第18話 ゲーム説明と雪の街報告の回




 遅きに失する感もあるが、ちょっとこの『ファンタシースカイ』のゲームシステムの説明をさせて頂きたいと思う。つまりは各アバターが、どのように成長を遂げて行くかの過程について。

 以前にも少し説明はしていたと思うが、このゲームはスキルP振り込みシステムを採用している。キャラのレベルが1つ上がると、各ステータスやHPなどの値が上昇するのは当然だが。

 それとは別に、キャラには2Pのスキルとステータスの振り分けPが手に入る。


 ステータスには筋力や敏捷、知力や精神など6つあって、それぞれが属性と結びついている。つまりは筋力=炎属性とか、知力=氷属性とか。ちなみに闇属性はSPと、光属性はオールマイティに関連性があるらしい。

 これは最初のキャラ決定にも関与していて、ここから前衛にするか後衛にするかのアバター設計は始まっている。前衛向きは炎(筋力)や土(体力)、後衛向きは水(精神力)や氷(知力)だろうか。

 もちろん他の属性を選択しても、個性のあるキャラは作成可能だ。


 つまりはそう言う選択の広さが、このゲームのシステムの根底には存在する。属性の相性を無視しても、そこそこ味わいのあるアバターは出来上がってしまうのだ。

 レベルが上がる毎に得られる、2Pのステータス振り分けポイントを、筋力や体力に振り込めば前衛に。知力や精神に振り込めば後衛仕様になって行くのだから。

 そんな感じで、このゲームはアバターを成長させて行く訳だ。


 もちろんあらかじめ構想を練って、それに沿って成長させた方が強いアバターが出来る確率は上がるだろう。ところが、好みのスキル技や魔法を揃えようと思っても、そう簡単にはいかないのだ。

 何故ならば、このゲームはスキル技や魔法取得は完全にランダムだから。


 これはなかなかに大変だ、スキルP振り込みシステムが売りなのに、せっかくレベル上げして溜めたスキルPを振り込んでも、得るスキル技や魔法がランダム入手な訳だから。

 もちろんレアなスキル技が思いもかけずに出た時は嬉しいだろうが、欲しいスキル技や魔法がなかなか手に入らなかった日には、もう地獄である。

 それだけに、レア技やレア魔法を序盤に手にしている冒険者は、羨望の的ではあるのだが。


 スキルPもレベルが上がる毎に2ポイント入手が可能である。これを8属性のどれかに10ポイント振り込めば、1つ魔法を覚えられる算段だ。そして武器スキルに振り込めば、必殺技を入手出来る。

 たまに補正スキルが出て来るが、スロットに空きがあればそちらも有り難がられる。武器スキルはスロットにセットしないと使えない、これは補正スキルも同様だ。

 スロットには数の制限があるので、魔法と違ってどれを優先するかは悩み処だが。


 要するに、強烈な武器スキルや補正スキルをたくさん持っていても、スロットが少ないと全てを生かし切れない訳だ。スロットの数は、種族やレベルによっても違いが出て来る。

 属性種族を決める時には、そんなところも見る必要がある訳だ。


 得たスキルを活用するために、スロットの空きは必須と先程紹介したけれど。それとは関係無く常時作用するスキルが、実はこのゲームには2つ存在する。

 それが種族スキルと生活スキルである。種族スキルは各キャラのレベルが10上がる毎に勝手に取得して、その全てが補正スキルで構成される。取得するのはその種族に沿ったものばかり、つまりは炎種族だと腕力とか炎属性に関するスキルが大半を占める。

 そう言う所も、最初の種族選びが大切な謂れである。


 ちなみに桜花は風種族、取得している種族スキルは敏捷に関するモノが多い。例えば《移動速度5%up》や《詠唱速度up》、その他《風魔法威力up》などが代表だ。

 変わり種には、ピンチの時に自動的に発動する《風神》なども有名だ。これは桜花のHPが2割を切った時に自動的に発動、周囲の敵を暴風で吹き飛ばすスキルである。

 種族の差は、こんなところでも見受けられる訳だ。


 さて、生活スキルはそれに比べるとトーンダウンしてしまうが、取得して損は無いスキル群ではある。これは圧倒的に後付けジョブ、つまりハンターPを消費しての獲得が多い。

 後付けジョブとは、通称『戦闘体系派生システム』と言って、冒険者の職業に幅を持たせるために後から公開&活用されたシステムである。レベル1からでも取得可能だが、王都にまで出向いて、しかもハンターPを持っていないと無理。

