第13話 次に備える為に
「──今回の報告は以上です 倉庫の警備兵二十と騎士五人が犠牲となりました」
城へと戻り、倉庫街で起きた出来事を話すエリアスと、神妙な面持ちでレグルス達『九賢者』が集う。
「私の詰め甘さが招いた結果です 如何様な処罰でも受ける所存でございます」
「そう自分を責めるなエリアス お前が暴いたおかげで"蟹座のキャンサー"とやらが姿を見せたのだ 充分な成果だと思え」
火の九賢者タリウスがそう言うと、"氷の賢者"が口を開いた。
「とは言えだ 兵士と騎士どっちも殺された……この損失は大きいだろう?」
「"ピスケス"……戦いに犠牲はつきものではないか?」
「最小限に抑えるのがオレらの役目だろ? それが出来なくて何が九賢者だ」
ピスケス。氷の九賢者であり、またの名を『魚座のピスケス』と呼ばれる前衛兵士団長である。
殺された兵士の管轄はピスケスが請け負っていた。
憤りを感じさせる物言いを制すタリウスだったが、ピスケスはそれだけではないのだと言う。
「今回の件で一番の問題は"街の中で死者"を出した事だ これまでは安全だと信じていた自分達の街で敵に殺される事件が起きた……これから不安が膨らむのをどう抑えるか考えなくちゃあならねえ」
平和な街中で起きた伝説肯定派の騒動は、遅かれ早かれ広まる事は止められ無い。
今までの平穏はもう訪れない、これからはいつ襲われるのかと恐怖に怯える日々を過ごす事となるだろう。
「でだ こっちはオレの管轄じゃあねえが"騎士"も殺されたんだよな? だったら貴族や王族の連中も黙っちゃあいねえだろうさ」
騎士達が殺されたとあれば、当然親族は黙っていない。
そして騎士になれる者は『貴族か王族』の家系の者だけである。
「戦争で死ぬ誉ある死ならともかく"街中で殺された"なんて言われて納得してくれるかな?」
「ピスケス 話が外れているぞ」
「いいやレグルス……脱線なんかしちゃいねえ 今回の一件で起こり得る最悪を想定した話だ」
この戦争で少なからず、他国との同盟関係の中で援助を受けていた。
騎士達の派遣は勿論、物資の補給は貴族や王族の力あってのものである。
「信用問題さ オレ達がこの場で許したとしても周りが納得するかは別問題だ だったらエリアスの不始末に罰を与えるのは今後を考えれば妥当なんだよ」
決してエリアスが失敗したという話では無い。
ただここで何もしないのは世間体を考えれば、通用しないのだ。
「その通りですねピスケス……私は罰を受けるべきだ」
「……けっ」
不機嫌そうにピスケスは、椅子に腰掛ける。
言いたい事は言ったと、片手で頬杖をついて黙ってしまった。
「ならばエリアスの処遇は"王"よ……貴方から」
ここまで一切口を挟まず、ただ静かに目を閉じ、議論を聴くに徹していたサンサイドの国王"コルヌス"。
レグルスにそう言われ、瞼を開く。
エリアスを真っ直ぐと見据え、処分を言い渡した。
「──"前線から暫く引け" その間は教会の神父として活動してもらう」
騎士団長としての傍、教会で神父としても活動するエリアスに、そう言い渡したのだ。
これを罰だと言うコルヌスに、他でもないエリアスが異議を唱える。
「御言葉ですが王よ それでは罰としては些か軽すぎるのでは……?」
本来与える筈では無かったとはいえ、流石にこれでは与えた事にはならないのではと、エリアス自身が納得しなかった。
「頭の固え野郎だなぁ 必要なのは"事実"なんだから素直に受け取れよ」
責任を追求したのは確かにピスケスではあるが、ピスケス自身はあくまでも"事実"を言っていただけである。
決して重い罰を与えろと言っていた訳ではない。しっかりと責任を取らせたという事実が欲しかっただけなのだ。
「そうはいきませんよピスケス この失態は償えるモノではない……私自身が許せないのです」
