第17話 炎の戦士と裏通りの闘い
翌日の朝の家族ミーティングで、今日する事は呆気無く決定された。つまりは“光と風の街”と同様に、この街にもワープ拠点を築く手順を踏むのだと。
向こうでは一番手っ取り早い、獣人の拠点攻めによる名声上げを選択したけれど。こっちでは、クエストをこなして行くと言うオーソドックスなやり方を採用する事に。
そっちのやり方に、祥果さん本人が興味を示したからだ。
そんな訳で、日中はクエストをこなすために街中を走り回る事に。話し合いの末、何故か祥果さんとアンリ、ルカとメイで2組のペア分けを行い、しかも競争するっぽい。
それは良いが、護衛役の央佳は大変である。大通りならまだしも、ドロップ品目的で街の外に出た時など、どのチームがどこにいるのか把握が大変で。
しかもネネのお守り付き、競争仕様なので子供達のテンションは上がりっ放し。
クエストでの名声上げは、当然だがそう簡単には行かない。何日か掛かってしまうのは決定的だろうし、のんびり行けば良いのにと央佳は思うのだが。
そんな雰囲気なのはネネただ一人、残りは忙しなくクエスト用紙を手に走り回っている始末。祥果さんまで、まるで借り物競争に引っ張り出された父兄の様相。
全く、子供の相手は本当に大変である。
「父っちゃ、みんな走ってるよ? ……ネネもはしる?」
「ネネは父ちゃと遊ぼうか……もう一回、1から数字を数えてご覧?」
央佳に促されたネネは、にっこり笑って元気に詠唱を始める。この頃の年代の子供と言うのは、全く繰り返しを苦にしない。気に入った台詞など、飽きもせずにずっと口にする。
ネネの記憶力は、まぁ実際大したものだ。付き合う央佳の方が、逆に疲れてしまうけれど。これも子供の将来の為と、疲れた顔を見せずに褒めるのを忘れない。
祥果さんは、本当に毎日良くやってるなと感心してしまう央佳。
事が起こったのは、祥果さんペアの何度目かのクエスト完了の報告の際だった。ネネを抱いたまま、それに付き合って冒険者ギルドの扉を潜る央佳。
彼女達が認証&報酬受け取りと新しいクエストを受けるのを、央佳がのんびりと扉の側で待っていた時だった。不意に荒々しく扉が開いて、一人の冒険者が入って来て。
ぐるりと周囲を窺って、ぴたりと央佳を
「……あんた、ベテランの冒険者だよな? ひょっとしてBクラスか、もっと上だったりするのかな?
ちょっとお願いがあるんだけど、聞いてくれないか?」
「あー、いやぁ……今は近親者の護衛中だから、ちょっと手が離せなくて。……ギルドの仲間か、フレに相談した方が早いんじゃないかな?」
「もちろん真っ先にそうしたさ! だけど相手が闇ギルドの連中だと知って、ビビッて誰も話を聞いてくれないんだよ!」
もちろんそうだろう、それが普通の反応には違いない。闇ギルドとは、つまりはPKやら裏町のはぐれ者の集団の事で、その勢力を伸ばそうと日々暗躍している輩だ。
どうやらギルドのクエスト依頼にも載ったらしく、しかもその報酬は30万とクエにしては破格だ。表の街の店にまで、みかじめ料をせびりに来たらしく、その対応をしろとの事で。
ファンタジー世界にしては生々しい、そんな依頼だ。
話し掛けて来た冒険者は女性で、自ら“
Aクラスとの事なので、幾つか宝具を交換済みっぽい。
だからと言って猛者の部類に入るかと問われれば、そこは微妙ではある。強さは装備のみで決まる訳でもないし、物凄く強烈なスキルや魔法を持っているとか、央佳のように強烈で個性的なオプション付きだとか色々だ。
彼女の手にする武器は両手斧で、一応破壊力はありそうだが。
何も報酬に目がくらんだ訳でもなく、ガッツリ直接の恨みもあるみたいだ。彼女のギルドの新人が、ここ3日立て続けに
アンタも他人事じゃないぞと、詰め寄られたけど確かにそれは一理ある。チラリと祥果さんに目を遣ると、困ってるなら助けてあげればと良く分かっていない素振り。
助けるのは
つまりは因業だ、あまり闇ギルドの住人と遣り合ってその値を上げたくないと言うのが央佳の本音。それでも連中がここを拠点にPKで弱い者虐めをしていると言うのなら。
遠くない未来に、かち合わせするのは目に見えている訳だ。それならこちらから乗り込む方が、ずっと警戒し続けるよりはマシかも。その上懸賞金が出るのなら、悪くは無いかも?
