第38話
あの後、どうやって家に帰ったのか覚えていない。気がつくと自分の家で寝転がっていた。多分、歩いて帰ってきたのだと思う。
門戸さんから何か叫ばれていた気はするが、全く思い出せなかった。
「……朝か」
カーテンのない窓から澄み渡った青空が見える。
おもむろにスマホを掴み、時間を確認する。既に9時だった。
「遅刻……もう休むか。あ、通知……陽乃だ」
内容は『今日は休むの? 彩奈ちゃんも来てないよ』というもの。
どうやら星宮も休んでいるらしい。当然か。あの様子だとしばらく休むだろう。
「……」
星宮の両親は自殺していた。
なぜ自殺したのか。
それは、オレの家族を殺したから。
いや殺したという言い方は適切ではないだろう。
交通事故なのだから……。
そう分かっていたとしても心の整理ができない。
だからと言って星宮を恨んでいるわけではないのだ。星宮は関係ない。
関係ないが……納得できない。
なら星宮にどうなって欲しいのかと聞かれると、それも分からない。
どこにもぶつけようのない負の感情が胸の中でグルグルと渦巻く。
「なんなんだよ…………」
もし星宮の両親が生きていたのなら、怒りをぶちまけることもできたのだろう。
しかし、既に亡くなっているのだ。この感情はどこに向ければいいのか……。
「一人になるの、久々だな」
横になって目を閉じる。もう何も考えたくない。
今の現実を拒絶するように、オレは意識を夢の中に落としていく。
○
「……だる」
目が覚めると昼頃になっていた。
この状況でも腹は減るらしい。起きるなり腹の虫が騒ぎ出す。
「なにか、あったかな」
オレは緩慢な動作で起き上がると、冷蔵庫の中を覗きに行く。残念ながら何も入っていなかった。星宮の家に泊まりに行く前に、綺麗に整理したことを思い出す。
「……もういいか」
全てに対して無気力。全てのことがどうでも良くなる。……いや違うな。
意識的に自分の心を殺そうとしている気がする。
そうでなければ、気が狂いそうだ。
オレは星宮が好きだと自覚した直後に、真実を知り、封印していた記憶を蘇らせてしまった。
「……あーくそ。なんだよ、くそ」
何故か涙が溢れてくる。久々に流す涙はとても熱く、頬が火傷しそうに思えた。
いつも……いつも、そうだ。
順調に思えても必ず何かが起きる。運命というやつは、すんなりと幸せな道を歩かせてくれないのだ。
「やっぱオレの人生、クソだな」
陽乃に振られた時は、まだヤケクソになれる気力は残されていた。
でも今は……自殺したいと思えるだけの気力すらない。
「今、星宮はどうしてるんだろ」
あれだけ泣き叫んでいたのだ、きっと今も辛い思いをしている……。
「星宮と出会わなければ……っ」
いっそのこと星宮を忘れてしまえば、今の苦しい思いから解放されるのだろうか。
せめて星宮に抱いてしまったこの想いだけでも消し去ることができれば……!
いつまでその場で悩み苦しんでいたのか、呼び鈴が鳴らされた。無視しようか悩むが、結局出ることにする。玄関に向かい、ゆっくりドアを開けた。
「あ、リクちゃん! って寝癖すごいね……おはよう、かな?」
「……陽乃?」
「うん私だよ! リクちゃんの大切な幼馴染が遊びに来ましたっ!」
いつもと変わらない、太陽のような明るい笑顔を浮かべる存在が――そこに居た。
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