第21話 デートを知りたいのです
私、スピカ・セルネテルは、初めて殿方を誘いました。
「フハハハッ! 良く言ったなスピカ! お前の勇気は賞賛に値する!」
「デート頑張って下さいね」
リン様のお休みの日を頂いてデートを申し込んだのです。断られるかと思いましたが、快く受け入れてくれました。
双子のカストル君とポルクス君も応援してくれています。ですが、私にはとても不安な事があります。
「──デートとは何をすれば良いのでしょう?」
「そこからなんですねスピカさん」
「姫君の立場を考えれば仕方あるまい 俺は許す!」
「きっと大丈夫ですよ」
この子達はとても優しいです。まだ幼いというのに戦場に駆り出し、指揮を執らせる立場に置いてしまっているというのに、私を責める事をしないのだから。
「しかしデートか……俺は経験した事がないからな 的確な指示を出せん」
「"楽しむ"事です スピカさんが楽しめればリンさんも喜ぶかと」
「流石は俺の弟だ……誇りに思うぞポルクス」
「ありがとうございますカストル兄様」
私が楽しめばリン様も楽しめる。良い事を聴けました。
「……いや待て 何故詳しい? まさかお前!? 兄に内緒で誰かと!?」
「誤解です兄様」
「"五回"もだと!? 俺の弟を誑かした不届き者めぇ……案内しろポルクス!」
「もう……それでは失礼しますスピカさん 良い一日が過ごせる事をお祈りしておきますね」
二人は行ってしまいました。どうやらデートとは何度もしたり、内緒にしてはいけない事のようです。覚えておきましょう。
「スピカちゃ〜ん ちょっと良いかしら〜?」
部屋に戻ろうとしていると、アリエスちゃんが声をかけてきました。
もしかしたらアリエスちゃんも何か知っているかもしれません。
「どうしたのアリエスちゃん?」
「フフフッ……スピカちゃん大胆ね 男の人をデートに誘うだなんて」
「でもよく分からなくて……アリエスちゃんは経験があるのでしょうか?」
「──内緒よ」
アリエスちゃんは教えてくれません。もしかして、してはけない事なのでしょうか。
というより触れてはいけないオーラが見えます。怖いです。
(スピカちゃんの期待の眼差しが眩しい……でも私だって分かんないのよね〜)
アリエスちゃんはとても悩んでます。それだけ難しい事なのでしょう。戦う前から心が折れそうです。
「……こういのは"男性の意見"を聞くべきよ」
「どうしてですか?」
「"リン君が男の子"だからよ〜 男の子の気持ちはやっぱり男の人じゃないと」
確かにその通りです。流石はアリエスちゃんなのです。
「早速兄上に訊ねて参ります」
「絶対に駄目よ」
成る程。さっきのポルクス君みたいに身内には内緒にしなくてはいけないのですね。勉強になります。
「絶対に極秘よ 王に知られたらリン君の命が危ういわ」
言葉からひしひしと真剣さが伝わってきます。なんとしても隠し通す必要がありますね。
「先ずはタリウスさんに聞いたらどうかしら〜? 今なら訓練場に居ると思うわ」
「ありがとうアリエスちゃん そうしてみます」
頼りになる友人です。いつも気にかけてくれて、とても優しいのです。
早速訓練場に向かいましょう。もしかしたら他にも頼れる人も居るかもしれません。
「デートのコツ──ですか?」
「タリウスさんなら詳しいかと思いまして」
「どうなのよタリウスさん? オレも詳しく知りたいなー」
「黙れピスケス」
訓練場にはピスケスも居ました。これはチャンスです。
「ピスケスさんはご存知ですか?」
「そりゃあ勿論 狙った獲物は逃さないを心情にしてますから大量大量ってな」
「どちらかと言えば"釣られる側"ではないのか?」
「そうそう美味しいそうな娘に釣られて……って誰が魚っすか」
やはり相談して正解です。それだけの修羅場を潜り抜けたのであれば、最適な答えを出してくれる筈です。
「ぶっちゃけ女の子は考えなくてイイっすよ こういうのは男が責任取るんで」
「そうなのですか?」
「ですが相互理解も必要でしょう 初めてであれば尚更です 一度本人に尋ねてみてはいかがでしょう?」
とても大人な意見だと思いました。デートとは一人で成り立つものではなく、相手がいて初めて居て成立する事であると聴いています。
「姫さんはどうなのよ? なんか好きな事ってあります?」
「私は──お花を愛でる時が一番癒されます」
「素晴らしい」
(でもデートに向いてっかなー?)
