしい、先ほどまで一生懸命テーブルの支度を頑張ったらしく。

 良く頑張ったねと、頭を撫でながら父親の役職を果たす。


 子供達もいらっしゃいと、祥果さんの呼び掛けに。転がるように集まって来た妹達、こちらには祥果さんの褒め言葉が。確かに即席の踊りは可愛かった、それからお揃いの衣装も。

 そんな小言での遣り取りの合間にも、ギルマスの紹介は始まっていた。まずは自身の紹介をマオウが、それからサブマスの位置にいる♂氷種族の飛香あすかが続く。

 飛香は癒し系のギルマスと違い、しっかり者で頼れる人物だ。


 それからさっき央佳を迎え出てくれた、館の管理人を担っている鳳鳴。央佳と仲の良い朱連しゅれんは、特に役職は無いが大物NMの討伐時などには指揮を執る事が多い。

 朱連は自他共に認める、ギルドでトップクラスの実力者である。まぁイン率も高くて、廃人気味ではあるのも確かなのだけれど。央佳を含めて、この辺りまでが古株である。

 最初は10人程度の、ありふれたギルドから始まった訳だ。


 追加で紹介されたのは、ミッション推進委員の牡丹と言う♀雷キャラ。先ほど、子供達の踊りに加わって騒いでいた娘なのだが、実は管理能力はとても高い。

 ミッションと言うのは、もちろん現在『発気揚々』が全力で解明に取り組んでいる、新種族の関連ミッションの事である。今の所ほとんど手掛かりは無いが、それは他のギルドも同じ事。

 何とか先んじて、新種族との渡りをつけたい思いは皆同じ。


 その次に、今度は桜花家族の自己紹介へと場は移行して。央佳は別として、新しくギルドに加わった祥果さんには熱烈な反応が。だだし、祥果さんの挨拶は極めて簡潔に終了。

 自身がこの世界へ至った経緯は、話さない様にと前もって夫婦で取り決めてあったので。そして問題の幻種族スタートには、何故か誰からも深い疑念を抱かれず。都合良くスルーされたのは、何か不透明なフィルターの仕業だろうか。

 とにかく、ギルドの面々には温かく受け入れられた様子。


「そう言えば、子供達に変化があったってこの前言うてた気がしたけど……ちゃんと言う事聞くようになったんか、桜花?」

「ああ、ルカとアンリは装備のカスタムも出来るようになったぞ。なんか信頼度が一定数まで上がるのが条件で、それ以前は神様からの加護で敵や人攫いから身を護っていたらしい」

「へえっ、そんな設定になってたんやな……それじゃあ、その加護とやらが無くなったって事は、子供たち弱体化したんか?」

「そうだな、弱くはなったけど元が新種族だからねぇ……種族スキルから種族魔法から、聞いた事の無い並びが揃ってたりするからなぁ。

 カンスト冒険者と、強さはあんまり変わらないかも知れないw」


 それは相変わらずチートだなと、仲間の反応はからかう者が多数。今後の活動方針を心配するマオウに、央佳は今まで通りのソロでの活動を提案する。

 とは言っても、祥果さんの育成がメインの活動で、その護衛のヘルプを匂わせての報告だが。最近、闇ギルドのPK襲撃が頻繁にあるとの事実を告げると。

 案の定、親切なギルメン複数から護衛の提案が。


 サブマスの飛香が、それなら対闇ギルドの委員を立ち上げようかと提案して来た。央佳がそれを受けて、実はあの“因業いんごう”のルマジュに目を付けられていると告白する。

 それに色めき立ったのは、他ならぬ朱連だった。彼も1度倒された相手だ、しかもその時に結構レアな装備を剥ぎ取られていたらしい。そんな訳で、積年の恨みとリベンジに燃え立っている様子。

