第19話中庭デビュー2
南山高校の中庭は南校舎と北校舎の間にあり円形をした花壇を中心にベンチと、イスと円テーブルが組み合わされ生徒たちの憩いの場となっている、花壇には今の季節の花、アネモネ、ヘリクリサム、スイートピー、等々がそれぞれの色を鮮やかに主張するように咲いている。もう十組ほどのカップルたちが弁当をひろげ仲睦まじくしていた。ルミ子たちはその中のテーブル席に座った。すでに女子たちから冷たい視線を感じるのは気のせいでは無い。
諦めと決意を込めてルミ子は「き、今日もいい天気ね」と口火を切る。「そうです、気持ちいいです、いなり寿司食べたいです」「僚のおばあさんの巻き寿司美味しかったから楽しみ」ぎこちなく答えながらも笑顔で座り込む。
ルミ子(すまん、幸せなカップルたち、ここがどういう場所か、私たちは解っている、だが私たちも引くに引けないんだ、後で生徒会でも何でも報告してくれ)
真
(うう、ごめんなさい、ここは私ごときが来ては行けないということは知ってます、でも私も幸せになりたいです、一時だけ許して下さい、覚悟はしてます何を言われても逃げません)
真由美
(くそ、後ろのアカネの奴、睨んで来やがった。一年生のときはあれこれ面倒みてやったのに、いつの間にか中庭デビューしてやがったんだ。ああ、これから女子を敵に回すぐらい真由美様には何でもない、所詮、おまえたちとは表面だけの間だ、だけど今はこいつら、ルミ子が言ってくれた仲間てのが私には居心地よくてさ)
そんな三人の思いを払い退けるように。
「どうした、今日は何か真剣な顔してるけど?」大き目の弁当箱を開けながら僚が言うと。
「ううん、何でもない」と三人同時に答えながら僚の弁当箱を覗きこむ。
「美味しそうです」と真が嬉しそうに答えると同時に、ほら、真、アーンと僚がいなり寿司に箸を入れ真の口へ運ぶ。
「「!!」」その動きに一瞬呆気にとられたルミ子と真由美。
真由美
(なんだ、聞いてないぞ、ルミ子!。逆アーンのパターンなんか)
ルミ子
(真のバカ、大きな口あけて僚の弁当箱覗き込むから)
パクリと運ばれたいなり寿司を食べる真
(うう、ごめんなさい。突然のことで私の頭はショートしたいみたいです。だって中庭で僚からアーンなんて言われたら・・・)
なんだ、ルミ子も真由美も大きな口開けて、ほらアーンしてと僚はたて続けに二人にもいなり寿司を食べさせる。パクリと食べる二人。
((うぐ、逆アーンされてしまった))
雪も「僚、私にもアーンして」と。
そして、ルミ子達も弁当を広げ、卵焼きや
タコさんウインナー、から揚げなどを僚の弁当箱へ別ける、((僚、アーンして。と言いたい・・・))三人はそれぞれが暴走しないかと監視する。
いなり寿司も美味しく、会話も弾む。楽しい昼食の時間だった。
いつの間にか中庭はカップル達で賑わってい
て、女子たちからの視線を受けているのだがルミ子たちは気にならなくなっていた。
「あのさ、真」僚が弁当箱を片付けながら
話しはじめる。「まかべまことて漢字で真壁真だから」「ハイそのとおりです」真はもう何を言われるのか理解している、ルミ子たちは「何?」
「漢字で書くと、上から読んでも、真壁真、下から読んでも真壁真です」
「ほんとだ」
「まかべまこと、だ」
「でも、いい名前だよな」とニコリと僚が笑う。
そう僚が、言い終えたとき。
「二年二組の委員長、真壁真さん」とハスキーボイスでぴしゃりと言う声が五人の輪の中に切り込んだ。
皆が、声の主の方へと見やると。
170cm以上はある身長、ロングヘアの女子が立っていた。太陽の光を受けて輝く黒髪、
切れ長な目、薄いくちびる。美しいがどこか冷徹さをかもし出している。
腰に手をやり背筋をピンと伸ばし、それが高身長が更にきわだたせている。
「会長・・・」と真がつぶやく。
「クゥー」と続ける僚。
「ふう、クゥーなんて呼ばれるの久しぶり、僚、雪ちゃん」
「「???」」
ハスキーボイスの主は笑っているが目は笑っていない。
「私が何をしにここへ来たの解るかしら?」
真は「ハ、ハイ。生徒会長」と伏し目がちに返答する。
「誘ったのは誰?」
「俺だけど」
「ハアー」とため息をつき「知らずにやったのね、ここではなんだから放課後、生徒会室へ来るように」
ここで、ルミ子の負けん気が目を覚ます。
「私たちも行きます」
「何故?」とハスキーボイス。
「仲間ですから」とキッパリ言う真由美。
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