食事のこと

 彼は食べ物に好き嫌いはほとんどないのだけれど、前に挙げた味噌汁、そして、どうも魚があまり好きではないようだ。

 彼は幼い頃お肉より魚ばかりを食べさせられたと言っている。私はそれは魚が苦手になる理由にはならないような気がするのだけれど、あまり良い思い出ではないらしい。

 身体のために魚も食べさせたいと思う私は焼き魚や煮魚を出すけれど、彼の殿様食いは直らない。まず皮や内臓の近くは間違いなく食べ残す。見える身だけをちょこっと食べるしかしないのだ。


「にゃんごろ先生は魚を綺麗に食べるよね」


 彼はよく感心して言うけれど、それは違う。彼がたぶん下手なのだ。笑

 そこで、私は彼の分の身を取り分けることをよくする。そうされると彼も何とか食べる。ただ、食べる時、醤油が欠かせない。塩サバなどの塩がしてあるのにも醤油を結構かけるので、魚を食べているのか醤油を食べているのか分からないのでは? と思ってしまう。ちなみに刺身は好きと言うけれど、刺身にも醤油をたっぷりつける。

 やはり魚の味自体が好きなわけじゃないんだろうなと思う。

 彼の健康のためにも魚を食べて欲しいと思う。でもその度に醤油の量を見ると、これはこれで体に悪いのでは? と思ってしまう。

 今は肉より魚が高いご時世。彼の食べ残しを食べる度に、勿体なかったなあと思わずにはいられない。彼に食べて欲しいから出した魚なのにな。

 ただ、私にもブロッコリーという食べられないものがある。湯がく香さえ我慢できないため、食卓にブロッコリーが並ぶことはない。それは彼に申し訳ないと思っている。


 食事。家族にとって大切なもの。だからこそ色々悩まずにはいられないのだけれど、好き嫌いはともかく、彼は私の作るものに文句は言わない。ハンバーグ事件はあったけれど、私が一番病状の酷い時に結婚を選んだ彼。その時、私は全く家事ができなかった。洗濯はたまにしても、食事は毎日お弁当か外食。そんな状態が五年は続いた。


「花香が作ってくれるようになっただけで本当嬉しいよ」


 彼はそう言ってくれる。今でも調子が悪い時はご飯が作れない私。そんな私にも文句一つ言わない。彼は理解がある。それは本当にありがたいことだ。

 

 

2020.11.25

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る