何よりずっと喧しく捲し立てるこの娘の、口上をこれ以上聞かずに済む。
「分かった、分かったよ……一緒に依頼を受ける、それでいいだろう? 祥果さん、悪いけどちょっと騒動が終わるまで、安全な場所で待っててくれないかな?」
「いいけど……大丈夫なの、央ちゃん?」
「あまり乗り気はしないけど、皆の安全のためだから仕方ないね。悪者退治のクエをこなして来るよ、桃太郎て言うお供のサル役かな?
ネネも連れて行く、アンリは祥ちゃんと待機な?」
コクリと無表情に頷く三女と、央ちゃん
あんたは割と有名人らしいなと、どうやらギルド会話か何かでこちらの素性を確認したっぽいヤンキー娘。でも二つ名が“
いきなりHPをごっそり持って行かれ、息も絶え絶えに。
「そ、そんな噂になっているのか……知らなかった……」
「父ちゃ、しっかり?」
「あぁ、それが例の子供か……しっかし、限定イベント2連覇って、あんたスゲーな!!」
今更褒められても、嬉しくも何ともない。ネネに頭を撫でられ心配されて、それだけが唯一の慰めか。子供にまでアンタはとんだ節操無しねと言われたら、もう布団をかぶって引き篭もるしか無い訳で。
そんな情けない心情の央佳だったが、裏通りの奥までやって来るとさすがに気が引き締まる。例えカンスト済みの猛者であっても、ここでは気を抜くと途端にやられてしまう場所だ。
せめて即席の相方が、そこそこの使い手であって欲しいモノ。
クエスト用紙はとことん親切で、殴り込みの場所までしっかり記載されていた。途中で変な輩ややたらと凶暴な野良犬に遭遇したが、何とかそれをやり過ごし。
いかにも陰鬱な建物の扉付近に、あからさまに性質の悪そうな見張り衆が2人。どうやらNPCのようだが、こちらが近付くとさらに2人奥から出て来ると言う厄介さ。
この難関クエに、30万ギルは安過ぎる気がして来た央佳。
「あんたらだな、ここ数日ウチの新人をPKしてる連中は! 手配書も出回ってる、大人しく観念してお縄に付くか、さもなくば私らに倒されるか、どっちか選ぶんだな!」
「なんだぁ……? 今から稼ぎに出ようと思ってたら、その手間を省いてくれるのか、お嬢ちゃん? 襲いに来るなら、せめてもう少し兵隊集めろよ……たった2人って甞めてんのかぁ?」
「バカ野郎どもめ、正義の味方は群れたりしないのだ! 今から貴様らに、天誅を行使する……“炎斬”のアルカの英雄的剛腕、とくとご覧あれっ!!」
一緒に来いと無理やり説得しておいて、群れたりしないとは酷い口上だ。って言うか、数的に不利なんだからダラダラ喋るより先手を取るべきだろうに。
相手はどうやら、伏兵を警戒しているらしい。今からPKに出掛けると言ってたから、準備は万端なのだろう。うん、新たにメンバーが4人と、NPCの闇傭兵が2人出て来た。
この超難関クエに、30万ギルは安過ぎるってば!
