第17話海浜公園2

駐車場に白いセダンが入ってきた、ドアが開き僚のおじいさんが出てくる、年老いた風にはみえない。白い作業服姿がよく似合う。

リアトランクを開き留美子たちは「わあ」と歓声を上げた。「みんなよく来てくださったな、ばあさんが張り切って作りよった弁当じゃ」笑う老人は僚と似ていて声もどこか僚に似ている。

トランクの中には重箱がたくさん詰まっていて可愛いバスケットも入っていた。

「あ、あの今日はありがとうございました、いつも僚君にはよくしてもらって」留美子は今日一番の笑顔で礼を言う、「留美子さんじゃろ」「え」「そちらが真さん」「ハイ」「それで真由美さんだ」「そうです」キョトンとする三人。

「いや、僚が言ってた人たちどおりじゃ」

「なんて言ってたんですか」三人そろって返答する。

「もう、いいだろうじいちゃん、ほらみんなで運ぶぞ」僚の顔が少し赤らんでいる。

「後で重箱取りに来るからな、それと土産もな」「ああ、ありがとう」と手を振りせセダンを見送る。

「なんて、おじいさんに言ってくれてたのかな」留美子は僚の隣で嬉しそうに尋ねる。

「いや、そのだな・・・」いつもの僚らしくない、照れている。

「そうです、ひまわりの種のことも聞きたいです」

「うーん、弁当食ったら俺、席外すから雪から聞いてくれ」今日の僚は何か変だ、いつもぶっきらぼうなほうだけど楽しそうにしている。

「じゃ、食後は女子会ていうことで」真由美が話しを締めくくる。


「うわー」と歓声が上がる、重箱の中には

巻き寿司がぎっしりと詰まっていた。

「おばあさんの巻き寿司、久しぶり。みんななとっても美味しいのよ」雪はニコニコ顔だ。

「真、顔でレシーブしてたから顔真っ赤だよ」

「それは言わないでください」

「どうしたら、ああなるのかね」

「オマケは黙ってて下さい」

「オマケて?」と雪が尋ねると「いえ、なんでもないです、とにかく美味しいです巻き寿司」とごまかす真。

楽しい会話をしながら食事は進む。


「「「ふー、美味しかった」」」

「喜んでくれてよかった、雪」「なあに」

「みんなが女子会したいみたいだから、俺、防波堤のほうに言ってくるよ」と僚は立ち上がり背伸びして、なにが釣れてるかみてくるわ。と僚はみんなから離れた。


あらたまった顔で留美子が切り出す。

「さて雪ちゃん」「ハイ」「僚からひまわりの種貰ったけどあれは、何?」

うふふと笑い空を見上げ「どこから話そかな」と視線を皆に戻し「全部話そう」と顔にかかった前髪を白い手でかきあげる、その仕草は同性からみても美しいと思わせた。

「小学六年のとき、僚はお兄さん、お父さん、お母さんを車の事故で一度に亡くしたの、僚は変わってしまったわ」

「変わった」

「そう、それまでは友達と普通に遊ぶ元気な子だったけど、僚は知ったのね。大切な人を亡くす悲しみを、だから友達とか大事な人を作らなくなったのよ、私だけはほら心臓がが悪くてひとりぼっちで小さなときから僚に助けられてたから仲はよかったんだ」

雪の話しは続く。

「それで、ひまわりの種なんだけど小学四年の夏休みのときにね、学校の中庭にひまわり畑があって、ふたり水やり当番の日だったわ。朝から暑くて、ひまわりに水やってたら私、胸が苦しくなって倒れたのよ、たくさんのひまわりの中で、気を失っていたわ。でも小さな声がするの、そしたら胸が苦しくなくなってぼんやりしてたら小さな声はこう言ったのよ、雪、雪は幸せになるよて、幸せて問いかけたら、そう雪は幸せになるのよひまわりを忘れないでと、そしたら僚の声はが遠くから雪て呼ぶ声がして、気がついてたら、ひまわり畑からはいでて僚の背中が見えたらなんだか泣いてた。 僚兄いて叫んだら駆けよってきたわ」雪は紙コップのお茶をコクリと飲む。

