第3話 二日間の休日
何とか、研究の方も一段落して休みが取れそうな週末、夜中を過ぎて、部家に帰ると、僕のベツトに誰か居た。綾姉は昨日から、修学旅行の引率で不在であった。やはり美紀だった。一寸と早く帰れそうなメールをしてしまったため、部家で待ちくたびれて、僕のベツトで寝入ってしまっていた。
「ごめんな、こんな近くに居るのになかなか顔すら見られなくて。」独り言を言いながら、美紀の横顔をのぞいていた。
キッチンのテーブルで遅い夕食を済ませ、浴室へ向かう途中、綾姉の部家を見た時、雪人さんのチラシが見えた。
「綾姉、行ったんだ。」
美紀も綾姉とは別に行ったらしく、後で詳しい話を聞こうと思っていた。シャワーを浴びてから寝る事にしたが、僕のベツトには美紀が居た。
「綾姉の所で寝るわけにも行かないし。まあ、美紀に一寸寄ってもらうか。」
ベット潜り込もうとして、驚いた。美紀は、裸だった。
「遅いよ!」
「ええ、起きてたの。それに何で・・・」
「野暮な事言わせないでよ。」
「和也も早く脱ぎなさい・」そう言うとベットから起きあがり、僕のパジャマを脱がし始めた。
「逢いたかった。」そう言って、僕の顔を美紀の胸に埋めた。柔らかくて暖かい感触が、頬に伝わってきた。同時に美紀の甘い匂いが伝わってきた。そのまま暫く抱き抱えながら横になっていた。たぶん、その心地良さで、一瞬寝ていたのだろ、
「和君(かずくん)・・和也。起きろ!」
美紀が頬を叩いた。
「やばい、気持ち良すぎて寝入ってた。」
僕は、美紀の胸に抱かれながら言った。
「だめよ寝ちゃ。私に恥じかかせないでよ。」美紀は、僕の頬をさらに叩きながら、キスをしてきた。
「ひげ痛くない。」僕が言うと
「我慢するわ。」
「本当はね、さっきまで寝てたの。和君が来て髪を撫でてくれた時、目が覚めて。別に初めから裸じゃ無かったのよ。」
「でも、もう良いかなと思って、準備してたのに、なかなか来ないし。」
美紀は、僕の胸に被い被る様にして、僕の耳元で話していた。美紀の胸の感触と、心臓の鼓動が伝わってきた。美紀の濃厚で深いキスのおかげで眠気が覚めていた。今夜をしくじったら男として一生後悔しそうな展開を迎えていた。美紀の白い乳房は、程良い大きさで想像していたより大きく感じた。実は、混浴の時、ちらっと見ていたが。柔らかくてマシュマロの様に弾力があった。綺麗な色をした乳首が、可愛らしく乗っていた。口に含むと、甘い様な味がした。乳首から、首筋に唇を滑らせて、再び、美紀の唇に、僕の唇を重ねると、美紀の舌が、別の生き物の様に僕の口へ入ってきた。美紀は受け入れる用意ができていた。その行為に至った時、美紀は小さく身もだえした。
「痛い?」
「うーん、大丈夫。一寸怖かっただけ。」と言うと、すぐに僕の唇を求めてきた。
美紀の舌は、重なり合った二人の行為と相応するかの様に、僕の口の中へ押し入って来た
。僕の頭の中が、喜びと興奮の渦に満たされていった。美紀は優しく受け入れてくれていた。そんな、官能の時間が暫く続いた様に思えたが、やがて、美紀の小さな喘ぎ声と共に、美紀の体から力が抜けた。
時の流れが止まるとしたら、こんな感じだろうと想像しながら、美紀をしっかり抱きしめた。絶対に失いたくない、何ものにも変えられない、強い存在として、暖かいぬくもりと安らぎを与えてくれる掛け替えの無い人として、美紀を抱いていた。
二人の行為と、思いが遂げられた頃、外は新しい光りを放ち始めていた。
カーテンの隙間から漏れる光に気が付き、目が覚めた。時計を探し、時間を見ると7時を回っていた。
「あ、ごめん起こしちゃった。」僕が声を掛けると、美紀は恥ずかしそうに、掛け布団をたぐりよせて、顔を半分隠した。
「ごめん、私、・・・みたいで、後の事を覚えていない。和君より先に起きて、モーニングコーヒーを入れてあげようと思っていたのに。」
「ああ、ありがとう。それより、準備も無かったから、この後の美紀の体が心配、まあ、できちゃったらしようが無いけど。」
「大丈夫よ、私、薬剤士よ。」
「でも良かった。ああ・・その美紀との事もだけど、僕がしくじらなくて。美紀との大切な思い出を台無しにしたらどうしようかと。そんな事に成ってたら、美紀の顔見られないよ。」
「私こそ、ちゃんと出来ていたかな。本当に、意識が飛んじゃって。・・・やっと思いが遂げられたね。」
「ああ、美紀とこうして居られて嬉しいよ。」
僕がそう言うと、美紀は僕のむねに顔埋めた。暫くの間、お互いの温もりを感じ会いながら、抱き合っていた。
「今日は、ずうっとこうして居たいな。」美紀が甘える様に言った。
「綾姉も、帰って来るのは、明後日だし、美紀さえ良ければ、休み中一緒に居よう。久ぶりだし。」
「嬉しい!・・・それはそうとして、さっきから変な所触ってない。」
「ああ、ごめん、何だか、もう明るいし、布団剥ぐと悪いかなと思って。」
「また、してくれるのかと思って感じて来ちゃったよ。」
「うんしよう。でもその前に朝飯にしよう。」
