第10話晩ごはん誘うぞ
午後から2時間ほどの練習で留美子は自然と自転車に乗れるようになった、留美子は多幸感に包まれていた。
ペアルックで僚に自転車を教えてもらってる。頬が赤くなるが風が優しくなぜ、赤い頬を冷やしてくれる。これよこれ、デート気分満喫じゃない。新学期からはいろいろありそうだけど今は今、楽しまなきゃ。
ベンチで一休み、三月終わりの日差しは優しく二人を包む。
「ふー」
「もう自転車大丈夫みたいだね」
「ありがとう、僚のおかげだよ」と太陽を見上げまぶしそうに見上げる。
ショートカットの少しカールかかった横顔。
僚はぼんやりと留美子を見つめる。
いいね、いいね僚が私を見てくれてる気分最高だわ。ほくそ笑む留美子だった。
と、その時五才ぐらいの女の子が駆けよってきた。「お兄ちゃん、お姉ちゃん助けて」
「「何」」
「子猫ちゃんが木から降りれなくなってるの」二人のベンチから少し離れた木の下に数人の若いママさんたちがベビーカーを横に木を見上げていた。
「わかった、ルミ手伝ってくれ」
「え」
と思う間もなく留美子の手を引っ張り木へと向かう。僚がいきなり手を繋ぐので、留美子は焦った。うぁ、手繋いでるよ、ペアルックに手繋ぎ、テンションは空高くあがるのだった。
木の下から上を見やると子猫が「ニャーニャー」と鳴いている。ツインテールの女子高生が心配そうに見上げていた。猫を見上げながら僚は「ルミ、俺が肩車するから子猫助けよう」僚はしゃがみ込む。その背中がとても広くて何だか懐かしい(お父さん)と留美子はこころの中でつぶやいた。
「早く、またがって」僚の声に一つ反応が遅れたが留美子はすぐ僚の肩にまたがった。
ゆっくりと僚は立ち上げる。留美子の視界が上へと変わっていく。「もう少し右」と留美子の言われるように僚はしっかりと動いて行く。「ストップ」の声で立ちどまる僚。
「さあ、こっちにおいで猫ちゃん」子猫は初め警戒していたが「ニャー」と鳴くと留美子の伸ばした手に入り込んだ。
「僚、大丈夫、もう降ろして」
「わかった」の声で留美子の視界は下がっていく。
「ありがとうございました」ツインテールの女子の腕の中で「ニャー、ニャー」と子猫は鳴く。他の若いママさんたちから「ありがとう」「よくお似合いのカップル」とお礼とひやかしまじりの声で労われる。
「それじゃ、今度からは気をつけてね」とツインテールの女子に言う僚。
むぅ、注意、注意とアラーム音が留美子の頭をかすめる。「さあ、僚行こ」と無意識に僚の腕をとり立ち去らうとしたとき「あの」と続く声。「なあに」と声は優しいが留美子の頭の中では、注意、注意が警告、警告とアラーム音が切り替わる。「高橋さんと青井さんですよね」「そうだけど」「同じ学年の中畑由美子です」そう言うとすぐ踵を返し走り去っていった。だから僚はなにかしら女子を守っちゃうんだからと僚の横顔を見ながら、僚の腕にしがみついてる自分に気がついた、
ヒャっ。いつの間に私、僚の腕つかんでる。
僚も嫌な顔してない、まあ、中畑由美子、今回は見逃してやるか。
そのままで自転車のところへ向かう二人。
「あのさ」僚が切り出す。
「自転車、大丈夫そうだから次のことしたいんだけど」
えー、次て何、何をするんですか。期待値メーターが振り切れそうなんですけど
「妹さんの自転車、あれブレーキが調子わるそうだから治すよ、工具とかある」
一気にメーターはダウンするのだった
「お父さんの使ってたのがあるけど」
「使ってたのって」
「うん、病気で亡くなってるんだ」
「そう」少し声のトーンが落ちるが僚の瞳は変わらない、同情心という目の曇りもない。
留美子は安心した、この人は他の人と違う、
月並みな同情なんていらないと普段から思っている留美子。
「ああ、やっぱりブレーキワイヤーが錆びてる」と言いながらサンドペーパーで磨く、「あとはブレーキの調整してと」
つぶやきながら優香里の自転車を調整していく僚の背中をみる青井親子。
「お母さん、今日の晩ごはん何」
「肉じゃが」
「たくさん作ったの」
「うん、作り過ぎちゃった」
「お母さん、ありがとう」
「よかったねお姉ちゃん」
「晩ごはん誘うぞ」
「「そうして」」母と優香里の声は重なった。
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