結果だけを見れば、今まで姿を見せなかった敵の実態に近づた事は何よりも有益な情報であった。
だが犠牲もあった。そして何より、"敵を逃した"。
「あの男は強い……"我々九賢者に匹敵する"魔力を持っていました そんな男を逃してしまった罰を受けなくてはならない」
犠牲を出さず、敵を捕らえる。それが出来てこそ自分達は『九賢者』なのだと、エリアスは言う。
「……そう焦るな ここから本当の"罰"だ」
コルヌスは更に、エリアスへと更なる罰を告げた。
「懺悔室があるだろ? そこで"俺"の──愚痴に付き合え」
それが"罰"なのだと、コルヌスは言う。
告げられた言葉に全員が驚く。続けてコルヌスは、自分達の"在り方"を語る。
「犠牲を出さない……当然だ 我々は誰一人として尊い命が失われる事を望まない」
現実はそうはいかなくとも、最大限尽力し与え結果であれば、決して否定などさせない。
「護るべきは"全て"である……何故その全てに
忘れてはならない。護る立場にある者は民草だけでなく、自分達『九賢者』も含まれているのだと。
「それが俺のやり方だ この国の王であり
誰であっても文句など言わせない。誰であっても仲間であれば護って見せるのだと、コルヌスは自身の在り方を示すのだ。
「どうやら俺が与えた罰を軽く見ているようだが……俺の愚痴は長いぞ?」
傷だらけの顔が微笑む。
普段なら決して見せない顔。それは、この場に居る者達だからこそ見せる信頼の証であった。
「──付き合いますとも 幾らでも」
これ以上言っても無駄だと気付かされた。
王の器の一端に触れ、どうやら自分が折れるしか無いのだと思い知らされる。
「これで一先ずは安心だ 言われる前にやっとけば多少は不満を抑えられんだろ」
「なら俺は兵士達のフォローに入ろう ピスケスは街の警護の強化を頼む」
「オレは外の見張りを強化しよう 潜入方法が分からない以上無駄にはならん」
レグルスとタリウスもそれぞれ出来る事をやる。今出来る事をすれば、必ず未来にへと繋がるからだ。
「エリアスは言われた通り待機だ これから教会での仕事も増えるやもしれんからな」
今人々は不安から、非常に不安定な状態だと言える。
そんな人々の話を聞くだけでも、メンタルケアとしての効果が期待出来ると考えられるのだ。
「では騎士達には一度待機を命じなければなりませんね」
「それにお前には"あの王妃"の御守りもあるではないか 俺はお前の尻拭いで忙しそうだからな 任せたぞ」
本来なら王として、王妃の御機嫌取りぐらいはしなくてはいけないのであろうが、全てエリアスへと丸投げされてしまう。
「そんなので宜しいのですか?」
「良いから任せた お前の主人だろ」
単純に苦手だからとは絶対に言わないコルヌスに、今回ばかりは何も言えないエリアスは苦笑いを浮かべながら承知する。
「仰せのままに……ところで今回の一件の立役者でもある『リン・ド・ヴルム』二等兵と『バウムガルト・トラートマン』二等兵についてなのですが」
あからさまに嫌そうな顔をするコルヌス。
「何だ……あの者共が活躍したのか」
「どうやら真面目に働いているようで安心だ」
「そうでなくては困る 最後に認めたのは俺なんだからな」
各々が思うところがあるのだろう。関わった者はいずれも名前だけで顔がよぎる。
「なんだぁ? "噂"のおとぼけ二人組かぁ?」
唯一関わりの無かったピスケスのみが、どう言う存在なのかを知らない。
「今は巡回兵として働いてもらってますが……どうでしょう? 貴方の所で預かるのは?」
エリアスの提案。それはピスケスの元への異動であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます