動きだす運命

第25話 疑問を問う

「やっぱりスピカちゃんは最高なんだなって」


「……そっか」


 訓練後での食堂にて、リンは昨日の出来事をバトラーへと話す。


 何をしていたかといえば"デート"であり、語られいるのは惚気である。


「オレが一人真面目に訓練に励んでる最中 お前は一人休暇とって姫様と街ぶらついてたんだもんな」


「エヘ〜」


(駄目だ 今のコイツは無敵だ)


 緩みに緩むだらしない顔。圧倒的な幸福感に満ちているリンに、何を言っても揺さぶる事は出来ない。


「顔が緩むのはこの際許すが……次の戦いの時は気を引き締めろよ? "この戦いが終わったらもう一度告白するんだ"って死ぬ奴多いんだから」


「今の僕は誰にも負けないよ 何故なら──僕は『リン・ド・ヴルム』だから!」


「意味が分かんねえ……」


「食堂で騒ぐな 他の利用者を考えろ」


 マナーを注意される二人。そう言ってきたのは、火の九賢者である『射手座のタリウス』であった。


「すいませんタリウスさん コイツ調子乗ってて」


 同席するタリウス。そのまま説教が始まるのかと身構えるが、意外にも心苦しそうにしながら二人に言う。


「まあ……これが最後の晩餐になるやもしれんからな あまり強くも言えないか」


「縁起でもないこと言わないでくださいよ!?」


「冗談だ」


 タチの悪い冗談だと思いつつも強くも言えず、バトラーは話を戻す。


「タリウスさんに訊きたいんすけど 次の戦いってオレら前衛兵士団と先に出てる遊撃兵士団だけで戦うんすよね?」


「そうだ オレ含め中衛と後衛兵士団は待機する」


「僕気になってたんだけどさ どうして全員で行かないの?」


「なんだぁ? オレも混ざって良いの?」


 またリン達と同席する者が現れ、何処から聴いていたのかリン達に物申す人物が現れた。


「不満があるなら直接の上司であるオレにしろっての」


 それは氷の九賢者『魚座のピスケス』である。


「不満って言うか……ただの疑問ですよ 情報だと相手は多くて五百程度 こっちは遊撃兵士団と合流すると千二百人で攻めるですよね?」


「数はまあこっちが上だけど もっと用意しても良いんじゃないかって話」


「出来る事ならそうしたいがねぇ……」


「"待機させる必要がある"からだ」


 前衛兵士団長であるピスケスと、後衛兵士団長であるタリウス。二人にも思うところがあるのだが、これが最善だと判断したのだ。


「国は騎士団に任せて兵士は戦場へ……だけど騎士団長であるエリアスは今謹慎中だろ?」


 戦場外で騎士を死なせてしまったとして、水の賢者である『水瓶座のエリアス』は責任をとり、待機を命じられている。


「余程の事が無い限り謹慎は解けん 前回の失態を許していない貴族や王族連中がまだ居るからだ」


 国の守護を騎士達に任せたいのは山々ではあるが、現状では騎士の指揮が存在しないせいで任せられないのだ。


「副団長に任せるとかは?」


「居るには居るがほぼ飾りだね プライドの高い騎士様連中を纏めてんのはエリアスにしか出来ないのよ」


「だから騎士団の代わりに中衛と後衛兵士団に白羽の矢が立った 何かあった時にはオレが指示を出せるようにな」


「後衛のメイン武装は弓だろう? 接近戦に持ち込まれた時が不味いから保険として中衛にも任せる事となったのさ……レグルスの旦那は現在極秘任務中で手が離せませんってね」


 実質的に騎士団が機能していない今、頼れるのは兵士団に懸かっていた。


「少しぐらい戦力を分けてもらうとかは……」


「寄越したところで足手まといにしかならん」


「こんな感じでタリウスさんは厳しいんですわ」


 面目上の副団長は居るが、騎士団と同じくほぼ形だけであり、戦力としては不充分だとタリウスは判断している。


 更にいえば前衛兵士団以外の兵力は少ない。後衛兵士団は弓を主武装としている為、剣術以上に技術を有するからだ。


「まあ中衛兵士団も理由は同じさ あそこは騎馬隊だから馬と馬術の素養がないとだし メイン武器がアレ・・だろ? 余計に人数寄越せないんだよ」


「フハハハッ! "ガンブレード"の事を言っているな! つまり"俺達を呼んだ"という事だなぁ!?」


「兄様兄様 食堂ではお静かにですよ」

 