 ところが飛香とマオウが指名したのは、♂闇種族の夜多架よたかと言うギルメンだった。


「夜多架なら、闇ギルドの情勢にも詳しいし適任じゃないかな? 初心冒険者の世話も良くやってくれてるし、ウチでももう中堅だしね。

 戦闘力も並以上にあるから、護衛能力も高いだろうし」

「そうだね、朱連もサポートしてくれそうだし、いいんじゃないかな? 夜多架もそれで構わないかな、特に報酬とかも無いんだけど……」

「構わないですよ、面白そうだし……むしろ桜花さんには昔からお世話になってるんで、恩返し出来るのは光栄ですから。

 ってか桜花さん、さっきチラッと闇ギルド関連の悩み事が増えたってこぼしてませんでしたっけ……?」

「あぁ、いや実は……夜多架っちは、そっち関係に詳しいって話だったから、後で訊こうと思ってたんだけど……。

 例の借金返済クエでさぁ、何か“不夜城”に潜入しろって依頼が……」


 えええええっ!!! と、その場の全員が仰天リアクションを見せる。テーブルの料理を摘み食いしていた子供達はビックリ、何事かと周囲を窺っている。

 祥果さんも慌てて、何の騒ぎかと旦那に問うも。クエで犯罪者以外、誰も行った事の無い街へ行く事になったんだよねと簡潔に説明する。

 そんな危ない事しちゃダメでしょと、祥果さんの当然の反応に。


 ギルドの面々も、概ね同意の意見ばかり。それは無茶を通り越して無謀だとか、お金は別の手段で返した方が早いとか。当の央佳も同意見なのだが、何しろそんな選択肢がクエに出て来ない無理難題な仕様だったりする。

 つまり結局、挑む事になりそうな雰囲気が。




 この議題は、後で相談しようとギルマスの采配の後。続いて残りのメンバーの自己紹介と、新しいメンバーの祥果さんへの質問が繰り広げられ。

 旦那さんとの出会いだとか、子供達の萌えポイントだとか。特に央佳にお酌しているルカと、お人形を持って父親の膝の上を占領しているネネの人気が異様に高い。

 女性陣のツボに、相変わらず嵌まっている様子。


「一番小っちゃい子の竜化は見た事あるけど、普段はこんな甘えん坊なんだねぇ? 人形抱えちゃって、本当に可愛いなぁ!」

「ぷはぁっ、何だか今日は酒が旨いな! ……この人形とかこの子達のリボンとか、全部祥ちゃんの手作りだよ。

 奥さんの趣味と実益で、どんどん増えて行ってる」

「うへえっ、それは凄いなぁ……今着てるお揃いの服も? そう言えば、ルカちゃんとアンリちゃんだっけ。装備弄れるようになったんでしょ?」


 央佳はそこで、ルカの新装備を皆に披露する。酔った勢いで、どうだと言わんばかりの勢いだったが、着替えた長女の装備を鑑賞していたメンバーからは批難轟々ひなんごうごう

 手抜きだろうとか金をケチったなとか、愛情を感じないとか何で片手で両手剣持ってんだとか。ルカの要望が、父ちゃんと一緒が良いって言うからさーと、央佳は上機嫌。

 お酒が良い感じにまわっている様子、元々強くは無い体質なのだけど。


 場は完全に、この子の装備をもっとマシな物に変えてあげようとの雰囲気に。善意の集団は、そのまま館の宝物庫に。ここには各人が、自分の使わない良装備を寄付した武器庫があるのだ。

 もちろん売れば金になるが、レア装備やユニーク装備は滅多に出会えるモノではない。それならギルメンに使って貰おうと、そんな試みから出来た設備だ。

 その品揃えは、実はなかなかのモノ。


 女性陣の意見では、今の無骨な大剣は問題外らしい。これはルカの熟練度の低さから、央佳が耐久度のみを考慮に入れて選んだもの。せいぜいCクラス級で、確かに装飾の類いは皆無。

 ギルメン♀集団が選んだのは、装飾過多の大振りの大剣だった。確かに綺麗だし、女性が喜びそうではある。しかも以前の剣よりダメージは大きい、その分耐久度は低いけど。

 戸惑いっ放しのルカだったが、酔った父親の鷹揚な頷きに少しだけ安心する。


 続いて盾の選出となったが、これも意見が紛糾。強さ硬さを求める声と、華美さを追求する意見が空中衝突して。騒がしい議論の遣り取りの後、最終的にユニークな一品が選出され。