 まぁ、つまりは実質Fクラス冒険者には不可能なのだが。


 それでどんなものが存在するかと聞かれると、これは文字通りに生活に便利なモノばかりで。例えば『移動速度up』とか『乗馬』や『買い物上手』とか、戦闘寄りだと『ヒーリング速度up』とか『気配察知力up』などだろうか。

 合成に関連したスキルや、ドロップ品の数を増やすスキルも存在するらしく、持っていれば便利な事この上ない。スキルスロットも関係なく増やせるし、その点でも優秀だ。

 生活スキルにもレアは存在するらしく、皆の羨望の的である。


 先程ハンターPの話が出て来たが、これはNMを倒すと入手出来る。強いNMを倒すとたくさん手に入るが、倒した人数で割られるので貰えるポイントはそんなに変わらない。

 とにかくそんな苦労をして、溜めたポイントで何をするかと言うと。さっきも言っていた後付けジョブのスキル技を、自分の好みで選んで取得するのだ。

 後付けジョブ、つまりは『戦闘体系派生システム』には『変幻』『戦士』『支援』『魔法』『召喚』『遠隔』『盗賊』『異端』とタイプが8つ存在する。取得出来るスキル技は、それぞれのタイプに見合ったモノである。

 これで得たスキル技は、スロット関係無く使用が可能である。


 簡単にざっと説明すると、『変幻』タイプは片手武器の、『戦士』タイプは両手武器アタッカー用のスキルが出る感じだろうか。『盗賊』や『異端』は、闇ギルドの連中が好んで選ぶそうだが、別に絶対選ばないと駄目って決まりはない。

 複数選ぶ事も可能だが、2番目以降はポイントが余計に掛かってしまう。メインは10Pで済むのだが、2番目や3番目のジョブになると13P~17Pでの交換となってしまう。

 それでも多機能を求めるベテラン勢は、その苦労を厭わないけど。


 そんな感じで、プレーヤー達は冒険を重ねてお金や経験値や、そして体験そのものを重ねて行く。そしてNMと戦ってハンターPを、クエやミッションを重ねて新たな冒険の地を得て。

 そのついでに入るミッションPは、宝具と言う性能の凄い武具と交換が可能だ。他にも領主の館やキャラバン隊、各種宝玉やダンジョンチケットなど消耗品とも交換可能で。

 それを求めて、冒険者たちは日々切磋琢磨している訳だ。



 説明が長くなってしまったが、最後に武器と防具の事について語らせて欲しい。武器には片手用と両手使用が存在し、片手だと(スキルがあれば)二刀流か盾との併用が選べる。

 片手武器には短剣や細剣、片手剣や片手斧などが存在する。両手武器には両手剣や両手鎌、さらには両手槍や両手棍など威力の高いモノがずらっと並ぶ。

 ただし、両手武器は扱いが難しく攻撃間隔が長いのが欠点だ。


 その反対に、片手武器は攻撃力は完全に両手武器に劣るが、付加性能のついた良品が多い。《二刀流》のスキルが出れば左右に武器を持てるし、左手に盾を持てば防御力が上がる。

 更にはスタン系のスキルの並びが豊富なので、戦闘では敵の特殊技を潰す役目を担う事が多い。魔法戦士にも育ちやすいし、汎用性では両手武器アタッカーよりは上かも知れない。

どちらを選ぶかはその人の好み、破壊力を取るか汎用性を取るか。


 武器はスキルポイントが上昇すると攻撃力も上がって行くが、その他にも大事な数値が存在する。それが熟練度で、こちらはその武器を使い続ける事で自然と上がって行く。

 その結果、その武器をうまく使いこなせるようになる感じだろうか。


 防具は大まかに分けて、布製と革製、それから金属製が存在する。こちらも武器と同じく耐久度が存在するので、戦闘で消耗するたびに補修が必要になって来る。

 金属製の方が防御力は高いが、移動や詠唱時間が遅くなる欠点がある。布製はその反対なので、後衛は好んでこちらを選ぶ。魔法戦士は、その中間の革製を好んで使用する。

 戦闘で死んだりすると、防具が破損したりとペナルティも存在するので。維持には結構なお金が必要で、冒険者泣かせではある。その代わり、良品を装備していると目立つ事請け合い。

