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「すっかり注目の的だな。イクス。外は祭りのようだよ。」


 イクスは共に第一統合政府に帰属する大学を卒業した仲間と情報の交換をしていた。目の前に映し出されたホログラムに向けてイクスは話しかける。


「これも政府の戦略の一つだよ。SOOのような驚異的な力は存在するだけで恐怖の対象となる。しっかりと管理され、制御下にあることを示さなければ疑念が広がる事になってしまう。情報が公開され運用が適切になされている事が示されれば、宇宙探索の先棒として評価されるということさ。」 


「あまり好き勝手には行動出来ないという事か…。まだ話したいことは色々あるけど、あまり時間がないようだな。忙しい中すまん。またな。カラーズ就任おめでとう。」


「ありがとう。君も宇宙での任務、頑張ってくれ。またいつか会おう。」


 イクスはそう言って、情報のやり取りをした後で、友人に別れを告げた。


 無数に存在する人々の中から、なぜイクス・ウィルという人間がカラーズとして選ばれたのか。SOOのパイロットの選考基準といったものは、もちろん選考の過程というものはあるが、はっきりとは分かっていなかった。


 ただ、個々のSOOとの相性とでも言うべきもので、その能力のパラメータを最大値まで引き出せる者が、探し出され選ばれていた。


 シャイニングのコクピットに乗り込むと、会話の相手は技術者やオペレーターに変わる。SOOに乗り込んだパイロットの精神は、光子を用いた情報伝達システムによりSOOのAIと同期される。


 そのためコクピットには操縦桿はなく、神経伝達を促すスキャナーが手のひらに合わせた部分に取り付けられているだけであった。戦闘中や高速での移動を必要とする場合などに、パイロットの勘や経験が最大限発揮される形となっていた。


 そして、精神を一体化することでSOOの持つ演算能力を自分の思考の範囲内に取り込み、莫大な量の演算であっても単純な計算をする事と同じような感覚で行う事が出来るようになるのであった。


「反重力システム異常なし。四次元格納装置起動。武器はアーム内に標準装備のレーザーが装備されていますが、格納装置にインストールしておけば、ブレードやライフルなど必要に応じて即座に取り出せるようになっています。」技術者は確認のために仕様を説明した。


「了解した。」イクスはあらかたの説明を受けた後返事をした。


「では、次は作戦オペレーターの支持を仰いでください。」


 コクピット内に鳴り響く声はオペレーターの声に変わる。


「良いですか、イクスさん。今回の任務の説明をします。まず今からSOOで宇宙空間まで飛び立ってください。その後は中継地点である宇宙ステーション・メタリアにて各物資やユニットの供給、格納を受けた後、目的の地点まで次元シフトして下さい。シフト後は基本的に単独行動となり、我々は報告だけを受けます。あなたには必要な素養は備わっています。自分を信じて、行動してください。」彼女はイクスを勇気づけるような口調で言った後、説明を閉じた。


「了解。ありがとう。」


 反重力装置の奏でる甲高い機械音と共に、地面とシャイニングの間には斥力が発生し、その反発力を利用しては瞬時に飛び上がり、一瞬の内に大気圏を突き破った。


 SOOが移動する際、推進力となるものは光の粒子である。自らの放つ特殊な光波を利用してエネルギーを発生させ、推進力を得ていた。しかし、その理論は未だ完全には解明されておらず、SOOは失われた技術で構成されているとさえ言われていた。


 大気圏を突き抜けたシャイニングはそのまま高速で軌道上の宇宙ステーションを目指した。


「メタリアに到着。補給を受けた後、シフト体制に移行します。」イクスは第一統合政府が管理する宇宙ステーションの一つであるメタリアに通信を入れた。


「了解。というか本当に存在するんだな、サーチャーって。会えて感激だよ。」メタリアのオペレーターは返答した。「必要な装備は全て準備しておいた。こちらの準備は万全だ。いつでも好きなだけ持って行ってくれ。」


 格納システムに必要なユニットをインストールさせた後、シャイニングはメタリアから離れシフト体制に入った。イクスは予定の座標を脳内で反芻した。


「到達予定地点を確認。ディメンション・シフトを実行する。」


 イクスがそう言い放つと同時に、超高速で移動しながら光を放ったかと思うと、すでにその宙域にシャイニングの姿はなく、次元を超えてはるか彼方の惑星へ辿り着いていた。

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