第11話1800円のスペシャルパフェ

青井家、午後6時ダイニングルームにて、僚を囲んで晩ごはんである。

「おいしい、肉じゃがですね」「ありがとう、たくさん作ったからもっと食べてね」僚の向かいの席で母は嬉しそうに言う。「僚さん、自転車治してくれてありがとう」母の横で妹、優香里は恥ずかしそうに礼を言う。

むう、何だ違和感あるぞ。と留美子は胸のうちでつぶやいた。それでも留美子は「自転車教えてありがとう」と。

すかさず「これでスーパーまでお姉ちゃん買い物行けるもんね」「そうそう、留美子もテニスばっかりで家の事してもらわなきゃ」

何だ、母さんも優香里も私が家の事なんにもしてないみたいじゃん。

「でも、留美子さんはテニスコート走ってるのが一番好きなんですけど」

ぶ、飲みかけていた水を吹きそうになる、(す、好きて)いきなり言われ心拍数が上昇する、顔にでてないかと母と優香里の目を気にする留美子。そんな会話が弾む食事だが、

「あ、お水、お水」と母が席を立ちぐるりと留美子の席を回り台所の蛇口へと、「あ、あたしもお水」優香里も留美子の席を回り蛇口へと。(何、遠回りして水くみにいくの、それって私と僚の背中を見てる感じなんだけど)母と優香里の行動を不審がる。


「じゃ、今日は留美子さん優香里さん、お母さんありがとう、晩ごはんおいしかったです」と玄関であいさつする僚。青井家の三人も玄関で並んで僚を見送る。

「また、来てね、肉じゃがたくさん作ってるから」「僚兄いちゃんまた、優香里の自転車みてね」「うん、またよろしくね、留美子さん今日はありがとう」と礼を言うとくるりと背を向け去っていく、僚の背中はすぐ暗闇に溶けた。沈黙する母と優香里。「お母さんだって」「僚兄ちゃんて言っちゃったよ」「だから何」「何て背中よ、背中」「そっくり」と母。?が頭に浮かぶ留美子。「何ぼんやりしてるのよ、お父さんの背中にそっくりじゃない」言われてハっとした留美子。今日子猫を助けるときしゃがみ込んだ僚の背中、何故かほわっとした気持ち。ああ、お父さんの背中だったと気がつく。

その夜、母と優香里に質問攻めにあう留美子だった。

お風呂に入り、部屋の中。ゴロンとベッドへ倒れ込む、今日の一日を脳内再生する留美子。僚の教えてくれた自転車、お揃いの服、子猫を助けるための肩車。目尻は下がる、ニヤけて、その幸せに浸っていた時。スマホがなる。はっ、真からだ、いそいでスマホを耳にあてると。「今日、お揃いの服着て自転車デートを楽しんだ留美子さんですか」

真の口調はきついのだった。

「うぐ」

「だから、私に峰山雪さんという人を押し付けて僚とデートしてた青井留美子さんですよね」「す、すまなかった」「いえ、私、がまん強いし、誰かと違って毎日壁ドンされて電車通学してもらってるので怒ってはいないんですよね」ひぇー、怒ってるじゃんおかっぱ。「真さん、本当、今日はありがとう助かったよ」低姿勢な留美子。「本当に」「ああ、本当に」「それでは情報交換しないといけないことがあります、今後の傾向と対策について」淡々と真は言い続ける。「そうだな」「明日、駅前のジュンの店で」「うん」

「それと、スペシャルパフェは留美子さんのおごりということで」「えー1800円だよー」「いや、無理にとは言いませんが今日は疲れましたよ」トドメをさしにくるおかっぱだった。「うう、わかった時間は」「午後2時ということで」そこで通話は切れた。

そうだよな、おかっぱには感謝しなきゃな、でも1800円は痛いぞ。


時間は少しさかのぼって。中畑由美子のマンション。ライダーパンツをはき同じくライダーズジャケットを羽織る。ツインテールの髪留めを外しロングヘアーになる。かるく髪をブラシして、「ミーちゃん、少し私と付き合ってくれる」部屋の隅の子猫に優しく尋ねると「ニャー」と子猫は買い主の差し出した手の中へ。コツンコツンと夜の駐車上にライダーブーツの音が響く。外灯に照らされれ持ち主を待つ中型バイク。バイクにまたがり、「ミーちゃんの指定席」とライダーズジャケットのジッパーを下げると子猫はするりと胸の中へ滑りこむ。「うふふ、ミーちゃん暖かい」ジッパーをあげ、ヘルメットを被る。キーをオンにして、セルスイッチを押すとエンジンはキュルキュル、ボンと目覚めた。少し暖機させる。「高橋僚と青井留美子」とつぶやきギャーをローに入れる。アクセルをふかしバイクは発進した。夜の闇に赤いテールライトが流れた。

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