第81話 探せ

 エルヴィンが去った部屋で、フィルメラルナはひとり考えていた。



「わたしは……いったい」



 誰なのだろう?



 確かにあったはずの家族も思い出も、両手から滑り落ちていく砂のように、少しずつ希薄になっていく。



 あまりにもあっけなく消えていく現実に翻弄され。


 これ以上、過去の生活に、家族に、自分に、縋り付くのも無駄な気がした。



 もちろんいつかは自ら故郷に帰って、そして真相を確かめるべきだとは思っている。



 けれど、今。


 もっと優先して知るべき何かがあるはずなのだ。



 思い立ったようにディヴァンから立ちあがり、フィルメラルナは鏡台へと近づいた。



 それは、直感に近いものだった。



 腕をあげ、鏡の角度を変えてみる。


 心のままに、右へと少しずつ傾けていく。



 と、鏡面に映った壁の絵、その額縁に隠れるようにして、白いものが挟まっているのが見えた。


 鏡を向けたこの角度だからこそ目に入るように、巧みに隠されている。



 ――彼女の伝言だ。



 以前、〈再生の塔〉を示唆したあの時のように。


 何らかのメッセージがあるに違いない。



 壁と額縁の間から紙を引き抜き、そっと開いてみる。




『真実を探せ』




 イルマルガリータ。


 彼女の真の姿を。


 探さなくては。




 そのためには――。


 もう少し、自由に動ける状況が必要だ。


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