第42話 円卓会議
中央に置かれた円卓に、囲うように置かれた
だからこそ、ここは限られた者しか入る事の出来ない部屋であり普段は使われていない。
「ありゃ? 一番乗りだと思ったってのに」
だが、その限られた者の一人がノックもせずに部屋へと顔を出す。
既に先客が五人。三人は既に玉座に、残りの二人は座らずに隅の方で何やら話しをしている。
男はなるべく早めに来たつもりであったが、考える事は皆同じであったのだ。
「残念ながら私が一番乗りでした」
そう言って玉座に座って手をあげるのは、水の九賢者エリアス。
普段は神父として、戦場では騎士団長として、ここ太陽都市サンサイドを守護する 『水瓶座のエリアス』である。
「僅かに遅れて来た我々が二番手でというわけだ! 惜しい……! なんとも惜しかったぞ!」
「ですが兄様 "二"というのは我らにとっては縁起が良いのでは?」
「なんという逆転の発想……流石は我が弟だな」
そして二人の少年。十一という歳でありながら、中衛兵士団長を任せられる風の九賢者であり双子。
兄の名をカストル、弟の名はポルクスという、『双子座のデュオスクロイ』であった。
「まあ私は昨日からここに居ますので 実質一番ですよ」
「アンタ暇かよ」
「そんな事より"忘れていませんか"?」
「はぁ……相変わらず真面目な事で」
この部屋に入るからには名乗らなくてはない。たとえお互いをよく知っていたとしても、これは礼儀であり流儀である。
「前衛兵士団長 ピスケス・レーヴァ──ここに推参した」
右手を胸に当て、身分を明かす為の名乗りを上げる。ピスケスはこれが面倒で早めに来ていた。
魚座の力を宿す『魚座のピスケス』。氷を司る九賢者であり、今この世界で起きている戦争に、最も多く参加している
「ピスケス 名乗るのならもっと高らかにだな……」
「兄様の言う通りですピスケスさん 名乗るのならもっとカッコよく……」
「はいはいどうもすみませんねぇ」
声高らかな名乗りに謎のこだわりを持つ双子を軽くあしらい、ピスケスはエリアスの横へと腰掛ける。
「おや? 珍しいですね 貴方が私の隣を選ぶのは」
「今日は特に言う事ねえしな」
会議の時はいつもエリアスの正面にいるピスケスが、今回はわざわざ隣を選んだ事を訝しむ。
「貴方に噛みつかれると中々離してもらえませんからね 正直安心しました」
「まあ訊きたい話はあるけどな 今のうちに話せよ」
「……もしや貴方 私の事嫌いですね?」
上げて落とされた気分だとエリアスの顔に書いていた。毎度の事とはいえ、絡まれないに越したことはないからだ。
「嫌そうな顔すんなよ 今回の召集は騎士問題もあんだろ? 今のうちにどうするか分かれば会議も長引かずに済む」
「でしたら会議中にどうぞ 情報は共有してこそです」
「おいおい そしたらまた
「受けて立ちますよ もう慣れてますから」
ピスケスは鋭い目で睨みつけ、エリアスは怯む事なく受け流す。
とはいえ嫌いあっているわけでない。何故なら意見を出し合う事はお互い有意義であると理解しているからだ。
「フハハハッ! 仲が良いなピスケスとエリアス殿は!」
「どこに目がついてんだよ」
いがみ合いに発展しているというのに、カストルは二人を見てそう評価する。喧嘩する程仲が良いというが、ピスケスからすれば心外であった。
「兄様の意見はもっともです 側からみればとても仲良しですよ」
「まあ私も好き好んで噛みつかれてませんが」
「オレはただ事実確認をする為に討論してだなぁ……」
「どうせ喧嘩をするなら口ではなく拳だと嬉しいわ〜 その方が怪我してくれてお仕事増えそうだし」
とんでもなく物騒な事を言いながら、ピスケスの横へと腰掛ける女。その女は先程まで部屋の隅で話していた内の一人だった。
「最近調合したお薬があるの! これを飲めば元気百倍やる気がモリモリ湧いてくる優れものよ〜」
「是非とも使う機会が無い事を祈りましょう」
「実験はほどほどになアリエスちゃん」
彼女の名はアリエス。木の九賢者であり、『牡羊座のアリエス』と呼ばれる衛生兵士団長を務める存在である。
「ン〜どうしてそんなに信用ないのかしら〜?」
「信用問題の話ではないのです」
「誰が好き好んで被験者に希望するのかって話」
「兄様兄様 やはり仲が良いですよ」
問題点を息ピッタリに指摘する二人を見て、ポルクスは確信した。実際、険悪であれば口など聞かないだろう。
「フハハッ! 今更言わずともわかっているさ!」
「もうそれで良いよ」
「この際ちゃんと仲良くなれれば私としては……おや?」
