第9話ハンバーガーもう一つ
僚の指導は親切丁寧だった。留美子もまったく自転車に乗れない訳でもなかった、小学校、中学と徒歩で通学、友人宅へも歩きだったので自転車に乗ることが少なく自転車に慣れなかったととうこだ。今回はこの事を理由にして僚に自転車指導と言うデートに持ってきた、留美子なりのさりげない作戦だ。
「もっと腕の力を抜いて」
僚が留美子の腕に力の入ったところを自然に掴む。「ここに力が入いりすぎなんだ、それと見線が近づきすぎ、もう少し遠いところを見ながらペダル漕いだら車体も安定するから」
「うん、わかった」と答えながらペダルを漕ぐ留美子、後ろから荷台を押す僚。
これよ、これ。自転車あまり乗れなくてよかったよー、それにペアの服そう。傍目からみたら完全なカップルじゃん。妹よ、ありがとうこころのなかで叫んだ。
でも、こころの中は完全に晴れては無い。
(峰山雪、何者なの、僚とどんな関係、どうして真や私の名前知ってたの)
モヤっとする留美子だがそれはモックバーガーでじっくり聞くことにしよう。
とにかく今は僚と二人、全集中だ。
お昼、モックバーガーにて。
留美子と僚は仲よくWバーガーを食べ終えアイスコーヒーのストローに二人同時に口を付けた。タイミングが同じだったのでどちらもクスリと笑った。うわっ、デート気分満開と目尻が下がる留美子を見ながら僚が話し始めた。「雪のことなんだけどさ」と言い出したとき、あれ、あれあれ。僚の瞳から怖さが消えてる。いつもなら少し目つきが悪くてなんとなく取っつきにくそうでクラスでも浮いてて、それが幸いして、真と留美子二人で他の女子からガードしやすかったんだけど。ただ二三人の女子からは何故か親しそうに話してたっけ。僚をガードするばかりで僚の事あまり知らなかったな、ただ女の子を守る人だということは間違いないけど。これは僚のこともっと知るチャンスだ、聞く方に回ろうと留美子の直感が頭の中を走った。
「雪は家が隣同士の幼なじみなんだ、ちいさいころからよく遊んでて、でも」
「でも」
「心臓が弱くてさ、中三の時、手術したんだ」
「手術て」
「うん、手術は上手く行ったけど長く休んでたんだ、それで高校受験出来なくてさ、一年遅れてこの春から南山高校に入学したんだ、
雪がどうしても南山高のセーラー服に憧れててさ、今日も嬉しくて着てきたんだ、この一年間、雪に受験勉強教えてたんだ」ポツリポツリと僚は続けて言う。「受験勉強教えてたら雪が時々不安になってさ、そんなとき俺に親切にしてくれる真や留美子の話しになって、きみたち二人といるとき俺なんだか楽しくて、いい人たちだから高校受かったら仲良しになってもらえたらいいねて話したんだ、雪、一年間休んでたんで友だちが来ても学校の話しばかりされて寂しかったんだろうな、今日の事話したらどうしてもついてくるて聞かなくて、留美子には悪いかなと思ったんだけど連れてきたんだ」僚は話し終えアイスコーヒーのストローを口にくわえ一気に吸い込んだ。
僚の話しを聞き終え留美子は答えた、「僚のバカ」「え」「バカバカ」と留美子は続ける、どこまでも女の子を守る人なのあなたって人は。正直、女子て私だけを守ってくれる人が一番なのに、たくさんの女子守ってと。
少し頭の中を整理しなきゃ。まてまて、留美子。
さっき僚の目が変わってたのって私と真といて楽しくて僚はいつの間にか目が優しくなったから、それを心配して雪さんが私を観察に来たのかも・・・
ええい、留美子さんらしくないぞラ新学期からは試合開始だ、おかっぱ新ライバルだぞ。
「あのさ、僚」
「なに」
「とにかく、ハンバーガーもう一つおごれ」
そのころ真は映画「鬼滅の出刃包丁」を峰山雪と見ていた、手をしっかりと握られて。
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