第3話青井留美子
二学期の中間テストのときだった、青井留美子は問題に集中出来ない。
(ダメだ、今回は全滅するな)とつぶやきながらため息を漏らしていた。
春、南山高校に入学した留美子は部活選びで迷うことなくテニス部に入った、目的は二年生の先輩、中尾裕介(なかおゆうすけ)だ。
裕介はラブコメ定番のイケメンだ、高身長に甘いマスク。コート内を駆ける姿は女子部員を魅了させていた、フェンス越しにはいつも何人かの女子たちが裕介見当てに見学している。
時々フォームのアドバイスを女子部員にしていて留美子も何回かアドバイスをもらっていた。ただそれだけで幸せな留美子だったが二学期が始まったとき、「ミックスダブルスの練習試合しようか」と裕介先輩から突然言われた。突然のことでパニクりながらも裕介先輩とコートに入り練習試合。
裕介のリードでは試合には勝てたのだが、後から他の女子部員たちからの風あたりが強くなった。「まだ一年なのに目立ってさ」
「少し上達したからってねえ」とか「裕介の優しいの勘違いしてる」とその日の練習後、部室で着がえるときにヒソヒソと言われたが留美子は裕介とペアで試合したことで予想内のことだ、これを乗り切らないと、こんなことぐらいでテニス辞めたりしたら自分らしくない。それより夏休みに頑張って部活に参加した自分へのご褒美だとまっ黒に日焼けした腕を眺めながらやり過ごした。
(告白したい)と留美子の心のうちに火がともったのもその日からだ。
練習試合したその週の終わり、たまたま帰りが中尾裕介と一緒になった。
「夏休みの練習よく頑張ったね」
「あたりがとうございます」テンぱりながら返事する留美子。
「青井さんはさバックハンドが上手いよ」
「そんなかことないです、もっと上手い女子先輩方についていかないと」
テクテクと二人は商店街を歩く
少し沈黙が流れたあと唐突に「俺ひとりぐらしなんだ、アパートの部屋に寄っていく」と裕介は言う
ええー、ひとりぐらし、それって部屋で二人きりでと迷う留美子、困惑顔を隠せない。
「商店街抜けて少し行ったところだよ」と爽やかに言う。
返事に迷いながら商店街を抜けたとき後ろから「裕介」と女子の声が。
振り向くとショートヘアを茶髪にし少し化粧した女子が留美子を睨んでいた。
え、と思う間もなく「また、浮気」と詰め寄ってくる。
「いや、その帰りが同じだから送ってただけだ」と「本当」「うん、本当」と困った顔しながら返答する裕介。
「じゃ、そういうことで」とさっさと裕介の腕を引っ張って茶髪は去っていった。
留美子は勘がいい、今の出来事で一瞬に自分の置かれた立場と中尾裕介という男がどんな男かと理解していた。
(なんだ遊び人に遊ばれるところだった)肩を落とし商店街を抜け右へ、家路へと走りだした。
力なく部活に出て、帰宅して部屋に閉じこもる留美子。そんな二学期を過ごしていたらもう中間テストの時期だった。
勉強も集中できていない、「部屋にこない」とさらりと言う裕介。所詮、身体目的かとため息をつく。男なんかみんなあんなのかなとついついクラスの男子に目をやる。
なんだか悲しい気持ちのまま中間テストが始まった。
集中できていないと問題にとりかかりながらつぶやき消しゴムを取ろうとしたときコトンと消しゴムが机から落ちた、あわててゴトンと椅子を引き消しゴムを拾あおうとしたとき
「カンニング」と誰かが言った。一瞬クラスのみんなが留美子のほうに向いた。
やだ、涙でそう。
先生も留美子を見やる。
沈黙する教室内
「消しゴムが落ちただけだ」と低いけどハッキリした声がすぐ後ろの席から教室内に響いた。教室内はまた元に戻り、何事も無かったようにシャーペンをはしらせる音だけが流れた。
ありがとう、後ろの人。涙一粒こぼしそっとぬぐうと気持ちが落ち着き留美子は問題にとりかかった。
えっと後ろの席の男子て名前なんだっけ
高、高橋くんだあとでお礼言わなきゃ。
留美子はシャーペンをはしらせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます