第4話 突然の来訪者
チャイムの音に起こされ、玄関の外を見ると、予期せぬ嬉しい来訪者が来ていた。
「薫さん!」 薫さんはドア越しに部屋を覗きながら、
「お久ぶり、良い部屋ね」と言って、部屋に入ると、僕のパジャマ姿と肩越しに見えた僕のトレナーを被っただけの美紀を見ていた。
美紀は、「薫先輩!」と言って、近寄って来た。
「何だか凄くまずい時に来ちゃった様ね。あなた達てそう言う仲だったの。」薫さんは、
そう言って僕らを見比べていた。
「ええ、あああの、一昨日の夜からそう言う仲に成ったと言うか。」僕は照れ隠しのつもりで有らぬ事を口走ってしまった。
「ええ、じゃぁ、一昨日の夜から、そんな事やあんな事をしてたわけ。」薫さんの突っ込みに、たじろぎながら三人がテーブルに付くと、美紀が恥ずかしそうに僕の横に座りもじもじしていた。そして、小さな声で
「下着がないんだけど。」と耳打ちした。
「ああ、洗濯したから、乾燥機の中だよ。」それを聞くと、すかさず洗面所に消えた。
薫さんが呆れた顔して僕らを見ていたので、照れ隠しにコーヒーを入れ始めた僕に、
「圭輔が、手ぶらじゃ失礼だって、何か見繕っているから、連絡があったら迎えに行ってくれる。」と言った。
「ええ、解りました。」僕は、コーヒーを出した後、美紀と入れ違いに、洗面所に入っり、慌ただしく着替えてから、圭輔さんを迎えに部屋を出た。
圭輔さんは、駅前の商店街て優しい笑顔で出迎えてくれた。
「やあ、久しぶり、元気か。」美紀にとって、薫さんは、同じ大学の医学と薬学部の先輩と後輩であるが、最もその関係を知り、親しくなったのは、あの小屋での出会いがあったからだが、同じように圭輔さんと僕も、同じ大学の理学部の先輩と後輩の関係で、山小屋を紹介されたのも圭輔さんからであった。今は、二人は結婚しNPO(国境のない医師団)に所属し、世界中を回っている。二人の関係は、まるでジャンヌダルクと彼女を守るナイトの様で、その仕事や生き方は、格好よかった。圭輔さんを連れて戻ると、まるで美紀が、薫さんから尋問を受けているかの様にキッチンのテーブルで対面しながら話し込んでいた。僕の顔みてニヤリと笑いながら
「お帰り、色男」と茶化した。後ろでポカンとしていた圭輔さんが、
「え、ポンちゃん。・・君たち結婚したの!」
「いや、まだです。」
「じゃー同棲してるの!」
「それも正確じゃないです。でも、美紀いや、ポンちゃんの家は近所ですけど。」
「圭輔、事情は後でゆっくり話してあげる。過激よ。」薫さんは、笑いながらその場を納めてくれた。
二日振りに僕らは外に出た。薫さん達が明日行くと言う、郊外に居る友人宅への電車路線を確認をしている間、馴染みの店で、お茶を飲みながら時間を潰していた。秋の風が肌寒く、美紀には、僕のコートを着せていた。
「一寸大きいかな。」
「うん、でも暖かいよ。何だか外が眩しいね。」
「並木が綺麗だ。」公孫樹並木はそろそろ冬の支度を始めていた。
「お待たせ、そんなに遠くは無かった。朝ゆっくり出ても大丈夫そう。」注文の品を決めてから薫さんは
「岳君て、知ってる。」
「チャリンコさんの岳さん?」
「そう。じゃぁ多恵さんは?」
「うん、多分知ってるかな。岳さんて、あの伝説の告白をした人でじょう。確か、相手は奈良の女性?その人が、多恵さん?」
「美紀は知ってる?」
「多恵さんとは何度か、お会いしてると思う。岳さんも顔見れば解るかも。」
薫さんは、岳さんと多恵さんの経緯を話してくれた。それは、かなり重い話であった。
「岳君は、多恵さんの病気を承知で、一緒に居る事を選んだの」
薫さんの話は、悲恋物の映画でも見せられたかの様だった。
薫さん達が、事務所の近くのホテルに帰るのを見送ってから、二人で外苑を歩いていた。
「重いお話だったね。確かに、今の僕らは、脳天気なカップルかもしれない。でも、そんな時間を僕は大切にしたいな。」
一寸歩き疲れたので、並木の見えるベンチに腰掛けた時、ふと今側にいる美紀がとても愛おしくなり抱き寄せてしまった。
「お休み、終わっちゃったね。ずーと一緒で居られれば良いのね。」美紀は淋しそうに言った。
「前から比べれば、随分と近付いたけど、今はもっと近付きたい。」そう言って僕は、暮れなずむ光りの中で、美紀にキスをしていた。
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