第21話R子の手紙

 そして一週間が過ぎた、僚の身辺は変わっていた。

昼休みになると「おーい僚、お客さんだぞ」とクラスの誰かが言う、呼ばれた僚は箸を置き廊下で待つ女子へと向かう、ポケットから白い封筒を渡す。封筒を貰った女子は僚にペコリと頭を下げパタパタと走り去る。

空いた戸口からその様子を見ながら「今ので何人目」ため息をつきながらルミ子が言うと

「もう三十人は越えました」真もうんざり顔だ。「でも皆、僚目当てじゅないから」由美子の返答に「ひまわりの種て罪だよな」「恋する乙女は藁にもすがるものです」真が締めくくる。


南山高校の裏サイトには「幸せのひまわりの種」と題され、恋する女子に朗報、幸せのひまわりの種というのを知ってますか、内容は詳しく書くは書けないけれど二年二組の高橋僚君が持っているひまわりの種を貰いなさい、片思いの女子は一歩前へ進む勇気をもらえます、両思いの男子、女子はお互いの仲がもっと良くなるおまじないの種です、高橋くんは優しいから必ずひまわりのの種を貴方達に分けてくれます。

ルミ子は、まあ、確かに必ず幸せになるとは書いてないところが山下久美子の逃げ道作ってるところなんだろうけど、それに中庭でグループで弁当食べた私たちの事なんかより、ひまわりの種が静かに確実に恋する女子たちに浸透して、中庭事件は有耶無耶になったな。と思いながら弁当のから揚げをポンと口へ入れ、席に戻って弁当の続きをする僚の背中を見ていた。

しんどくないの僚、貴方と雪ちゃんの大事な思い出なのに、私たちを守るためならなんでもしてくれるのね。

弁当を食べ終わりかたづけると僚がふいに後ろを向き。

「あのさ」

「何、僚」

「手紙、後で読んでくれない」

僚の両どなりの真と由美子がビクンと聞き耳をたてる。

「手紙て、私への・・・」

「いや、ひまわりの種への感謝の手紙、掃除のときみんなで読んでくれない」

なんだ、私への直接な手紙じゃないのか、少しがっかりするが感謝の手紙に興味がわく。

真も由美子も読みたいと顔に出ている。

「人の手紙だからどうしようか迷ったんだけど少し嬉しくて、皆に読んでもらえたらと思って」少し迷い顔な僚。

「うん、解った。僚がそうしたいなら私たち秘密にして読むから、ねえ、真、由美子」

「了解です」

「解ったわ」

真も由美子の目も輝いている。


放課後、教室内の掃除を終え、自分の席に着き白い封筒から便せんを取り出す、ルミ子、真、由美子たちは机を囲みながら便せんに目をやると可愛い女子の字が並んでいた。


「高橋僚様へ

ありがとう御座います、高橋君。私は図書委員をやっています。放課後いつも図書室に来る男子が気になっていました、いつも推理小説を借りていて、私も推理小説が好きで好きで、彼と本の事話したいなあ、なんて思っていました。そんなとき南山高校のサイトでひまわりの種の事を知りました。

私、男子と話しするのが苦手だったんですけど思いきって高橋君の教室まで行きました、でも、なんて呼びかけたらいいのか廊下でウロウロしてたら後から来た女子が高橋君を呼びだしてひまわりの種を貰っているのを見て私も思い切って貴方からひまわりの種を貰いました、ドキドキしました。私から男子に話しかける事は滅多に無いことでしたから、封筒を渡してくれたとき、頑張ってと言ってくれたのが嬉しくて、でも恥ずかしくてすぐ逃げてしまいました、お礼も言わなくてごめんなさい。

その日の放課後、図書室に彼がやってきました。いつものように本棚を見ています。私はカウンターの中でポケットの中のひまわりの種をそっと撫でていました、頑張ってと高橋君が言ってくれた事が私に勇気を与えてくれたのか、カウンターから出てそっと彼の横に並び、推理小説、好きなんですね。と言いました。いえ、ひまわりの種のおかげで言えました。そしたら彼は、うん、君も好きなのと返事してくれ、それから本の話しを楽しく話せ、今度の休みには一緒に本屋さんへ行く約束まで出来ました。今、私は喜びでいっぱいす。ひまわりの種のおかげで私は少し変われました。この先どうなるかはわかりません、不安もあるけど頑張ります。ありがとう御座いました、高橋僚君。R子よリ」


「いいなあ、R子ちゃん」真の瞳はキラキラしている。

「人の手紙だからみんなに読んで貰うの気が引けてたんだけど」安堵した顔で僚は言う。

「人は変われる」

「何かのきっかけでか」由美子が少し思案する顔で言う。

「まあ、僚のひまわりの種がR子ちゃんを幸せにしたんだからよかったじゃない」

ルミ子の言葉に、ふう、よかったよと僚は手紙を仕舞い今日は用があるからと先に教室を出ていった。


教室に残った三人は申し合わせたように目を合わせる。

「悪いこと考えてる顔ね」真と由美子を見てニヤリと笑うルミ子。

「悪いことではないですよ、ちょっと図書室に本借りに行くだけです」

「そう、借りに行くだけ」

「貸し出しカードもってるの由美子」

「だから、今から作ってもらおうかなて」

「R子ちゃんに」意地わるそうに言うルミ子、目が笑っている。


夜、中畑由美子は一人暮らしのアパートでバスルームから出てきた。髪を乾かしながら図書室で仲よく話していた女子と男子を想いだしていた、おさげで、メガネをかけおとなしそうな女子、男子もメガネをかけていた、ぎこちなく、それでも仲よく話ししてたな。

あんなの見せられたら、私の付き合ってた男たちてなんだったろう。格好ばかり気にして。それに流さてた自分の事を思った。

親とうまくいかなくって、高校に入ってすぐ一人暮らししたけど、私は何がしたかったんだろうかと、ため息を部屋に吸わせた。

スマホが着信を知らせる。誰から、今は誰とも話したくないや。着信音は続く。

しょうがないなと画面を見ると美沙子からだった。

スマホをとり応対する。

「由美子さん」かぼそい声がする。

「何」きつめに対応する由美子。

「あの、連休、家に帰ってこなかったからどうしてるかと思って」

「元気でやってる、心配いらない」

「今度、いつ帰ってくるの」心配そうな声だ。

由美子は少し躊躇したが、「今度、中間テストが終わったら一度帰るわ、お義母さん」

「え、お義母さんて」声が戸惑っている。

それに構わず由美子はスマホを切った。

私も変わらなきゃね、と子猫を抱き合げる

静かな部屋に「ニャー」と子猫が泣いた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

高橋くんとひまわりの種、そしてお決まりの美少女 ショクパン @shokupn87

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る