いい加減反論するのも疲れてきた時、エリアスの隣にもう一人、先程までアリエスと一緒にいた人物が玉座へと座った。
「お久しぶりですねタウロス様 お会いできて嬉しいです」
「……」
黄金の鎧を身に纏い、兜で顔を覆い隠すのは、遊撃兵士団長タウロス・アルバ・ユーピテル。
雷を司る九賢者であり、『牡牛座のタウロス』と呼ばれるこの国最強と謳われる者である。
「よう
「失礼ですよピスケスさ〜ん? タウロスさんは人よりちょっとだけ話すのが苦手なだけなんだから」
そう、タウロスは最強の"女兵士団長"であるのだが、どうにも人見知りが激しく、たとえ同じ九賢者であっても口を開く事は少ない。
アリエスと隅で話していたのも、なるべく話を振られない為であった。
「聞きましたよ? "例の二人"をスカウトしたとか」
「そうそう オレのとこから引き抜かれちまった」
「二人……?もしやあの二人か?」
エリアスの言う二人とは、リンとバトラーの事である。
普段積極的に誰かと関わろうとしないはずのタウラスが、何故目にかけたか気になるのは当然である。
「ン〜? 私も気になったから訊いたんだけど教えてくれないのよね」
「それもまた良し! 女性とは秘事の一つや二つあるのが必然だと風の噂で聞いた事があるぞ!」
「流石兄様 博識です」
自信満々に腕を組み胸を張る兄カストルに、パチパチと拍手をおくるポルクス。周りは何処で聞いたのかと、まだ幼い二人に苦笑いを浮かべていた。
「とはいえ……あの二人も奇妙なものだな」
「何がだよ?」
「
カストルの言う通り、何の因果か、世界を気ままに旅をしていた旅人が、戦争に駆り出される兵士となり、幹部である九賢者全員と接触している。
「特別な力もない二人が 今こうして我々の話題として取り上げられる──これを奇妙と言わず何と言う? なあポルクス」
「まったくもってその通りです」
「言われてみればその通りですね」
「あの二人……更に言えば『リン・ド・ヴルム』だな アイツはどうにも食えない野郎だからねぇ」
「でも悪い子達じゃないと思うのよね〜」
「私もそう思った」
「まあな じゃなきゃタリウスさんが兵へ推薦なん──え?」
皆が同意する中、人前で言葉を発する事など珍しい人物が、皆の意見に賛同する為に発した。
「皆の言う人物かどうかを決めるのは まだ私には判断ができない……だが それはまだ私が二人と関わりを持てていないからだ」
ハッキリと口調、重みがあるが透き通るような声色で、自らの意見を堂々と述べる。
「"だから決めた" 二人を遊撃兵士団に入団させると この眼でしかと確かめる為に」
(((((流暢に喋ってる)))))
まともな意見であったが、周囲の意見は人前で話している事に驚きが上回っていた。
「以上」
そしてその言葉を最後に、タウロスは口を閉ざす。皆驚きからしばらくの間沈黙が続いたが、ピスケスが最初に口を開く。
「……とまぁ姐さんの考えも分かったところでだ! そろそろ約束の時間だぜ?」
「午後一時でしたからね──丁度です」
その場の空気が変わる。談笑していた空気とはガラリと変わり、皆の表情は真剣なものへと。
扉が開く。この場にいなかった残りの四人が、遂に集うのだ。
「後衛兵士団長 タリウス・カウス・ボレアリスがここに」
「総兵士団長 レグルス・ネメアがここに参上した」
二人の名が表すとおり、星座に選ばれし九賢者が名乗りを上げた。
赤髪の男は『射手座のタリウス』と、黒髪の男は『獅子座のレグルス』と呼ばれ、九賢者の中でも群を抜いた指揮権を持ち、この国を支える重鎮である。
それ程までの二人が、扉の左右に立ち、最後に招かれる者の為、頭を下げた。
「よくぞ集いました 我が同胞達」
微笑みを浮かべ、桃色の髪をした女は名乗る。
「"サンサイドの姫"として スピカ・セルネテルは我が同胞へ祝福を送ります」
誰よりも国を愛し、そして民全てに愛されし聖女、光の九賢者『乙女座のスピカ』が招かれる。
だが、スピカは最後ではない。
「集いし我が同胞達よ」
この空間の最後に足を踏み入れた者に対し、タリウスとレグルスはその声の主人に向け膝をつき、工場を垂れ、席に座る者は一斉に立ち上がった。
その男こそ、"この国を統べる王"である。
「『コルヌス・ナシラ』がここに命じる──円卓会議を始めると」
王であり、闇の九賢者である『山羊座のコルヌス』の宣言により、円卓会議は始まった。
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