「それでね、私、僚に言ったの。このひまわりは幸せのひまわり、忘れないように種を取っておいてと、いつか幸せになったらみんなに種を分けようて、だから」

「だから」

「私ね、中三のとき心臓の手術して学校だいぶ休んだから僚と同じ年に南山高校に行けなかったけど一年遅れても高校に来いよと僚に言われた、嬉しかったけど受かるか不安だった。そしたらひまわりのこと思いだしたの雪は幸せになるよて。それで僚に勉強を教えててもらいながら今年、合格したわ。でも」

「でも?」

「僚に勉強みてもらってたとき、僚が言うの、今日用事でテニスコートに行ったらまっ黒に日焼けしてボールを追いかけてる女の子を見た、笑うと白い歯が輝いて太陽みたいな子だったて、あなたのことよ留美子さん」

雪は視線を留美子に向ける

「・・・」沈黙する留美子。

「真面目でクラスのことよく取り仕切って頑張ってる委員長がいるんだ、真さんあなたのことよ」

聞きいる真。

「最近は綺麗なお隣さんのこと言ってたわ、ときどきさみしそうな顔して窓の外を見てるて、何かさみしい思いしてるの」

言われて真由美は(親とうまく行ってなくてひとり暮らし初めたけど何か自分のしたかったことと違うなて思ってたな)

「留美子さんと真さんの話しをしてるとき僚の顔が子供の頃に戻ったようで、少し妬けたし、嫉ましかった、不安にもなった。僚をとられないかなと、でもね北風と太陽て知ってるでしょ」

「北風と太陽が旅人のコートを脱す話し・・・」

「そう、もしかしたら私は北風かも知れない、僚の重荷になってるのかも。留美子さん、真さんは太陽で僚を変えたわ」

「変えたて言われても」

「ひまわりの種、僚からもらったでしょ。僚は今、幸せなのよ、だから私の言った幸せのひまわりの種、みんなに渡したんだと思う」

真が「雪ちゃんはそれでいいんですか」と雪を見つめて言う。

「うふふ、よくないわ。僚はやっぱり手放せない」

「よし、これからはライバルだ。私たちを甘く見てると幼なじみでも痛い目に合うわよ」

「留美子さんらしいわ、僚が言ってた通りの人」

海からの風が吹く、何気に砂浜を見て留美子は言った。

「とにかくあれでもしようか」と砂浜ですもうをしている小学生を指さした。

「すもう?」三人が口をそろえて言う。

「あれこれ考えるより体、動かすのが私の性格なの雪ちゃんは体、大丈夫?」

「うん、少しなら大丈夫よ」

「よし、決まり」

四人は砂浜へ駆けて輪を描いた。


「まずは、真山と留美子海からな」

「負けません」受けてたつ真。

真由美は何か嬉しくなってきた、今までの友人や付き合ってきた男子たちと違う。この四人となら何かが始まる、何かは分からないけれど今は、ただ体を動かしたい。

「ハッケヨイ」真由美の行司ですもうは始まった。

「ノコッタ、ノコッタ」

雪も

「ノコッタ、ノコッタ」と声をかける。



芝生に留美子、真、雪、真由美と寝ころんで空を見上げていた。額にはうっすらと汗を流している。

「留美子海にはかなわないわ」

「いやいや、真由美山もなかなかでした」

「私たちぜんぜんだめでしたね、雪の海」

「そうですね。真山さん」

「それよりさ」

留美子の問いかけに「何」と答える三人。

「気持ち悪くない」

「気持ち悪いです」

「そうだな、ムズムズする」

「私もです」雪も恥ずかしそうに返す。

「留美子さんがジーンズ引っ張っるから」

「パンツが食い込んじゃって」


「うふふ」

「あはは」

「パンツが食い込んでます」

「僚が帰ってくるまでトイレでなおさなきゃ」

「そうです」

「なんだか、ライバルだけど、仲間みたい」

雪の声は弾んでいる。

「たぶん、仲間でいいと思う、でも、うかうかしてると僚は」

「私のものです」真が言い放しトイレへと走りだした。


四人の笑い声を青空が吸い込んでいた。


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