第8話よくやったおかっぱ

「この春から南山高校に入学します、いつも僚兄いからお二人の話し聞いてます」峰山雪は風ではためくスカートを押さえながら一礼した。何、僚兄いて、僚の妹?。

困惑顔の留美子を察し僚が話し出した。

「いや、雪は俺たちと同じ年なんだ、中学の時に心臓の手術して一年間休学してたから」続けて話そうとすると「話し長くなるから、それに真さんも見てるし」雪はそう言って後ろを振り向くとその向こうには真壁真が電信柱の影からこちらをうかがっていた。隠れるならもっと他にあるだろうに。


「そうだな、話し長くなりそうだから、とにかく公園に行こうルミ、その自転車だろ」

玄関脇の赤いママチャリを見やる僚。

あれ、いま留美子じゃなくルミて呼ばれた、あれあれ、嬉しいけどなにかモヤっとする。峰山雪のせい、それにおかっぱもついてくるの、二人きりのデートだったのにい

・・・


峰山雪は嬉しそうに僚の横ではなく留美子と真の真ん中を歩く、真は腕組みされていた。留美子は自転車を押していたので峰山雪の横顔をちらちらと見る。身長は少し留美子より高い、整った顔立ち、切れ長な目だが微妙に垂れてそれが美人をアピールするのではなく人から好かれそうな感じにしている。髪は艶やかに腰まで伸び、日の光に輝いている。一番の特長は肌の白さだ、少し病弱な雰囲気をかもし出している。


くっ、勝てるか留美子は自分のこころうちでつぶやいた。

しかし、「えー、死滅の出刃包丁見に行く途中だったの」と雪の声が上がる。「うん、それで、南山まで来てたんだけど」それ以上は言うなと留美子の眼力が真を刺す。

「私、行きたい、僚兄い真さんと今から行ってもいい」後ろからついてくる僚に振り向いて言う。「マコがじゃまじゃなかったらな、マコ頼めるか」ええー、マコ、マコて呼ばれた、頬を染める真だった。「うん、いいよ、僚が頼むならなんでもきく」真なりにも僚が頼むならと精いっぱいの虚栄心を張る。

「お願い、真さん私あのアニメ大好きなの」

「だから、良いって」

「帰りはどうする」と 僚。

「真さんとお昼して先に帰る」

「躰は、大丈夫か」「大丈夫大丈夫、もう高一になれたんだもん、心配しないで」

「なにかあったらすぐ練習するんだぞ、それとマコ、雪のことよろしくたのわ」

「大丈夫です、帰りも一緒だし」

マコと呼ばれたのがよほど嬉しいのかテンぱりながら責任感ある声で答える真。

それじゃ映画館はこっちだからと踵を返し真と雪は腕を組みもと来た道を引き返す。


よくやったおかっぱ。

二人きりのデートだ、留美子の目尻はさがり

もう一度こころのなかで叫んだ

よくやったおかっぱ。

 

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