運命

 私はストレス耐性がない。いわゆる豆腐メンタル。そのせいでお腹の調子が良いことがほぼない。汚い話で申し訳ないが、下すか便秘。バナナのようなものにお目にかかった試しがない。お腹に良いものは色々試しているし、薬も飲んでいるが治らない。やはりストレスからなのだろう。現在もトイレに篭る時間は長い。


 ただ、十二年前のあの日はいつもと違った。下すなんてものではない。数分に一度トイレ。普段お腹を壊すことに慣れている私でも、流石におかしいと感じた。歩いて五分ほどのところに内科があったはず、と思い、必死で歩いて病院まで行った。ところがなんとその日偶然にもその病院は休診だった。私は歩けなくなり、うずくまって、もうダメだ、と救急車を呼んだ。


 こんな時、彼がいてくれれば。


 そう思ったからだろうか? なぜか彼らしき人が歩いてくる。

 ああ、私は幻覚を見るまでヤバいらしい。


「花香! どうした? こんなところで?」


 そこに到着した救急車。彼は救急車に一緒に乗ったようだ。私の記憶はこの時曖昧。

 

 近くの総合病院に運ばれた私はまず血液検査をされ、点滴を受けた。彼はその間ついていてくれた。血液検査の結果が出て、白血球と炎症を表すCRPが異常値だったことから私はそのまま入院することになった。彼が手続きを済ませて、着替えを持ってきてくれたので、私はただ寝たままで済んだ。この時彼は営業をしなくてはならなかったはずと思うと、申し訳なかったと思う。ただ、あの時私一人だったら……と考えると恐くなる。結局、私はなかなかCRPが下がらず、10日間入院することとなった。彼は毎日仕事後に見舞いに来てくれた。7日間は点滴のみだったため、食べ物は持ってこなかったけれど、必要なものを持ってきて10分ほどで帰っていく。それがまた彼らしい。私は心細い中、彼の存在だけが救いだった。


 今思えば、やはり私と彼は繋がっているのだなと思わずにはいられない。あの時数分違えば私は一人で救急車で運ばれていた筈だ。あの場所にあの時間、彼が現れるというのは確率的には奇跡に等しい。

 

 今でもお腹を下してトイレに行くと、私はあの日のことを思い出す。そして彼もそれは同じようだ。


「あの時は本当偶然だったよな」


 私との思い出は忘れがちな彼が今でもそう言う。

 偶然? いや、運命なんだろうな。私は思っている。

 

2020.11.26

 

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