第27話 戦の狼煙
「これより第三十九回! "肯定派掃討作戦"を開始する!」
予告されていた作戦日、多くの兵士が集められていた。
最終的に集められた兵士の数は二千五百。元々の予定であった兵数よりも倍以上増員されている。
「でももっと増やせた気もするけどね?」
「国にも面目ってのあるからな 物量で攻め込んで勝てたとしても当たり前って思われるだろう? そうなると他の国からはあんまし喜んで貰えないんだろうな」
太陽都市サンサイドは世界から見ても、非常に発展と軍事力に優れた場所であり、今は戦争の中心国として他の国々と連携をとっている。
無論勝つ事が目的ではあるのだが、この戦争を利用して自国の強さを知らしめようと考えている国もあるのだ。
「"派遣した兵士達は少数精鋭揃いでございます"ってね 少ない数で勝てればその分世間からの評価も上がるし 喧嘩をふっかける国も減る」
ここに居る兵士達は皆が同じサンサイド出身というわけじゃではない。
同盟を組ん国から派遣され、戦争を終わらせようするだけでなく、自国の"アピール"も兼ているのだ。
「サンサイドとしてはもっと増やしたいだろうが……同盟国側からすれば自分達の兵士は強いって誇示したいんだろうぜ?」
「気にしてる場合じゃないと思うんだけどな〜」
「そこ! 私語は慎め!」
二人は注意をされると、おとなしく作戦に耳を傾ける。
内容はさほど難しいものではない。先行している遊撃兵士団と合流し、敵の拠点と思われる場所に攻め込むというものである。
「全兵整列! コルヌス国王より直々の御言葉である!」
そして戦場へと往く兵士達へ、サンサイドの王は兵士達の前に立つ。
リン達が最後に見たのはこの国に連れられて以来であったが、その時感じた威圧感は本物であったと、改めて思い知らされる。
「──我がお前達に渡す言葉唯一つ」
発した一言でで、その場にいた者全員が息を呑む。
震え上がる程に畏れを抱かせ、言葉からは熱き想いと信念を感じさせた。
「"勝て"──お前達が護るべき者の為に 勝利を掴み凱旋せよ! それがお前達に出来る最大の貢献である!」
皆を鼓舞させるカリスマは、如何なく発揮させている。誰もが王の期待に応えようと、剣を掲げて雄叫びを上げるのだ。
「健闘を祈るぞ同胞達よ 我は吉報を待っている」
コルヌスはその場を離れる。そして兵士達は出立する。
「これより我がサンサイド前衛兵士団はこの『魚座のピスケス』が指揮を取る! 進め! 国に勝利を納める為に!」
向かうはアジト。少しでも敵の戦力を削ぐ為に、リン達は戦いに出向くのだ。
「……お腹痛い」
「大丈夫バトラー?」
実質初参加の戦争に、バトラーは早々にリタイアしてしまいそうであった。
「ついにこの日が来てしまった……街の巡回兵で満足してたのに」
「向上心が無いな〜」
「昇進する前に昇天しちまうよ……」
このまま進むと目的の場所へ到着してしまう。そう思う不安はどんどん押し寄せてくる。
「ちょっと衛生兵団のところに合流してくる」
「そのまま帰って来ないつもりでしょ?」
逃げようとするバトラーを捕まえ、リンは引き戻す。
「キサマら! 隊列を乱すな!」
「ほら怒られちゃった」
最後尾であっても、ちょっとした乱れは陣形に悪影響を及ぼすものである。
そんな事はリンよりも、寧ろバトラーの方が理解している筈だというのに、今こうして注意を受けてしまうのはそれだけ嫌だという事だろう。
「騒いでんな〜って思ったらやっぱお前らか 駄目だぜちゃんとしないと」
前衛兵士団であるピスケスが、二人の様子を見に来る。
そもそも最後尾に二人を配置したのは、ピスケスはこうなる事を予想していたからであった。
「落ち着きな 騒いだところで変わりゃしないんだから」
