第20話大切な人には

 「だいたいの事は皆から聞いた、知らなかっとはいえ悪かったのは俺だから、俺一人どんな処分でも受ける」淡々と話す僚。

僚、ルミ子、真、由美子、雪たちは生徒会会長、山下久美子と対峙していた。

生徒会室には他の役員たちの姿が無く山下久美子会長だけが窓からの光を黒髪に鮮やかに受けて待ち受けていた、部屋に入ったときあまりの静かさと美しい会長に一瞬戸惑ったルミ子だが、ラボール、試合開始だと心の中で深呼吸した、今は目の前の美少女をじっくり観察している。

肘を机の上で立て細い指を組み合わせその上に顎を載せてこちらを値踏みするような視線。

これは駆け引きの始まりだ、一瞬頭の中を駆けめぐる思い、相手の手の内がまだ解らない、焦るなルミ子と自分に言い聞かせる。

「私たちも知っ出てて中庭に行ったから同じように処分を受けます」ルミ子は拳を握りイスに座っている山下久美子を見据えた。両脇に立つ真と真由美が握り締めている両手の拳を隠すようにつないでくれている。解ってるて冷静よ、と拳をほどき手を握り直す。

五時限目の休み時間に僚から山下久美子とは幼なじみだったといことは聞いてたがどんな関係だったまでは聞き出せなかった、休み時間は短い。

黒髪の美少女は表情を変えず続ける。

「中庭でカップルだけが弁当を食べるのは南山高校の暗黙のルールで、ひとつの伝統みたいなもの、公式の校則では何も違反はしてないのだけど」

「だから責任は俺にあるから」

「まあ、聞いてくれ僚、変な噂が流れたらこの子たちが困る」

沈黙する僚。

「生徒会長の私に任せてくれないか」

「何か案でもあるのですか」真が問いかけるぎゅっとルミ子の手を握りかえす。

「ひまわりの種、持っているんだろう、僚」生徒会長の瞳が一瞬輝く。

「持ってる」

「それさ」と言いながら美少女会長はイスから立ち上がり美しい動作で後ろへ向き備品棚から白い封筒の束を取り出した。

「ひまわりの種、この封筒に入れて明日から欲しいて言う生徒が来たら渡してくれない」

怪訝な顔をする僚。

「南山高校の裏サイトに片思いの貴方、両思いの貴方達、高橋僚からひまわりの種を貰いなさい、高橋僚のひまわりの種は幸せの種、持っていると幸せが訪れる。て流すから、そしたら今日の事なんてみんな忘れて有耶無耶になっちゃうわ」

「そんな事したら僚の大切な思い出が」今度は由美子がルミ子たちより先に言った。

「他に手がある、貴方達や僚を守る方法」

穏やかな声が生徒会室に響く。

「うん、解ったよ」頷く僚。

僚、それでいいの、大切なひまわりの種じゃないの、何か言いかえさなきゃ、いっそのことテーブルごと蹴り倒してやろうかとルミ子は再び拳を握る。

「大切な人たちにはもう渡してあるから」とポツリと僚が言った。





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