第93話 神が記したシナリオ(エルヴィン)
「――で、あの嬢ちゃんがそう言ったのか?」
神殿騎士団長グレイセスは「うむむむぅ」と唸った。
制服を脱ぎ捨て、疲れた体で冷水を煽る。
額の汗も無造作に手巾で拭いて、ディヴァンヘと投げすてた。
「グレイセス、その呼び名はやめろ。正式に〈聖見の儀〉で神妃としてお披露目されたのだ。フィルメラルナ様とお呼びしろ」
「長ったらしいんだよ、その名前。お、そうだ、エルヴィン。今度嬢ちゃんに愛称を聞いておいてくれよ」
「無礼もいいかげんにしろ」
広場で起こった混乱を、なんとか収束させた神殿騎士と王宮の近衛騎士は、各々疲労困憊して本来の持ち場へと帰って行った。
エルヴィンも疲れ果てているところだが、どうしても気軽に話せる相談相手が欲しくて、グレイセスの詰所に雪崩れ込んでいた。
先日のフィルメラルナとの会話について、ずっと気になっているのだ。
エルヴィンも銀髪を搔き上げ、制服の襟を大きく緩める。
疲れた長い溜息を零しつつ、グレイセスの向かいのディヴァンへと腰をおろす。
机の上に用意されたグラスに自ら水を注ぎ、喉を鳴らして飲み干した。
「フィルメラルナ様がおっしゃるには、メルハム教会でイルマルガリータ様にお会いなされた際、《ミル》という名を耳にされたそうだ」
「ミルか――ありきたりの名前だな、いやまぁ愛称だろうけど」
「あぁ、しかし偶然とも思えない」
「といっても、彼女が失踪したのは、イルマルガリータと同時期じゃないだろ?」
「それはそうなんだ、しかし」
「? なんか気になることがあるのか?」
「私は……この一連の事件は、突発的に起きたことだとは思っていない」
すべて――そう、すべては仕組まれていた。
それこそ綿密に。
時期もタイミングも何もかも、誰かが描いた末来図のように。
まるで、神が記したシナリオのように。
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