第123話 未来のために

 ミランダははっきりと、イルマルガリータの体が必要なのだと告げた。


 それは、彼女の故郷にあるのだという。



 赤子の頃、イルマルガリータが発見された村なのだと。



「誰かに代わりに行ってもらおうだなんて、考えてはダメよ。間違っても、歴史棟のヘンデル・メンデルなんて胡散臭い、魔導師みたいな目録士に相談してはいけないわ。神妃の印を持つものにしか、彼女の体は手に入らない。わかるでしょう? あなただって神脈が見える目を持っている。ハプスギェル塔を解放した力だってそうだったのでしょう。だからイルマルガリータを見つけ出すのは、彼女と同じ力を継承しているあなたしかいないのよ」


「でも……わたしは、自由に神殿を出られないわ」



「そうね。でも、あなたには素敵な騎士がいるじゃない」


「え……」



 一瞬、アルスランの顔が脳裏をよぎった。


 次いで、フロリオの姿も。



 いったいこのミランダという王女は、何を知っているのだろうか。


 そうフィルメラルナが身構えたとき。



「あなた、なかなか良い反応をするのね。ふふふ。神殿騎士卿エルヴィン・サンテス。知っているのよ、先日二人で、城下に遊びに行ったのでしょう? いいわね、仲が良くて」


「そういうわけじゃないわ」



 ほっとフィルメラルナは胸を撫で下ろした。



 エルヴィンならば、神妃と騎士卿という間柄……いや、一応婚約している関係なのだ。


 万一、城下へ連れ立った秘密が漏れたとしても、アルスランやフロリオよりは弁解の融通が効くだろう。



 しかし、どういう耳をしているのか知らないが、かなりこの王女の元には情報が集まってくるらしい。



「まぁいいわ。あの頭の固そうな神殿騎士卿を動かすのに、もう一つ有力な情報をあげる。彼は絶対にあなたに協力するわ」



 確かに。


 城下へ行くのとは訳が違うのだ。



 神殿や王宮から出たいなどとフィルメラルナが訴えたところで、とても聞き入れてはもらえないだろう。


 神妃解放党の動きも懸念される今、より一層難しいだろう。



 しかし、あのエルヴィンを動かせる、どんな情報があるというのか。


 フィルメラルナには全く検討がつかない。



「それに――あなたも知りたいのでしょう? イルマルガリータの秘密を」



 その通りだった。


 ミランダの言う通りだ。



 自分はイルマルガリータが抱える秘密を、知らなくてはならない。


 この先進んで行く、未来のために。


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