第122話 イルマルガリータとの約束
理解できる。
ユリウスは、この神王国ロードスのただ一人の王太子なのだ。
フィルメラルナの〈聖見の儀〉には、現国王も体調不良で出席できなかったはず。
その上、次期国王となるユリウスが自室に閉じこもり、伏せている状態は非常に危うい。
一時的ならば許されるだろうが、どうやらあの日以来ずっと、ユリウスの体調は良くないようだ。
ミランダが心配するのは、思ったように回復が見込めない状態だと踏んだからなのか。
「わたしには何の力もないわ、何ができるというの?」
とはいえ、フィルメラルナに協力できることなど見当がつかない。
「まぁ、物分りが良い神妃様で助かるわ」
赤味がかった茶色の髪を弄りながら、ミランダはすっと目を細めた。
「イルマルガリータが死んだという、証拠が欲しいの」
「それなら歴史棟に行けばいい、彼女の首が届けられたと聞いているわ」
「そうじゃないのよ。そんなのわたくしもユリウスも、とっくに知っているわ。でもあの頭部がイルマルガリータだなんて確証はないの。容姿が似てる女なんて山といる。聖痕だって偽造できるわ。だから、そうではなくて……ユリウスは生前のイルマルガリータと約束をしていたのよ」
「約束?」
「イルマルガリータは自分が死んだら、その体を――ユリウスに与えるって。彼女自身からの申し出だったわ」
ぞぞぞぞ、と背筋を悪寒が走り回った。
これは――イルマルガリータの力が、確実に関与している。
これまで幾度となく振り回されてきた運命の糸。
その一糸に違いない。
「首がないその体を手に入れたところで、イルマルガリータだとどうして分かるのか……疑問でしょうけれど。ユリウスには分かるようになっているらしいわ。彼女の死を乗り越えられなければ、ユリウスは永遠に立ち直れない。それでは、神王国の未来は真っ暗。だから、ね?」
この国を救うため、と鳶色の髪の下で、ミランダの瞳が寂しげに揺れた。
「わたくしにとっても……イルマルガリータは親友だったのよ。どこかで生きていてくれる、もしかしたら死を偽って、自由を手に入れたんじゃないかって願ったりもしたわ。でも、あなたの額の聖痕を見た瞬間、彼女の死を感じたの。だから、わたくし自身も、彼女の死を受け入れるために必要なのよ」
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