第14話 婚約者?
「でも、わたしは――」
普通の町娘であるフィルメラルナには、神妃が大神殿で行う儀式についての知識など皆無だった。
けれど。
そんな無知な娘でも、聖痕を持つ聖女の祈りが、世界にとって必要不可欠なものであることだけは知っている。
〈祈祷の儀〉というのは、それなのだろう。
「あぁ、それから。銀髪の美青年はエルヴィン・サンテスと言う名の神殿騎士卿どのだよ。彼は、現神妃イルマルガリータの婚約者でもあるのだけれどねぇ」
「婚約者?」
「そう。神妃は王宮と神殿が選んだ神殿騎士卿と共に、神殿内を流れる神脈へ、祈りを捧げなくてはならないのだよ。まぁ、今回のようなことは、長い歴史の中でもただの一度もなかったことだから、今後どうなるのかは分からない。だけど、今から君の年齢に見合った新しい神殿騎士卿を選んで育てるというのも現実的じゃぁないし、幸いなことに、エルヴィンと君は年齢の釣り合いも悪くはなさそうだ。何も問題なければ、このまま君の婚約者になるのだろうねぇ」
「問題ありです。大ありです!」
いったい何の話をしているのか。
それに、恐れ多くも神殿騎士卿を再利用などと、軽々しく言い切るヘンデルに驚愕する。
「勝手に決めないでください。わたしはすぐに家へ帰るんです。それに、父さんを脅したあの人と、わたしは絶対にうまくいきません」
「そうだねぇ、彼にとっては再婚みたいなものだし」
「は?」
「ま、それは若い者同士、適当に合わせていけばいい」
見た目からしてさほど年上でもなかろうに、ヘンデルはやはり軽く流してしまう。
フィルメラルナの意見など何処吹く風、彼の耳には少しも残らない。
「そういうことで、〈祈祷の儀〉の少し前に迎えにくるから。君はきちんと食事を摂っておくんだよ。祭壇で神妃の腹が鳴っては洒落にならない」
「え、ちょっと待って……」
引きとめようと再度伸ばした腕は、今度は袖を掴むことなく空振りする。
非常に事務的な内容だけを置き去りにして。
ヘンデルという名の目録士は、さっさと部屋を出て行ってしまった。
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