「粋がってるねぇ、お嬢ちゃん! 俺も一応名乗っておこうか、黄金ルーキーの“串刺し”のジャンだ、お見知りおきを。どうやら伏兵の類いは無いようだが、旨みも無さそう……おっと、そっちの兄さん『
欲しかったんだよねぇ、ソレ」
「えっ、マジ? 私もそれ欲しくて、頑張ってミッションP溜めてるんだけど……こいつら倒したら、何とか溜まりそうなのよ!」
そう言うのを、取らぬ狸の皮算用と言うのだ。自分で黄金ルーキーと名乗るのも、相当なアレだけど。所詮向こうはゲーム世界、こんなやり取りを含めて楽しんでいるのだろう。
こっちは相当必死な訳で、苦労して貯めた『鷹爪の腕輪』を取られるのを含めて冗談では済ませられない。これは高額ミッションPと交換で得られる宝具の一つで、冒険者の間では羨望の的となっている腕装備だ。
性能はスキルスロット+2、オートSP回復、攻撃力upなどが付く逸品だ。
もっとも、今はルカとステータス等を共有する『契約の指輪』の方が価値は高いけれど。そんな事を素直に教える謂れも無く、どっちだって盗られたくないのは正直な感想。
第一、倒したら狙ったモノが必ずドロップするとは限らない。そこら辺は、普通のモンスターと一緒ではあるらしいのだが。不幸は一定量存在する訳で、必死の思いで収集した装備をPKで失う事も珍しくは無い。
そうなったら、本当に泣くに泣けない事態な訳で。
まぁ、今はそんな嫌な想像に思いを馳せている時とも違う。小声でネネに、NPC4人の相手が出来るかなと尋ねてみると。
大丈夫と笑顔の返事、素直な子は大好きだ。
なおも繰り広げられている変てこな口上合戦は、この際無視と言うかスルーして。リーダー格の黄金ルーキーとその仲間たちは、どうやらカンスト済みだがベテランと言う程でも無いらしい。
それだけがせめてもの救い、脅威には違いないが。
「ええっと、アルカ……調子良く喋っている最中に悪いけど、敵のリーダーとのタイマン勝負は君に譲るよ。その代わり、残りの連中は全部俺が引き受けよう」
「へえっ……女の前でいい格好する奴に限って、大概は……うおおっ!?」
「ふぁっ、ええっ……!?」
央佳が四女のお尻をポンと叩いた瞬間、敵も味方も驚かすネネの《限定龍化》のその雄姿。いち早く応じたのは、案の定のNPC用心棒たちの群れだった。一斉に殴り掛かる連中に向けて、容赦のないネネの豪炎ブレスが。
一部の闇ギルドのメンバーも巻き込まれ、一気に瓦解する向こうの包囲網。油断の無い奴は既に抜刀していたのだが、この場所はブレスの範囲内だと慌てて退散に掛かっている。
そんな向こうの都合はお構いなしに、央佳得意の《グランドロック》が炸裂。
得意と言うか必然だ、何しろ向こうの方が圧倒的に人数が多いのだから。数人が巻き込まれたっぽいが、魔法耐性の高い氷系の魔術師はレジストした様子。
反撃の単体氷魔法を、何とか耐え忍びつつ。隣で呆けているアルカを鼓舞して、こちらも反撃に打って出る。いつまでも向こうの間での魔法合戦では、こちらに分が悪いったらない。
取り敢えずは盾スキルの《
このスキルは、ダメージを受けたりガードしたりする度に、こちらのパワーが上がって行く補助スキルである。盾スキルの中では割とレアかも、長丁場では使い勝手が良いのは確か。
氷系の魔法と共に、弓矢での攻撃も加わって来た。見ればフリーの敵は2人に増えていて、その端でアルカと敵のリーダーが斬り結んでいる。
さて、遠距離での撃ち合いは苦手だし、こちらも距離を詰めてみようか。
遠隔攻撃は、距離のアドバンテージを維持出来る前提があれば有効な戦法だ。相手が遠隔攻撃を持っていなければ尚良い、一方的に手番はこちらなのだから。
魔法は詠唱時間が長い分、強烈な攻撃力を持つものが多い。MPには限りがあるが、属性の弱点などを付くのも有効だし。一方、弓矢は武器の中でもダメージは大きい部類で、使用者も割と多い。矢の種類も豊富だし、スキル技にも派手な物が多いし。
