第109話 気になる相手ほど

「彼とはお知り合いだったのでしょうか? 王宮近衛騎士の新人であるようでしたが」



 司祭館へと急ぐフィルメラルナに、追いついたエルヴィンが問いかけた。


 両目に滲んだ涙が頬へと落ちそうなところで、ぐっと袖で無造作に拭きながら答える。



「ガシュベリル領の……領主の息子フロリオよ」



 すっかり忘れていたが、今思い返してみれば、あのあと騎士となったフロリオが王宮にいるのは当然なのだ。


〈聖見の儀〉に現れた新しい神妃の姿を見て、どんな思いを抱いたことだろう。



 フィルメラルナが消えたあの日から、町でどんなことがあったのか、彼に問うてみたい気もした。



「あなたのことを、よく知っているようでしたね」


「幼馴染だったの――ちょうどわたしが神殿に連れてこられる前に、彼は近々王宮に出仕する予定だと言っていたわ」



 求婚されていたという話はしない。


 フロリオはしつこくて面倒臭い人だと思っていたけれど、根は決して悪い人ではない。



 無闇に彼を巻き込んで、せっかく次期領主としての実績を積みに出た仕官先で、問題を起こして欲しくはないのだ。


 フィルメラルナの積もる話を聞いてくれるとしたら彼だけだと思うから、近づきたい気持ちもあったけれど。


 今は彼を守る方を優先した。



「あの様子では、彼はあなたを諦めないでしょう」


「そんなことはないわ。年が近かったからよく遊んだ仲だけれど、彼はいつもわたしに嫌なことばかり言ってた。だからすぐに忘れると思う」



「子供は気になる相手ほど、かまいたくなるものですよ」


「……え」



 フィルメラルナは目をパチパチと瞬いた。


 エルヴィンは、フロリオの気持ちを見通しているようだ。



 それに。


 彼のように騎士の頂点を極めた者でも、子供の頃はそうだったと言うのだろうか。


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