「出たよ双子……」


 心底嫌そうにバトラーは頭を抱える。この聞き覚えのある声に、少なからずトラウマがあったからだ。


「二人ともこんにちは」


「こんにちはです」


「ウム! 自分から挨拶をするのは良い心がけだ! 評価してやろう!」


 バトラーとは逆に笑顔で挨拶を送るリンに、双子は満足そうに応えた。


 子供でありながら風の九賢者『双子座のデュオスクロイ』であるカストルとポルクスが、昼食を手に持ち現れたのだ。


「ポルクス君は何を食べるんだい?」


「オムライスです 僕のおすすめなのです いぇーい」


「流石は俺の弟だポルクス……ちなみに俺はカレーを勧めよう! この美味さ! この辛さは賞賛に値するからなぁ!」


「コイツが食ってるの一番甘口だけどな」


 次々に集まるこの国最強戦力である賢者達。理由は重要な会議などではなく、ただの昼食であるが。


「しかし食堂に赴けば ピスケスと"師匠"も居るとは中々珍しいではないか?」


「師匠だぁ?」


「タリウスさんの事ですよ〜 何やら皆さん銃剣のお話をしていたようですが……」


「漸くガンブレードの良さが分かったようだな ならば代わりに俺達が直々に……」


「次の作戦の件だ」


「つまらん 食が進まなくなる」


 あからさまに興味を失い、黙々と双子は昼食を食べ始めた。


「……話は戻すが中衛兵士団は"双子コイツ"らが立ち上げる前は無くてな だから出来たのは最近なんだよ」


「それに加えて銃剣の使い手を探すとなると数が少なすぎる 銃剣は"ギアズエンパイア製"のものだ 武器そのものが少ない」


 秩序機関ギアズエンパイア。機械帝国とも呼ばれ、この世界に於いて唯一"機械"が発展した国であり、最近になってここサンサイドと同盟を結んだ場所の事である。


「結局期待しないでくれって事さ だからオレ達だけで頑張ろうぜ?」


「思ったんですが何だって九賢者は指揮を執るだけで"戦わない"んですか? ぶっちゃけ五百人ぐらい朝飯前でしょ?」


 圧倒的な力を持つ九賢者にかかれば、五百の兵士を一人で片付けるなど容易いであろう。


 しかしそれは出来ない。それが今回の本題である。


「確かに我々九賢者の力を持ってすれば可能だろう だが我々も"万能ではない"」


「普通に戦うだけなら問題ないけどその数相手だと反動が来る 簡単に言えばまともに戦えなくなんのさ」


「だとしても一掃出来るなら問題無いんじゃあ……」


「ここで問題です 『魔法』とはどうやって使う事が出来るでしょうか?」


 突然の出題だったが、バトラーもこの程度の事なら知っていた。


「空気とかと一緒に漂ってる『魔素』が人間の体内に入り それが『魔力』となってオレらが使える……で良いんすか?」


 ちなみに人間以外の生き物が魔素を取り込んだ場合は効果は無いが、稀に魔素の力を扱えようになり、凶暴化した存在が『魔獣』である。


「中々やるではないかバウムガルト・トラートマン一等兵……まあ俺も当然知っているがな!」


「偉いですね おめでとうなのです」


「なんか馬鹿にされてない?」


 双子に絡まれるバトラーだったが、話はそのまま続く。


「魔法の知識はあるな だがその常識は──オレ達"九賢者には当てはまらない"」


「どういうこと?」


「そのまんまの意味さ オレらの魔力の元……つまり魔素はそこらに漂ってるものじゃあない 特殊なのさ」


 "そら"を指差し、ピスケスは答えた。


「九賢者の力の源 それは──」


 宇宙そらに瞬く、"星"である。

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