「死地に赴くってのに呑気なことできるかぁ!」
「オレ一応お前らの団長なんだけど?」
軽く混乱してるバトラーにため息を吐きつつも、ピスケスは冷静に諭す。
「誰が言ったか"生きよう"とするヤツから死ぬ "死なない"為に必死に戦ったヤツは案外生きるってな」
ただ生きる為に戦えば、心は逃げる事を優先してしまう。
だが死なない為に抗えば、戦いに集中出来るようになる。考え方は似ているようで、大きく違うのだ。
「今から殺しあいに行くんだ 慌てる気持ちは分かる けどそういうヤツがいの一番に狙われるから覚えとけよ?」
「なんすか!? 脅しに来たんですか!?」
「励ましてるんだと思うよ」
完全に後ろ向き思考に陥っているので、あまり効果は期待できそうに無いが無いよりはマシであろう。
実際、落ち込むというよりも、だんだんと怒りの感情が露わになってきた。
「こうなったらヤケだ……暴れるだけ暴れていい感じリンに任せてやる」
(最初からそのつもりだったじゃん……ってのは言わない方が良さそう)
「開き直りも時には大事さ 着くのは明日になるだろうし今日のうちに覚悟決めとけよ〜」
そう言ってピスケスはその場を離れていく。ピスケスの言う通り、距離を考えれば着くのは明日になるだろう。
それからは皆脚を止める事なく歩き続け、陽が沈みきって漸く新たな指示が出された。
「野営の準備に取り掛かれ! 迅速にだ!」
このまま進む事も考えられたが、夜襲の可能性を考慮すると得策では無い。その為陽の出ている時に出来る限り進み、暗がりを完全に避ける事を選んだのだ。
時間としても余裕を持てる為、明日に備えた休息にも充てられる事を考えたというのも理由の一つである。
手際良く早々に野営の準備は整えられ、テントの中で二人はとりあえず寛ぐ。
「脚パンパン……このままじゃ戦えないから帰って良い?」
「明日には治ってるよ」
「その希望はいらなかったなぁ」
リンとバトラーは夜の見張り役に選ばれたが、まだ順番ではない。
交代するまでは自由時間を与えられる。各々疲れを取る為食事を取り、簡易的なお風呂で汗を流す者もいる。
「じゃあ僕は姫様のところに行くから……」
「ちょっと待てや」
そんな中相変わらず立場も弁えず、己が欲望に従うリンを止めた。
「なんだいバトラー?」
「平時ならともかく……いや良くはねーけど 今は決戦前なんだから少しは自重しろよ」
「でも今日が最後かもしれないし」
「重いこと言うなよ」
言っている事は正しいが、だからといって許されるかは別である。
それに今から会いに行ったとして、会わせてもらえるとも限らない。上が集まって作戦の話でもしていれば、その中に混ぜて貰えるとはとてもではないが、会わせてはもらえないだろうとバトラーは考えたのだ。
「その時はその時だよ じゃあ行ってきま〜す」
「ダメだって言ってんだろうが!」
聞く耳持たないといったリンを、どうやって説得しようかと試みていると、外の足音が突然増える。
「……なんだぁ? 騒がしいな」
只事では無いと察し、外の様子を見ると、兵士達が戦いの準備を始めていた。
「おいおい……まさか」
暗がりを進むのをやめたのも、夜襲を想定していたからだ。
「"敵"──だよね?」
離れた位置からは煙が見える。こらから起こる惨劇を知らせる、始まりの狼煙であった。
「てっ……敵襲ッ!」
一人の兵士が走り、全兵士に伝える。
数を要求されている。ならば敵の数は相当なのだろうと予想するも、報告の内容が否定した。
「──
現れた敵の数は"唯一人"。しかし、それで充分であるなど、誰も予想していなかった。
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