 それは『深知の盾』と名が付いていたが、装飾は獅子の勇ましい顔と言う至ってノーマルな感じのモノだった。その獅子顔が立体的に過ぎる点が、まぁ変わっているとも言えるけど。

 肝心の能力は、知力とスキル技にボーナスが付くらしい。


「この盾、防御力も含めて本当はかなり良い性能なんだけどさ……知力ボーナスは別として、結構お喋りなんだよねぇ。

 戦闘中に吹き出しで視界を遮られると、本気でイラッと来るんだよw」

「へえっ、この獅子の顔が喋るの……? 確かにスキル技にボーナスは、普通に欲しい性能だよねぇ?」

「喋ってるの見てみたいw ルカちゃん、話し掛けてみてw」


 初対面のギルメンに次々と話し掛けられて、人見知りの長女はプチパニック状態に。慌てて父親の影に逃げ込んで、庇護を求める構え。

 そんな姿も可愛く映るのは人の性、酔っ払った央佳はルカの持つ盾に話し掛ける始末。楽しそうな風景に、釣られてネネも盾の獅子の口の中に手を入れようとする。

 子供特有の好奇心に、しかし応えるのは超渋い声音こわね


『幼子よ、私の牙は鋭いから指を怪我しない様に気を付けて……。お嬢さん、貴方が私の新しい主人マスターかな?