こんな事で良いのかは分かりませんが、お二人の意見です。間違いないのでしょう。
「ピスケスは居るか?」
レグルスさんもやって来ました。内容はどうやら戦いの事のようです。レグルスさんにも聴きたいですが、今はやめておきましょう。
「仕事かレグルス? それとも……オフですかい旦那?」
「オフで良い 次の戦の事だ──姫様はどうして此方に?」
「なんでもデートの事が聞きたいんだと」
「丁度良い レグルスの意見も聞こうじゃないか 案外役にたつやもしれん」
タリウスさんはそう仰いますが、レグルスさんは明らかに不満そうです。
「……俺の意見など必要なかろう?」
「旦那のデートプランか〜オレも知りたいかも〜」
「水を得た魚のように食いつきおって……既に予定は組み上がっているのでしょうか?」
嫌々ながらも付き合ってくれました。仕事の話を優先しても良いのに、です。
「それが何も……」
「でしたら行くかどうかは別として興味のある場所をリストアップしていきましょう 一日のスケジュールで何処を優先すべきなのか どれだけの時間があれば実行出来るのかを想定すれば 自ずと絞れる筈です」
これは有益な情報です。作戦を立てるのは任務において初歩の初歩。恥ずかしながら見落としていました。
「案外普通っすね」
「頓珍漢な答えを予想していたのだがな」
「申し訳ないですが我々はこれで失礼します姫様……お前達に話がある」
「いやここでも話──」
「魔獣の餌にされたいか」
「……獅子をからかうのは命懸けか」
何やら不穏な雰囲気で訓練場を出ていきました。きっと極秘の作戦なのでしょう。
「んじゃまたな姫様 力になれなくてすんません」
「御武運を」
ピスケスさんとタリウスさんが励ましてくださいました。決戦の日を思えば、なんと心強い御言葉でしょう。
「それと姫様……こういう事は我々よりエリアスが向いていると思いますよ?」
レグルスさんはそう最後に言い残して去っていきました。
確かにエリアスさんなら知っていそうです。教会にいる筈なので行ってみましょう。
「むぅ? スピカではないか」
早速教会へ行くとエリアスさんだけでなく、ピヴワ様もいらっしゃいました。
色々と忙しくてまだ挨拶が出来ていなかったので、此処で出会えたのはとても嬉しいです。
「お久しぶりで御座いますピヴワ様──御挨拶が遅れた事を深くお詫び致します」
「構わん 其方が日々奔走している事は分かっておる 挨拶程度で余は怒らん」
「王妃様も見習ってはいかがでしょう?」
「なんじゃとエリアス!? まるで余がサボって……」
「溜まった書類に目を通しては如何でしょう?」
「ところで用件はなんだ? 余で良ければ力になろうぞ」
大変お忙しい時間を割いて戴けるなんて、ピヴワ様はお優しい。
幼な子な容姿ではありますが、流石は悠久の時を過ごされるお方で在られます。
「ほう? あの男と一日を共にすると?」
「喜んでいたのではないですか?」
「どうでしょう……『死んでもいい』と仰っていたので寧ろ嫌がっているのでは」
「滅茶苦茶喜んでおるではないか」
発言一つでリン様の心を見抜くとは、流石はピヴワ様です。
「デートですか……それは難しいですね」
あのエリアスさんでさえ太刀打ち出来ないとは、デートとは、それ程までに険しいのですね。
「失敗であったなスピカ 此奴はこういう話は苦手だぞ?」
「そうなのですか?」
「余計な事を言わないでください」
申し訳ない事をしてしまいました。無理に付き合わせてはいけません。
「まあ余としてグイグイとだな──」
「スピカ様はどうお思いですか?」
「私……ですか?」
とても不安で、悩んでしまいます。だから皆の意見を聴きました。
けれど、誰一人として"やめろ"とは言いませんでした。
「今は沢山悩んでください きっと悩んだ分だけ──彼は応えてくれるのではないですか?」
デートが何なのかは分かりません。ですが彼と一緒だと思うと、なんだか安心するのです。
だから部屋へと戻り、決戦の為の準備をしましょう。
「"光の九賢者"──『乙女座のスピカ』として! 覚悟を決めましょう!」
ですが不思議と、楽しみにも思えるのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます