第52話 軟禁されて

 蒼玉月――。


 いったいあの美しい月に、何があるのだろうか。



 エルヴィンもヘンデルも、なぜ二人が同じことを聞くのか。


 どうして、数週間に一度巡ってくるあの月を気にするのだろうか。



 確かに月はこの星に干渉し、そこへ住まう人々と無関係というわけではないのかもしれない。


 しかし周期的に起こる現象を、わざわざ二人揃って口に出すとは。



 それも、仲が良いとは到底思われない彼らが揃って口にするなど。


 どんな理由があるというのだろう。



 そう疑問に思いながら過ごした一週間後。


 フィルメラルナの心配をよそに、蒼玉月は夜空に煌めき、さめざめと美しいコバルトの光を夜闇に落とす。




 ヘンデルに会った数日後から、フィルメラルナは自室に閉じ込められてた。


 出席を約束された儀式すらも、なぜか出る必要はないと言われ、実質軟禁状態だ。



 侍女を捕まえて質問してみるも、目を合わせず「お許しください」と言いながら、そそくさと立ち去ってしまう。


 これまでもそうだったが、今はもっとその態度に拍車がかかっているようで、みんな恐怖に顔をひきつらせていた。



「そういえば」



 あの日も蒼玉月が煌めいていた。


 メルハム教会の神父様に薬を届けに行き、そして……イルマルガリータに会ったあの夜だ。



 そうだ。



 神妃の傍に寄り添っていた女性、彼女は誰だったのだろうか。


 ひどく泣いていたようだった。



 まるで……これから何か恐ろしく悲しいことが起こるのを、知っているかのように。


 神妃の御前でも憚りなく泣くのが許されていたのは、イルマルガリータにとって、彼女が特別な存在だったからなのだろうか。



 神妃の髪を切り、ヘンデルの元へ送ったのは、お気に入りの侍女だったという。


 ならば、あの泣いていた女性なのだろうか。



 分からない、今の自分には何も分からない。


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