「え、本当!今度は、ちゃんと起きてるから。」そう言うと美紀は、裸のまま、浴室兼トイレに駆けて行った。
休日の朝は、人の動きが少ないせいか、外も静かで、普段は聞こえない電車の音がしていた。秋も深間まって来ていた。ふと外苑の公孫樹が気になって、時間が有ったら見に行こうと思いながら、朝食の準備をした。
「そこに、僕のTシャツとトレーナーがあるから、それと短パンじゃ寒いだろうから、綾姉のジャージがあるから。」シャワーから出てきた美紀に声を掛けた。
「有り難う、着替え持ってくれば良かったのだけど。」
美紀が作ってくれた夕食の残りと、コーヒーとパン、そして冷蔵庫に有った残り野菜のサラダ、あとは、カリカリに焼いたベーコンで朝食を取った。キッチンのテーブルでコーヒーを飲みながら、美紀は上目使いに僕の顔みて
「こうして居ると、新婚みたいね。」と嬉そうに言った。
「綾姉の所に、雪人さんの書画集が有ったけど、美紀も行った?」
「ええ行ったわ、私が行った時には、綾佳さんが来ていて、やっぱり大分誤解を受けていたみたい。外見の事から。どうも、大阪のNPOの関係者か、面倒を見ている子のお姉さんと間違えられている様で、でも結構楽しそうだったので、そのままにしちゃった。私も雪人さんに暫くぶりに逢って楽しかったわ。一寸年の離れたお兄ちゃんて感じかな。」美紀はそう言いながら、何気に足を絡ませてきた。
「ちょっと!」
「ねーまだ・・」
「その前に、シャワー浴びたい。」と言うと
「じゃー一緒に入る」と言い出した。
「二人でシャワーじゃぁ寒いだろう。それなら風呂を沸かそう。」僕は、そう言って準備をし始めると、その間に、美紀は朝食の片付けを始め、流しに立っていた。
「それて反則じゃない。」風呂のセットを終えてから、そっと美紀の背後に寄り、下着を着けていない胸と下半身に手を入れた僕に、美紀が言った。
そんな悪ふざけをしているうちに、風呂が沸いた。
「一緒に脱いでるとHぽい。」互いの視線を気にしながら、服を脱ぎ始めた美紀が恥じらいながら言った。
「でも、結構広いのね。このお風呂。それに泡風呂!」
「それも、綾姉の気に入った所かな。」
二人で入るには、十分に広いとは言えないが、それなりに窮屈ではなかった。暫く暖まった後、美紀が僕の背中を流してくれた。
「山の温泉で何度か混浴した時には、気が付かなかったけど、和君の背中に、こんな大きなキズが有るのは、知らなかった。」
「えぇー・・そう。知っているのかと思った。まあ、確かに何度か混浴したけど、美紀のオッパイが意外と大きいと知ったのは、昨夜だったから、身近で見ないと解ら無いかもしれないね。」そう言った僕の顔に、美紀は笑いながらピシャとお湯を掛けた。
「キズの事、美紀にも話して置くよ。」
「これは手術の跡。肺を取ったんだ。」
「肺、」「うん」僕は、このキズの経緯を話し始めた。
「実は、綾姉に襲われたのが、そもそもの発端。」
「襲われた。」
「身内関係では、酔っぱらった綾姉に抱きつかれて、興奮して鼻血を出した事に成っているけど。昨夜の美紀みたいに綾姉が襲ってきた。ああ、昨夜の美紀の方がもっと凄いか。裸だし。」そう言うと、再びピシャとお湯が飛んできた。
「何でそんな気になってしまったか、綾姉にしか解らないけど、少し酔っていたのは本当で、たぶん色々辛い事が有った頃だから。綾姉は、寂しくてどうしようも無くなると
誰かに抱きつく癖が有るんだ。その延長の過激なやつと言った所かな。でも僕には、過激過ぎた。いきなり抱きつかれ、綾姉の胸てでかいから、・・ああ、美紀のも大きいよ。」
三度、お湯が飛んできた。
「思わず興奮したんだと思う。そうしたら、肺の血管が切れて喀血した。」
「喀血?」
「うん、その二―三ヶ月前かららしいけど、結核が進行していて、肺の上の方に小指程度の空洞が空いていたんだ。その周りの血管が切れて、血を吐いた。吐いたといっても、喀血て咽せるんだ。要するに咳き込む度に肺からの血が飛び散る。これは後で、入院した時、患者たちが言ってた話だけど、吐血、吐血て、胃に穴が空いて出血するやつ。吐血は血の海になるけど、喀血は、血の花が咲くて。正しくそんな感じで、あの時は、綾姉の白いブラースに血の花が咲いていた。綾姉は、ビックリしちゃって半狂乱状態、それでも何とか、救急車を呼んで、僕は即入院、緊急手術。」
「それが、背中の傷跡の経緯です。僕は半年入院して、今はこんなに元気です。手術をしてしまったため、病巣は完全に無く成り、その後は、予防の投薬だけで済んだんだ。」
「でも、大学は入学した途端に、一年休学した。」そんな話を聞いていた美紀は、狭い湯船の中を、僕ににじり寄ってきた。
「和君で、何時もあっけらかんとしてるから。でも結構大変な事経験してるのね。」そう言って軽くキスした。
「そろそろ出ようか」僕が言うと、
「お先にどうぞ。もう少し女磨いてから出る」と言た。
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