クリスマスが近いのに
日曜日なのに、彼は朝から会社に行ってしまった。明日提出の図面があるらしい。
私はというと、カトリックとプロテスタントの合同クリスマス会があり、担当の曲の伴奏をし、他の曲は聖歌隊として歌った。
もともと聖歌隊に入ろうと言い出したのは彼だった。前で声を張り上げ頑張る、高齢のシスターを見て、力になりたいと思ったらしい。彼はそう、人に優しい。仕事が忙しくなってからは聖歌隊に彼は参加できていないけれど。そんなこんなで入った聖歌隊で私は今では伴奏もするようになっているのだから不思議だ。
クリスマス会は雨が降った割には盛況で、イルミネーションの光る中、広場では明るいクリスマスソングが響いた。これから本格的にクリスマスシーズンに入る。私もオルガンが忙しくなる。忙しくなると精神的にはきつくなるのだけれど、主の降誕を迎えると思うとどこか幸せな気分になるのがクリスマスの不思議なところだ。
無事に終わったと彼に電話をすると、お弁当でいいから買って持ってきてと言われた。山の中の小さな会社だ。近くにコンビニもない。私は自分の分も弁当を買うと、車を走らせた。彼は余裕のない顔をして仕事をしていた。彼の他には誰もいない。こんな山奥で怖くないのだろうか。
「ありがとう」
彼は食べる時間も惜しむようにすぐに食べ終わった。
「今日はたぶん帰れないから、花香は家で早く寝てな」
まだもぐもぐと口を動かしながら、私は頷く。
「でも、花香がいいなら、一時間いてくれる? 一時間だけ寝たい」
私は了承して、寝ている彼の側で携帯小説サイトを見ていた。彼は相当疲れているようで、いびきをかいた。私は酷く悲しくなった。
一時間経ち、起こそうか迷っていると彼は自分で目を覚ました。
「ありがとう、花香。帰っていいよ」
そう言って顔を洗いに行く彼。余裕がない時の彼はいつもよりさらに言葉少なになる。今日は私に手伝えることはないようだ。
「あんまり無理しないでね」
とだけ声をかけて、車に乗った。
暗い暗い山道。私は彼を思いながら運転する。悲しい恋の歌がカーステレオから流れていて、ますますもの悲しくなる。彼は私のために身を粉にして働いている。有り難い。そして申し訳ない。彼が身体と精神を壊しませんように。
ベッドに潜り込むと、ベッドがなんだか広い。そして冷たい。
彼の仕事が終わりますように。そして少しでも朝寝られますように。
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