ただし、矢は消耗品で使い込むほどお金は消費するし、攻撃間隔はかなり長いと言う欠点も。
そしてどちらの使い手も、接近戦には弱いと言う最大の弱点を持っている。信頼のおける盾役がいれば、そのパワーも発揮出来るのだろうけれど。
こんな混戦では、全てが自己管理となってしまうのは致し方ない。央佳はさらなる混乱を招くべく、《
天から吹く暴風で、敵方は視界と身動きを奪われて。
近付き様に片手剣スキルの《スピニングエッジ》で襲撃、氷の術者のHPはあっという間に半減。さすがに紙装備だ、慌てる相手の逃亡を許さず、央佳は追撃の一撃。
距離を潰されて弓矢を使えなくなったハンターは、止む無く短剣に装備をチェンジした様子。それでも術者との間に割って入る前に、央佳は止めを刺す事に成功。
これで撃墜マーク1つだ、余裕はそんなに無いけれど。
短剣に持ち替えたハンターと、改めて斬り結んでいると。土の結束が解けたようで、続々と戦士が押し寄せて来た。幸いアルカの方に応援に行く輩はいないよう、最初のタイマンの約束が良い具合に枷になっているのかも。
こちらは大変だが、盾での防御が効果を奏してダメージは軽微で済んでいる。やって来る敵は全員が重戦士で、金属鎧に両手武器装備を確認している。
そういう奴らは、大抵が魔法に弱いモノ。
状況を確認しながら、央佳は《アースウォール》を駆使して少しずつ場所移動。敵に囲われると、せっかくの盾装備も台無しである。その分攻撃力が犠牲になるが、さっき掛けた《臥薪嘗胆》が良い具合に効いて来ている。
仲間の加勢に、今度は距離を取ろうと離れて行くハンターに苛立ちつつ。チラっと横目で味方の状況を見ると、どうやらネネはNPC4人衆を綺麗に平らげてしまった様子。
その反面、アルカは敵のリーダーに苦戦中みたいである。
こっちものんびりしていられない、多少でも強引に事態を動かさないと。距離を取って再び弓矢に持ち替え、嫌らしい笑みを浮かべているハンターを見遣り。
こちらに襲撃技が無いとみて、完全に油断してポーション回復もしていない今がチャンスだ。襲撃技とは、両手槍に代表されるチャージ技で、これは距離が無いと逆に使えない。
斬り掛かろうと立ちはだかる戦士に《
さあ準備は万端だ、射線は完全に通っている。
「――《
「なっ、ぐあっ……!!」
せっかく溜めていたSPはスッカラカンになってしまったが、代わりに敵のハンターを仕留める事が出来た。これで残るは重戦士が3人、何とかなりそうな気配。
《白虎豪襲》は桜花の持つ唯一の襲撃スキルで、破壊力も最大級だ。二刀流の超レアスキルで、一部では“神話級”と称されるほど滅多に見られぬ厳しい習得条件と破壊力を持つ。
その条件とは風と土を200、片手剣スキルを299と言う。
こう言う条件を持つものを複合スキルと呼ぶが、通常スキルのようにポイント振り込みでの取得は不可能だ。大抵は『複合技の書』と言うアイテムが必要で、滅多にお目に掛かれない。
その分、威力は通常よりも大きいし、ユニークなものが揃っているのだ。
このスキルのお披露目に、残された戦士たちは驚きで行動が止まってしまっていた。その隙に、再び周囲の状況の確認。ネネは未だ鼻息も荒く、闘いの勝利に酔っている様子。
こちらに加勢しようとしているのか、てとてとと走り寄ろうとした歩みがピタッと止まる。それから、まるで招かれた様に建物の影に消えて行ってしまった。
良かった、あの子は《限定龍化》が解けると他に戦う術を持たないのだ。
安心ばかりもしていられない、何と肝心の雇い主のアルカが、とうとう敵の刃に倒れてしまったのだ。これは大いなる誤算、ちょっと待てと央佳は大慌て。
残りの3人の戦士に合わせ、リーダーとも戦えと?
再び《グランドロック》での足止めは二番煎じだし、第一効きは2度目以降は極端に悪くなる。どうしたモノかと考えていると、何故か状況に違和感が。
敵戦士の数が、2人に減っている?
