第42話 宝石みたいな月

「彼の処遇について、努力はしてみましょう。ですが、流石に無罪放免ともいきますまい。少なくとも、しばらくの拘留は免れません」



 フィルメラルナはこくんと頷いた。


 それならば仕方がない。


 神妃の部屋に、イルマルガリータではない人物がいたことを口外されないように、という思惑もあるのだろう。



「それから、ついでという訳ではありませんが、ひとつご連絡が。お父上との面会が、遠からず叶うかもしれません」


「え、父さんに?」



 思いがけない言葉に、フィルメラルナは愁眉を開いた。


 昼間の感じでは、まだまだ先になるような感触だったから。



「取調べが完了したわけではありませんから、おそらくは少しの時間だけとなるのでしょうが」


「それでもいい。あの……その……ありがとう」



 なんだか意味もなく、急に恥ずかしく感じてしまい。


 フィルメラルナは視線を落とした。



 そんな彼女に何を思ったのか、エルヴィンがじっと視線を注ぐ。


 まだ見ている。



 すごく居心地の悪さを感じて、降参したくなった頃。



「つかぬことを伺いますが……蒼玉月を、あなたはどう感じられますか?」



 彼の重い口を突いて出たのは、またしても予想外の言葉だった。



「急に何を――」


「いえ、かの月を嫌う者もいますので」



 ああ、とフィルメラルナは思う。


 確かに、蒼玉月の光で体調を崩す人がいると聞くからだ。



 神が人を試すための御光みひかりだという伝承もあるが、何がどう影響を与えるものか解明されてはいない。



「宝石みたいで、綺麗な月だと思うけれど?」



 数週間に一度訪れる蒼玉月。


 コバルトのような青い月を、フィルメラルナは嫌いではなかった。



「……そう、ですか」



 期待はずれの返答だったせいなのか。



 なぜかエルヴィンは、瞳の端に猜疑の色をほんの僅かに見せた。



 けれど。



 それ以上、蒼玉月について何かを語ろうとはしなかった。


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