 羨望と賞賛が、何より冒険者のアイデンティティなのだから。


 アクセサリーは反対に余り目立たないが、良品奇品が多い。部位で言うと指輪や耳飾り、首飾りなどだ。

 これには耐久度は存在しないが、盗まれやすいので注意が必要だ。



 こんな感じで、大雑把な上駆け足での説明だったけれど。分かり難いなと思われた方は、別の著書でのチェックをお勧めする。この『ファンタシースカイ』の冒険譚とシステム説明が、こちらより細かに描かれている筈だ。

 著作は『街中がネットファイター(完全版)』と『街中がネットファイター ~百年クエストの章~』の2作である。後者は未完なので、まことに申し訳ないのだが。

 そちらも併せてお楽しみ頂ければ、著者としても幸いである――





 この“水と氷の街”ソルに滞在するようになって、既に3日が経過していた。雪の街と称されるこの地は、林業と漁業が盛んで木造の建物が多い。

 そんな街中を、子供達は相変わらず元気で無邪気に駆け回っている。保護者の立場の央佳と祥果さんに限っては、多少の気苦労の影響か、やや憔悴が見られはしたものの。概ね良好、むしろ元の世界の時より健康状態は良い気もする。

 良く食べ良く眠り、適度な運動が好循環を生んでいるのかも。


 子供を育てるって大変だと、改めて2人は痛感しているところである。しかもいきなり4人と来たもんだ、躾けも教育も当然4倍の手間が掛かる訳で。

 むしろ手の掛かる赤ん坊がいない状況に、感謝しないといけないのかも。それともこの子達を、赤ん坊から育てていたら少しは愛情の度合いや考え方も変わって来ていたかも知れない。

 何にしろ、育児は大変だと繰り返し思う央佳と祥果さん。


 取り敢えずはこの3日間で、クエスト消化からのワープ開通の儀式はめでたく終了の運びとなって。2組に分かれての競争の結果は曖昧に、最終日の夜のご馳走で揉み消して。

 それでも姉妹全員に、何かしらの景品は夫婦から配られたのだった。ルカには特性の髪飾りが、メイには祥果さん手作りのお財布が、アンリには手編みのマフラーが、ネネには央佳の作った積み木セットが。

 子供達の喜びと達成感は、それぞれ満足の域に達したっぽい。


 ルカの髪飾りは、央佳がギルメンに頼み込んで作って貰った特製品である。兜が装着出来ない長女にと、MPとSPに大幅に補整の掛かる装備を特注した訳だ。

 それからネネ用には、そこら辺に転がっていた角材で、数字と平仮名を彫り込んだ積み木を自作した央佳。積み木と言うより並べて遊ぶ木版みたいなものだが、数を作るのにはとても苦労した。