考えている暇は無い、敵のリーダーは受けた傷を治そうと、今はヒーリング状態である。これも二刀流の大技、しかも複合スキルの《スピンムーブ》で、央佳は接近して来た2人の戦士を切り刻み始める。
SPを溜めながら、敵にダメージを与え続ける央佳。これは二刀流での回転しながらの攻撃と、素早い動きでの回避行動を兼ね備えた、攻防一体の大技だ。奥の手の行使に、しかし敵の防御の堅さに削り切るのは大変そう。
そこに回復を終えた“串刺し”のジャンの、チャージ技が襲い掛かる。
少なくないダメージを受けた央佳、向こうの武器が両手槍なのは確認して知っていたけど。さすがにこの人数で、各々の動向を完璧に確認などしていられない。
それでも腹立ちまぎれに、固まっている連中の中心に《デスハリケーン》の大魔法をぶち込む。これは範囲で大ダメージを与える癖に、詠唱が短くて済む超便利魔法だ。
《スピニングムーブ》の恩恵で、央佳はそのまま弱った戦士に纏わり付く。
もう少しで、戦士の一人を撃破出来るかなと言う時に、再び異変が起こった。ジャンと戦士その2は、央佳が上手く戦士1を盾にしているため、下手にこちらに手出しが出来ずにいる。
あらかじめ掛けておいた補助魔法の《アースヒール》で、徐々に桜花のHPは回復中。少しだけ余裕を取り戻した央佳が見たのは、黒い霧にこっそり攫われる戦士2の姿だった。
間違いない、アレはアンリの《
どうやらこっそりと、父親の手助けをしてくれていたらしい。何と親孝行な子だ、ネネの回収までしてくれていたっぽい。とすると戦士その3の不意の退場も、あの子の仕業か。
何にせよ、これでかなり楽になったのは確か。
反対に、連中の方には大きな混乱が見受けられ。それはそうだ、いつの間にか味方が消失しているのだから。それに付け込むように、《
これは片手剣と風の複合スキルで、敵の防御力を無視する性能を備えている。防御力の高い相手に対する奥の手だ、これで視界はすっきりした。
残るは敵のリーダー、“串刺し”のジャンのみ。
「おいっ、俺の仲間に何をした……!? 貴様、何かイカサマしただろう、ふざけやがって!!」
「何をしたって訊かれても……俺は、お前の仲間を3人倒しただけだが? お前で4人目だ」
「貴様っ……図に乗るんじゃねえよっ!! 串刺しにしてやらぁっ!!!」
あまり自分の戦略スタイルを、声高に披露するモノでは無い。予告通りにチャージ技を敢行する敵リーダーを、《ソニックウォール》の風魔法で迎撃と言うか撃墜する。
この魔法は音の壁で、相手の遠隔技をひん曲げる効果がある。結果、串刺しは回避され相手は音酔いで自滅の憂き目に。その隙を見逃さず、央佳はSP溜めにと
ペースは握らせて貰った、後は仕留めるまでの構想を練るのみ。
相手も自棄になって、大振りの反撃を繰り広げて来た。スキル技も含め、さすがに両手武器はダメージが高い。こちらも少なくない被害を被るが、大半はステップ防御で華麗に躱しつつ。
そろそろSPも溜まったし、相手も程良く弱って来た。頃合を見計らい、央佳の終焉までの計画はスタートする。まずは先程と同じく、《拍龍》で敵を突き離して。
適当な距離を置き対峙、お互い武器を構えて睨み合う。
「どうした、お前の武器の得意距離だろう? 二つ名が泣くぞ、掛かって来いよ」
「ぐっ……貴様、ぐぐうっ……!!」
つまるところ闘いとは、格の付け合いである。どちらが格上かを相手に知らしめる、そう言う作業に過ぎない。この差が少ないと、後に禍根を残す事になる。
斃すなら、はっきりと格の違いを知らしめるべき。2度と歯向かう意思をくじく程度には、永遠に敵わないと知らしめる程度には。因縁を下手に絡ませて、良い事など何も無い。
思惑通り、敵のリーダーは完全に央佳に呑まれた様子。
先程得意なチャージ技を潰された、嫌な記憶が頭を塞いでいるのだろう。実際には、風の防御は既に時間切れとなっている。それを知らない相手の取った行動は、ポーションによる回復だった。
そんな行動を許す筈も無く、央佳は得意の二刀流の決め技《白虎豪襲》で、ジャンにきっちりとどめを刺す。ほぼ思惑通りの結末に、央佳は安堵の表情を見せ。
改めて振り返った戦場は、既に動く者の姿は無し。
いや、ひょっこりと建物の影から顔を出したアンリと、一瞬だけ目が合った。すぐに引っ込んで、代わりに出現したネネが元気良く走り寄って来る。
恐らく待ってなさいとの約束を破ったので、顔を合わせにくいのだろう。子供らしいリアクションに、央佳も先程までの激闘を忘れてほっこりしてしまった。
何にしろ、何とか激闘を生き残れて良かった。
――無事に家族の元に戻れる充実感に、満ち足りる思いの央佳だった。
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