 以後宜しく、出来るなら末永いお付き合いを望むよ』

「おおっ、本当に喋るのな! 凄い凄い……コレって、冒険の為になる事も話すの?w」

「さあ……わかんないww」


 そんな感じでの騒ぎながらの問答、新しい玩具を貰った姉妹は、端っこで盾と人形を交えて遊び始める。他にも使える装備を探す者、ユニーク装備の話に興じる者。

 その場はどんどんと、カオス状態へ突入。


 それを引き締めたのは、やはりサブマスの飛香だった。元の大部屋へ皆を誘って、話を無理やり軌道修正する。

 つまりは本日の主役は、祥果さんと子供達だと。


 ところが貰い物をしたお返しで頭が一杯の祥果さん、子供達を呼び寄せて何やら耳打ち。央佳は既に端っこで出来上がっていて、傍観者以下の扱いへ。

 そんな観客たちを前に、子供達は日中練習していた歌を披露。



 歌い終わっての拍手喝采は、想像したよりもずっと大きなものだった。ちょっとビックリ顔の子供達、はにかんだネネなどは速攻で父親の膝の上に避難している。

 宴会の出し物として、割と完成されたレベルだと絶賛の嵐。確かに可愛らしくて歌も上手だったと、央佳は膝の上の娘を掻い繰り回して褒めている。

 完全に酔っ払い状態、ネネは楽しそうだから良いのだろうが。


 何とか軌道修正された宴会は、サブマスの飛香の舵取りで祥果さんの質問タイムに。素朴な疑問だと前置きして、祥果さんはこのギルドの名前の由来を質問する。

 『発気揚々』との名前は、相撲のハッケヨイの語源なんだとギルマスのマオウの解説に。お相撲が好きなんですかと、呑気な祥果さんの相槌。

 この人はリアルでお相撲さん体型なんだよと、ギルメンの容赦無い突っ込み。


「ギルマスの情けない体型は置いといて、他にも面白い名前のギルドは結構あるよね?w」

「あるあるw 有名な面白いギルド名だと『ファイナルファンシー』とか『銅鑼婚どらこんクエスチョン』とか、いかにも受けを狙った奴とかねww」

「あざといやり方だけど、実はメンバー数は多いんだよね、2つとも。ウチも老舗で、メンバー数も多い方だけど」

「確かにねー、人数多いと出来る事も途端に増えるし、あちこちで合併とかの噂は聞くよね?」

「聞くよね~♪ 『エターナル』も老舗だったけど、どっかと合併するらしいよ?」

「えっ、マジ……? 俺、あそこに知り合いいたんだけどなぁ……」


 ギルドの話は勝手に盛り上がって行き、メンバーはあれこれ噂を口にする。愛想良く耳を傾けていた祥果さんの、隣の子供達は既に好き勝手し放題の有り様。

 央佳も既にへべれけ状態、奥さんの指示でさり気無くルカが、酒の入ったグラスを遠ざけていて。ご機嫌な父親に、ネネが人形遊びをせがんでいる。

 見事な姉妹のチームワーク、それを周囲で和んで見ているギルドの面々。


 央佳の隣に座る朱連が、このまま王都を拠点に活動するのか尋ねて来た。央佳は少し考えて、諸々の用事が済んだらエルフの里へと向かうと思うと答える。

 借金返済クエストを、少しでも進めておきたい心情は一応あるのだが。最後の難関の“不夜城”の存在が余りに大き過ぎて、二の足を踏んでいる状況だったり。

 それでもコツコツと、進めて行くしかないのも事実。


「おいおい、頼むぜ桜花……! 俺らで取り掛かってる新種族のミッションも、お前が抜けた後も芳しい功績が上がってない状態なんだから。

 早く変テコなクエ終わらせて、こっちに戻って来てくれよ!」

「あぁ、そりゃあみょう……あれ、話してなかったっへ? この前仲良くなっは女戦士が、一緒にミッション進めないかっへ言われて。

 ……それがどうみょ、新種族かんへーらしいにょ?」


 それはマジかと、ギルマスのマオウも興奮気味に話に乗っかって来る。余りにミッションの進行が停滞気味なお蔭で、皆がこの所ずっと煮詰まっているのは本当らしく。

 向こうの条件を央佳が思い起こしながら告げると、それじゃあ引き続きソロ活動でミッションの手掛かりを集めてくれとギルマスの任命。向こうが欲しいのは、恐らく一番乗りの栄光だ。

 こちらは二番手で充分、その情報だけ貰えれは万々歳である。


 停滞していたミッション進行に光明が射し込んだ事で、その場の雰囲気は一気に明るくなる。確かに一番手の栄光は欲しいが、新種族のスキルと面会する機会も早く得たい。

 大掛かりに動きを見せているギルドは、他にも幾つか存在するので。新種族のミッションに関わっているギルドメンバー達としても、気が気では無い状態なのだ。

 新種族の数は5つ、せめてその内の1つでも自分達が一番乗りしたいモノ。


「他に尽藻つくもエリアで活発に新種族ミッションに取り組んでるギルド、どこがあるっけ?」

「はっきりと動いてるのは『Dsellディーゼル猿人えんじん』と『梟野鼠ふくろのねずみ』と『アミーゴゴブリンズ』かなぁ? 闇ギルドでは、『十三階段』あたりを良く見掛けるよ。

 あそこは人数多いから、フィールドで会うと緊張が走るねぇ……」

「確かに、こっちも一応は人数揃えて動かないと危ないよね。ってか、一番人数が多いのは『アミーゴゴブリンズ』なのかな?」

「あそこはバーチャ化以前のファンスカから、連綿と続いているギルドだからねw 聞いた話だと、ゆうに100人以上いるって噂だよw」


 ウチの約2倍じゃんと、その大規模さにあちこちから驚嘆の声があがる。その頃には央佳は完全にダウン、机の下で寝息をたてている有り様。それにネネが寄りかかって、一緒に寝てしまおうかと企んでいたりして。

 この集会の集まり的には、30人以上が参加しているので出席率は7割程度と高い方だ。しかもその7割以上が、既にカンスト済みで戦力も割と高い方。

 数あるギルドの中でも、老舗で統率のとれている集団は珍しい部類に入るかも。


 他にも熾烈な競争の果てに脱落したギルドも多数存在する、新種族ミッションはそれ程に激ムズである。今はその絞り込みが一段落して、広大な尽藻エリアを探索するギルドのメンバーは限られている感じ。

 その中から一番手が出るとは限らないが、少なくとも近い存在には違いない。





「尽藻エリアの探索も、取り敢えずは頑張って行かないとね~。ウチん所も老舗ギルドなんだから、そこら辺の面子に掛けて!w」

「うぃ、ガンバロー♪ ……ところで桜花たん、どうしたの?w」

「んー、なんか……『炎の神酒』で酔っ払ったみたいwww」






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