 2人とも喜んで貰えたのには、しかしその甲斐もあったけれど。


 メイの財布は布製で、可愛らしく名前の刺繍も入っている。たくさん入るようにと大きめに作ったのも、次女のハートを射抜いた様子。

 中身をいっぱい貯めるぞと、本人の鼻息が荒いのはアレだけど。


 アンリのマフラーも布製で、本当は毛糸で編み込みたかった祥果さん。さすがに3日では無理と判断して、その代わり布の素材とワンポイントの刺繍には入れ込んだ模様。

 祥果さんが三女にマフラーを選んだ理由は、至って簡単でアンリが寒がりだからである。他の子と違って季節モノはどうかと悩んだのだが、実利を取った経緯もあって。

 2日目には既に渡されていて、目下アンリのお気に入りらしい。


 こんなプレゼント込みの祝賀会だが、実は子供達の勉強へのご褒美の側面も。祥果さんが発案した、授業参加が10個貯まった時のご褒美、それを清算した格好でもあって。

 授業の成果はそれぞれに現れていて、それは個人的なお手伝いにも波及していた。特に長女のルカに関しては、料理のお手伝いに楽しさを見出している様子。

 そのせいもあって、祥果さんとルカの仲は急速に良くなって来ていたりして。


 ネネも普通に甘えるようになっているし、央佳の肩の荷はようやく2つ分は軽くなった。それでも悩みと言うのは、後から後から湧いて出るモノ。

 今の央佳の最大の悩みは、ここの所何かと縁のあるPK軍団である。


 奴らのやり口は、やはり弱い者を好んで狩るタイプが多いようだ。祥果さんがせめてレベル100を超えてF クラスを脱するまで、ギルメンに護衛を頼めないだろうか。

 祥果さんには、既にギルドバッヂを渡して入会の形は整えてはいるのだが。他のメンバーと、全く面識が無いのは痛手だし不都合でもある。

 取り敢えずは、ギルマスのマオウや央佳と親しいメンバーとの面会を果たさないと。つまりは王都だ、そこに辿り着くのがまずは先決。

 この街でのワープ拠点通しも終わったし、移動に支障はない。


 そんな指針は立ったものの、もう少しだけ姉妹のこの3日間の動向をお知らせしよう。長女のルカはさっきも少し話したけれど、料理を通じて祥果さんと親しくなって。

 これには祥果さんも感激、物凄い張り切りようで料理の技を伝授している。これによって桜庭家では、出来物を買っての食事の割合がほぼ無くなった。

 つまりは毎回、祥果さん渾身の料理がテーブルを賑わす事に。


 それについて央佳も子供達も、何の不満も無い。むしろ喜ばし気で、毎日賑やかな食事風景が繰り広げられる。ルカの料理の腕前に関しては、まだまだ上達の兆しは見えないが。

 祥果さんは、それについては長い目で見る事にしている様子。


 一方、央佳は空き時間にルカとメイに合成を教えようと試みてみたのだが。どうもこれは駄目だったようで、属性石はうんともすんとも反応しない結果に。

 ファンスカの合成は色々と種類が存在するが、鍛えて行けば難しいレシピに挑戦出来るようになって行く感じだ。ところが初心者用のレシピにも、作業工程は進まない有り様。

 姉妹も央佳も、この結末には激しく落胆。


 ルカもメイも元々NPC設定だったので、そこが枷になっているのかも。それとも尽藻つくも大陸出身の2人には、8属性を基盤にする合成は無理なのかも知れない。

 どちらにせよ、駄目だと分かっただけでも収穫には間違いなく。人には向き不向きがあるんだよと、落ち込む長女と次女を慰めながら。

 ゲーム設定を深層に持つ、この世界に軽い苛立ちを覚える央佳。


 まぁ、世界の法則はいつだって理不尽だ。人間の為だけに存在する訳では無いのだし、そこは仕方ないと割り切らないと。その点、三女のアンリは毎日に何の不満も無い様子。

 祥果さんが母親役のこの生活に、いち早く慣れたのもアンリだった。今や祥果さんとの信頼度も、この子が一番高くて300を遥かに超えている。

 央佳との信頼度も250超え、次に神様の“加護”を返すのは恐らくこの子だろう。


 普段の無表情に反比例する甘えっ振りは、何とも愛らしく。祥果さんの可愛がりようも半端では無い、素直にお手伝いを買って出てくれる親孝行振りも含めて。

 実の親子でも、ここまで仲良くは無いんじゃないかと央佳などは思うのだが。その信頼度の上昇は、姉妹間にも確実に良い方向へと作用しているっぽい。

 四女の世話も進んで引き受けて、今や良いお姉ちゃんのアンリである。


 これには央佳も大助かり、とにかく世話の焼けるネネだったりするので。姉妹2人での一番のお気に入りの遊びは、何と言ってもお人形でのままごとなのだが。

 祥果さんが忙しい合間を縫って、人形に洋服を作ってあげた事もあって。2人のテンションは超アップ、どこに行くにも人形は手放さない周到さ。

 共通の趣味が、案外2人を何良くさせているのかも。


 ネネに関しては、とにかくお勉強を教えるのに熱が入る央佳。とにかく繰り返しが苦にならない年齢だけあって、数字から平仮名からどんどん吸収してくれるので。

 教える方も、楽しくて仕方が無いと言うか。そんな感じで、四女への文字入り木版のプレゼントが決まったと言っても過言ではない。

 それを喜ぶ姿も、父親冥利に尽きる央佳であった。


 勉強好きという点では、しかしメイもかなりのモノと言わざるを得ない。教わる方が根性を見せると、物事は何でもこんなにスムーズに運ぶと言う好例である。

 数字をあっという間に覚えると、メイの興味は簡単な算術に突入して。祥果さんの作る例題を、次々に解いては喝采を上げている。その姿勢は、姉妹にも飛び火して。

 今やクイズ合戦のように、我先にと問題を解くのに皆必死な有り様。





 ――雪の街での家族の行事は、こんな感じで過ぎていたのだった。






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