第26話 星魔力
「"星"……ですか?」
「あの夜に輝いてる?」
いまいち実感が湧かないといった顔で、二人はピスケスの言葉の意味を問う。
「そうそれ オレらの魔力の源さ」
「九賢者が何故"星座で呼ばれる"のか──それは我らが"星の加護"を受ける者だからだ」
ピスケスであれば魚座、タリウスであれば射手座といったように、彼らは属性を司る賢者の側面とともに星座の名も冠していた。
「……カッコつけてたんじゃなかったんだね」
「良い度胸だ一等兵 訓練量倍にしてやろうか?」
「ちなみに俺達は格好良さ優先で名乗っている!」
「僕も名乗るの好きです兄様」
「おう お前らはそんな気はしてたぜ」
双子座と呼ばれるカストルとポルクスもまた同様に、魔力の源は星からのものである。
九賢者に例外は無く、全て何らかの星の加護を受けていた。
「でも空気中とかの魔素とどう違うの?」
「そもそも魔法ってのは遥か昔の"神々の贈り物"って言われてるだろ?」
「星もまた同じく神々が残した……いやそれ以上に 神秘に満ちた星々は魔素の純度が高い」
「宇宙から降り注ぐ"星の魔素"を取り込める だからオレらは強いのさ」
一人一人が一騎当千の実力者。その根源にある強さの理由を二人は教えてもらった。
「……でもどうにも腑に落ちねえな」
しかし、バトラーは納得出来ない様子で腕を組む。
「フハハハッ! 話が難しかったようだなバウムガルト・トラートマン一等兵!」
「僕が後で分かりやすく説明してあげます あまり己の無知を責めないでくださいね?」
「いや分かってるよ!」
「"どうして戦わないのか"の答えではないってことでしょ?」
話の本題としては、それだけの力を持ちながら、何故戦わないのかが疑問点である。
九賢者が何故強いのかを証明されたところで、疑問の答えは何も解決していない。
「安心しろ ここからが本題だ」
「さっきも言ったが力が強い分 返ってくる反動も大きい だから敵を一掃したところで動けなくなっちまう」
「お前達兵士の役目は"九賢者の護衛"としての側面もあるのだ オレ達は最大限補助に回り 戦局を優位に進める」
「敵を一掃してるのに護衛がいるんですか?」
「ここで星の魔素 オレ達はまんま『
この特殊な作用こそ、無闇に九賢者達が戦えない理由である。
「"賢者同士の戦いは勝った方に魔力を奪われる"──これがオレ達が戦えない理由だ」
魔素が体内に入り、魔力に変換されたとしても、その身体が死亡した際に再び魔素となって大気中を漂う。
星魔力も同様に、九賢者が倒されれば魔素となる。しかしその力は大気中や元の星に還元されるのでは無く、倒した者である"賢者"に吸収されるのだ。
「一般のヤツらなら問題無いけどな けどこれは致命的だ」
「もしも我々が倒されるような事があれば 賢者の力を損失するだけならまだしも……奪われてしまうのは何としても避けねばなるまい」
「何を弱気な事を言っているのだ師匠は 我ら九賢者が負ける筈無いではないか?」
「その通りですね兄様 我らは最強無敵 誰も敵う筈無いのです」
自信満々に双子は言うが、その考えは捨てるようにタリウスは言う。
「最悪を想定するのは当然だ 己の強さに胡座をかいて足元を救われる事があってはならない」
「フハハハッ! 正論を言われてしまったなポルクス?」
「そうですね兄様 猛省しましょう」
「でも奪われるって"賢者同士"でしょう? だったら別に心配なんて──」
「『蟹座のキャンサー』……だよね?」
リンの言った人物。それは、以前倉庫街に出没した隻眼の男が名乗った名である。
二叉の剣を持ち、九賢者『水瓶座のエリアス』と同じく水を扱うその男の魔力は、九賢者と"同等"であった。
「御明察 オレらの星の加護は『黄道十二宮』……つまり全部で"十二"だ 数が合わないだろう?」
九賢者の内残り三枠は、ここサンサイドには所属していない。
「伝説肯定派と戦うとなった時 "招集に応じなかった者達"がいた」
応じなかったのは加護を持つ者がいなかったからか、それとも
「ならあのキャンサーって男がそうだって言うのかよ!?」
「本人がそう言ってるし間違いないだろう」
その事実に興奮するバトラーに、タリウスは冷静に答える。
「今までは可能性を考慮して積極的に戦いへ参加出来なかったが──確信に変わった」
「オレらの力が間違っても奴らの手に渡れば 戦局は一変するだろうな」
ただでさえ無類の強さを誇る賢者の力を、一人の存在が同時に扱えるようになってしまえば、戦力差を覆してしまうだろう。
「仮にオレがキャンサーに倒されるような事があれば 水の力に加えて"火の力"を扱えるようになるのだ」
「師匠がやられる? これはまた面白い冗談を言う!」
カストルは言う。自分達が負ける筈が無いと。
「敵が何の願いを叶える為に戦うのかは知らん! そして興味も無い!」
「無いのかよ」
「しかしだ! 平穏を脅かすのであれば容赦はしない! 何故なら俺は"平和が好き"だからだ!」
手に剣を握るのは、戦わなければならないからである。決して手加減をしないのは、護りたいものが守れないからである。
「そうだろうポルクス! 我が弟よ! お前の傷つく姿など見たくないからな!」
「その通りですカストル兄様……僕も兄様が傷つく世の中など望みません」
「「我らが『双子座のデュオスクロイ』で在る限り! この戦は我らのものである!」」
息を揃えて名乗りを上げる二人。その顔はとても満足そうであった。
「……決まったなポルクス どんな時でも我らは輝いてしまうのだな」
「ですね兄様 やはりどんな時でもカッコ良く名乗れる練習をしておいて正解でした」
そんな二人の部屋から夜な夜な騒音が聴こえ、よくうるさいと怒られてしまうのは、また別の話である。
「……ここは食堂だというのを忘れるな二人とも」
今ここで怒られるのは別ではなかった。
「ってお前ら今回参加しないだろうが」
「フハハハッ! 気にするなピスケス! 戦場へ赴くお前達への激励だとでも思え!」
「リンさんもバトラーさんも頑張ってくださいね 我々兄弟も応援してますから」
ポルクスはリン達の手を握り、励ましの言葉を送る。
幼いながらも九賢者に選ばれた者として、兵士達を率いる団長として、既に覚悟を決めているのだ。
「……まあオレ達にかかれば楽勝ですよ」
「随分頼もしいではないか」
「任せてくださいよ! ちゃちゃっと倒して見せますよ……リンが!」
他力本願に全てリンに委ねるバトラー。リンは呆れつつも、いつもの事だと笑った。
「頼んだぞリン! オレの命はお前に懸かってるだからな!」
「言われなくても守ってあげるよ」
互いの欠点を補い合う。それが二人の戦い方である。
なによりも、信頼しあっているからこそ成立する"コンビ"であった。
「団長として言わせてもらうぜバトラーくん? お前けっこうスジは良いからちゃんと訓練やるんだぞ?」
「えぇ!? マジっすか!?」
「今まで我流だったんだろう 粗い部分は責任持って鍛えてやんよ」
「でも戦いたくは無いなぁ」
「おい」
「あまり食堂で長居するのも良くないだろう 世間話もこれぐらいにしてはやく食事を済ませるとしよう」
戦いの話ばかりであったが、普段は上下の関係を保ちつつも、砕けて語り合う事が出来るように二人はなっていた。
戦いで命を落とすかも分からない。だからこそ、"今"を生きるのだ。
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